角居勝彦調教師 芝→ダートへの「ダート替わり」について

角居勝彦調教師 芝→ダートへの「ダート替わり」について

角居勝彦調教師が「芝→ダート」を語る

 常に脚光を浴びる芝GIに対し、ダート戦は地味な印象だが、近年は地方交流戦の充実で注目度が高まってきた。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、ダート替わりのタイミングについて解説する。

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 愛馬にはやはり芝を走らせてやりたいというのが、馬主さんの偽らざる思いであるというのが前回の話。今回は芝からダートへの「ダート替わり」についてです。

 芝である程度キャリアを積んだ馬がダートを走るきっかけは、やはり「頭打ち」。戦績をたどれば分かりますが、けっして最終手段的な悲壮感溢れるものばかりではなく、ポジティブな考え方もあるように思えます。

 たとえば「同じリズムで長く脚を使えるタイプ」という評価の馬。言い換えれば、そこそこ前に付けられるけれど、ワンペースで最後の詰めが甘い、勝負所でギアが上がらず、掲示板がやっと、という馬。騎手にしてみれば、あとひと踏ん張りすれば勝てるのに、という思いがあり、陣営に進言することもあるようです。もどかしい思いを抱いているオーナーから、「ダートを使ってみては?」という提案をされることもあります。

 いずれにしても、芝でなかなか勝てないとダートに活路を見いだそうとする。「ダート使ってみたい病」(笑い)です。もしかしたら、ダートでは無類の強さをみせてくれるかもしれない―春は芝でGIを勝ちながら、秋にダート1600メートルを1分33秒3で走ったクロフネのような能力を秘めているかもしれない―調教師にもそんな希望的観測があります。

 しかし、そうはうまくいかない。芝での軽い走りに慣れてしまった馬は、砂の上でもやはり軽く走ろうとするので上滑りしがちです。つまり力を出し切れない。プラス相対的な理由。ダート路線をずっと走ってきた馬はしぶとく強くなっている。ダートで重賞を勝ち負けできるようになった馬の陣営では、もう芝に戻そうなんて思いはない。

 角居厩舎ではJC2着もあったデニムアンドルビーが21戦目で初ダート。GIフェブラリーSで16着。やはりJC2着ラストインパクトも31戦目で東海S(9着)、平安S(8着)を使った。いずれも手厳しく跳ね返された感じです。

 その他、ディープインパクトの半弟モンドシャルナも30戦目にして初ダートに挑戦しましたが最下位。一方、芝で新馬勝ちしたネオアトラクションは14戦目からダートに替わり、転向2戦目で勝ってくれました。昇級後は今ひとつですが、もう少し様子を見たいと思います。

 他厩舎に目を向けると、ダート替わりの成功例も数多くあります。たとえばアウォーディー(松永幹夫厩舎)は芝で26戦使って準OPまで出世していましたが、5歳秋にダートを走ってから6連勝でGI(JBCクラシック)馬になり、ドバイWCにも出走しました。

 印象として、古馬になってからのダート替わりはどうも芳しくないようです。馬齢的に早いうちがいいのかもしれません。「初ダートが狙い目」というのは、3歳戦までかもしれません。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。

※週刊ポスト2017年6月30日号

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