スー女が目撃 E-girlsライブに参戦した力士の恥じらい

スー女が目撃 E-girlsライブに参戦した力士の恥じらい

貴乃花部屋の貴ノ岩

 相撲ブームが沸騰している。そこで、「謎のスー女」こと尾崎しのぶ氏が相撲コラムを執筆。今回は彼女が実際に街中で目にした力士たちのプライベートにまつわるエピソードを紹介する。

 * * *
 丸ノ内線に乗ると、貴ノ岩を思い出す。八年前の夏。居眠りをしていると、甘いにおいがしてきた。見回すと、車両の遠くに浴衣の男がいた。おお、力士だ、と目が覚める。丸ノ内線を利用すると思われるのは、南阿佐ヶ谷の放駒部屋か中野新橋の貴乃花部屋。今は中野坂上駅を出発したところである。方南町からの丸ノ内支線を乗り継いできた貴乃花部屋の力士であろう、と推理する。

 彼はまだ髷を結えないザンバラ髪だった。一月発行の名鑑で短髪の力士をさがす。候補は二人。まず貴天秀を見る。この丸顔ではなかった。もう一人を見て、にやりとしてしまう。バーサンドルジ。土俵では知っていた貴ノ岩。そう、この岩のような輪郭、浴衣に包まれていてもわかる岩のような身体だった。

 弟子の携帯電話の所持については、各部屋の師匠にゆだねられているという。貴乃花部屋での規則も、当時三段目の貴ノ岩が携帯電話を持っていたのかどうかも知らないが、電車の中ではメールなのかゲームなのか携帯電話をいじくりまわしている若者がほとんどの中、彼は正面を向いて吊り革をにぎっていた。そのまっすぐな背中を、今も忘れられない。

 力士は、姿が見えてくる前ににおいで近くにいるとわかる。日曜の銀座中央通りの歩行者天国で、甘いにおいがしてきた。その方向を見て「なんでよ!」とのけぞった。ずり上がりそうなニットキャップを懸命におさえる千代大龍がいた。ハーフパンツにクラッチバッグで、いそいそと教文館書店の横を有楽町側に曲がっていった。

 幕内力士にしか着用の許されない染め抜き、そしてちょん髷で千代大龍が銀座を闊歩したなら「お相撲さんはやっぱりすてきね」と歩行者天国中の視線を独占していたであろうに。

 去年の五月、原宿駅に降り立つと人であふれていた。女の子たちが「EG」と書かれたTシャツを着ていて、国立代々木競技場で行なわれるE-girlsのコンサートへの観客だとわかった。そんな中に彼女たちのフルーティーなコロンとはちがうにおいがしてきて、その発信元をたどる。思った通り、力士がいた。

 下駄を履いていたから、序二段以下だったと思われる(雪駄は三段目より)。本場所後の一週間程度は、比較的自由に過ごさせる部屋が多いと聞く。先日、五月場所が終わったばかり。三人の力士がうつむき、背中を丸めて大汗をかきながら、話していた。

「な、なんか、ダッセーよな、俺たち」

 そんなことはない! と肩をたたきたくなった。あなたたちはかっこいい。普通の男の子たちではとても着こなせない浴衣と下駄、そしてちょん髷なのよ! 自信を持ってください! と思った。しかし、大好きなアーティストのコンサート、それを観賞するのならこちらも最もきちんとした装いでいなければ、との心意気がまぶしく、胸がつまってしまい言えなかった。

 それまでE-girlsは、ミニスカートでぷりぷりお尻を振っているだけのグループだと思っていた。しかし三人の力士がファンであることから、テレビに映ると目がいくようになった。Ayaというメンバーが、力のこもったステップを踏んでいる。

 調べてみると、十五歳、二〇〇二年にダンスグループ「dream」に加入したものの不振により事務所を移籍。そこにもやがて解雇され、木造アパートで共同生活をしながら路上ライブを行なっていたという。その不遇に耐えて、十四年後に大きく華やかなステージに立っている。苦労の染み付いた、味のある笑顔を見せてくれる。

 あの三人の力士が誰だったのかわからないから、この一年の成績は知りようがない。しかし、あせらなくていい。Ayaを見つめれば、自分を信じること、あきらめないことの大事さに気付くはず。

※週刊ポスト2017年6月2日号

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