角居勝彦調教師が競馬の展開を語る 「逃げ馬がペース作る」

角居勝彦調教師が競馬の展開を語る 「逃げ馬がペース作る」

角居勝彦調教師が「展開」について解説

 レースがスローになるかハイペースになるか、「展開」のカギは逃げ馬が握っている。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、「展開」について解説する。

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 先頭に立った馬、つまり逃げ馬のペースで競馬の流れが決まる。逃げ馬がレース序盤の主役です。ハナを切るメリットは多い。マイペースで先頭を走れば、馬は気分がいいはずです。馬の本能、肉食動物の猛追から逃げるという欲求も満たされ、襲われる心配はありません。そして内ラチに沿って最短距離を走ることができる。ダート戦では砂をかぶる心配もない。なにやら良いことずくめに思えます。

 これで絶対的なスピードを持っていれば、他の馬はどうやっても敵わない。かつてのサイレンススズカがそういう馬でしたが、スタートからゴールまで主役を演じ切るのは容易ではありません。

 逃げ馬が1頭いると、後続は折り合いがつきやすい。「今日は、このくらいのペースか」と他の鞍上は判断する。他力でペースができあがり、馬は余計な力を使わずに済みます。しかもレース中盤以降、逃げ馬は後続から目標にされる損な役回りです。おまけに同じような馬がいると、ハナを争って共倒れになってしまうことになる。

 逃げ馬は調教で作るものではなく、自然とできてしまう。スタートが上手で、前に行ける馬が、ゲートを出た直後に抑えきれなくなる場合。ジョッキーはそのまま行かせてハナを切る。そのパターンのレースが続けば、逃げ馬のできあがりです。

 なにやら気ままでわがままなスタイルですが、レースをこなす中で逃げ馬も進化します。ハナを切ってから後から追い上げがくるまでは、気ままに飛ばすことを我慢してペースを守って走る。やがて後続が迫ってくるとギアを変える。そのことを学習するわけです。だから前走の内容が悪くても、「次はうまく逃げれば期待できる」といったコメントが陣営から出てくるのです。

 角居厩舎からは、逃げ馬はめったに出ません。ハナや最後尾は極端な競馬になりやすく、特にG1レースでは勝ち切るのは難しい。どんな展開にも耐えられるためには、スタートをうまく出て3、4番手につけること。前方にいることで前述のように馬は本能的な不安がなく、そして折り合いもつきやすいからです。

 先週はダービーの展開についてお話ししましたが、その日の最終レース目黒記念でも展開の妙がありました。メイショウカドマツが大逃げを打ち、向こう正面で10馬身ほど引き離す。角居厩舎のハッピーモーメント(13番人気、川田将雅騎乗)は3番手につけて、差をつめることなくじっと動かない。メイショウカドマツが大逃げを打っているからこそ、楽に追走できた。

 手応えから直線で必ずかわせる自信があったのでしょう。目論見どおり直線で先頭に躍り出ました。実は角居厩舎ではこの前の週まで13週連続勝利という記録を更新中。この土日は2着が2回あったものの、もう途切れるかなと思っていたところでした。最後の最後のレースでまさかの記録更新かと思うとアドレナリンが出まくって、ファンのように騎手名を連呼してしまいました。

 しかし、東京の直線は長い。ゴール前でフェイムゲーム、ヴォルシェーブにとらえられて惜しくも3着。しかしいい競馬でした。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。

※週刊ポスト2017年7月14日号

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