角居勝彦調教師 進化する種牡馬と血統の面白さ

角居勝彦調教師 進化する種牡馬と血統の面白さ

角居勝彦調教師が血統について語る

 春のGIシリーズも一区切り。競馬場に夏の気配が漂うこの時期は2歳新馬戦の季節だ。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、進化する種牡馬について解説する。

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 今年も多くの新種牡馬の子がデビューします。なかでもオルフェーヴルとロードカナロアは、ターフで圧倒的な強さを見せた名馬。産駒がどんな競馬を見せてくれるのか楽しみでなりません。

 角居厩舎の馬ではヴィクトワールピサやカネヒキリの子がすでにデビューしていますが、他の厩舎から出てきてもうれしいものです。なにか自分の子供のようなイメージがありますね。同時についこの間まで競馬場で走っていた馬の子供たちが競馬場でレースをすると思うと、本当に月日が過ぎるのが早く、いつのまにか歳をとってしまっていることを感じます。

 競馬はブラッドスポーツといわれます。距離適性、芝向きかダート向きか、早熟なのか晩成なのかなどなど、馬の特徴に血統背景が色濃く顕われます。

 調教師にとっては、それが若駒育成の参考になるわけです。しかし私は「この血統の馬は、こうつくる」という決めつけをしたくない。好みの血統もありません。馬の能力の多様性を狭めたくない、という意識もありますが、決められた路線を進むのが面白くないからです。

 今の時代なら、サンデーサイレンス(以下SS)の最高傑作といわれるディープインパクト産駒が好結果を期待できるのでしょうが、むしろ新しい血統を手がけてみたいと思っています。

 角居厩舎での初めてのサンデーサイレンス(SS)産駒は、1999年生まれの牝馬、カナダ年度代表馬の妹・トリプレックスです。諸事情があって預からせてもらうことになったのですが、当時はまだ開業したばかりで「こんな名血を、どこの馬の骨とも分からない調教師に」などといわれて凹んだものです。それでも3歳秋にはローズS4着など、ある程度の結果を出すことができました。繁殖牝馬として、今年ダービーにも出走したダイワキャグニーなどを産んでいます。

 当時SS産駒が預けられるのは名門厩舎に限られており、別格の存在でした。しかし、ご縁が多くなかったことは、新規開業厩舎にとってはかえってよかったかもしれません。藤沢厩舎での研修中にスティンガーを見たとき、キレキレの馬体で扱いが難しそうな印象を受けました。

 そういう馬がどっしりといると、厩舎としてはどうしても慎重になりがちです。若いときの「なんでも、思い切ってやってみる!」という血気盛んな気持ちに、ひょっとしたらブレーキがかかっていたかもしれない。

 父親だけでなく、母親の血統を辿っても面白い。角居厩舎でいえば、2005年のオークスを勝ったのがシーザリオ(父はスペシャルウィーク)。2010年にそのシーザリオとシンボリクリスエスの間に生まれたのがエピファネイア。2013年にキングカメハメハとの間に生まれたのがリオンディーズで、ともにGIを勝ってくれました。スペシャルウィークはSS産駒ですから、シーザリオの相手にはSSが入っていない種牡馬をつけたわけです。

 こういった配合は、調教師が関与するところではありませんが、競馬の面白さを実感できるところです。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。

※週刊ポスト2017年6月16日号

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