角居勝彦調教師が解説する「短期放牧」の重要性

角居勝彦調教師が解説する「短期放牧」の重要性

角居勝彦調教師が短期放牧について解説

 かつて放牧といえば、文字通り北海道などの「牧場」で、じっくり休ませることで、しばらく戻ってくることがなかった。しかし、現代競馬は「外厩」での短期放牧抜きには考えられなくなっている。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、短期放牧について解説する。

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 以前も「競走馬の居場所」に触れました。本番から遡れば、「競馬場」、「トレセンの厩舎」、「外厩」、そして「牧場」が馬にとってストレスの大きい順です。

 調教師に与えられるトレセンや滞在競馬場の馬房数は最低12馬房から、実績などによって現在は30馬房まで。おかげさまで角居厩舎も30馬房あります。厩舎が管理することができる馬は、与えられた馬房数の2.5倍。角居厩舎でいえば75頭までです。

 しかし、馬房が30しかないので残り45頭は、どこか別の場所にいなければならない。故障などで療養が必要な馬や長期で休ませたい馬は北海道の牧場に戻すのがいいのでしょうが、少し様子を見たらまた競馬に使いたいという馬は、いちいち北海道まで戻していては輸送費用がかさむし、馬にも負担になります。そこでトレセン近くの「外厩」がクローズアップされてきたわけです。

 競馬新聞などで「短期放牧」とあるのは外厩に入ることです。トレセンから車で30~50分ほどの場所ですが、山の気候なので夏でもトレセンよりは涼しく、馬にとってはリラックスできる環境です。だから馬体をゆっくり休められるかと思いきや、そうじゃない。坂路など充実した設備の中で効率的な調教が施されます。

 レース直前の追い切りほどではないにせよ、馬体を完全に緩めることはありません。快適な環境でのキビキビとした調教。それが外厩の特徴でしょう。

 競馬直後の1、2週間はほとんど体調をととのえるだけなので、すぐに外厩に出して、その代わりに別の馬を戻す。目標とするレース日から逆算して、「トレセンの厩舎」と「外厩」とパズルのように入れ替えていくわけです。効率よく回転させて、できるだけ多くの馬を競馬に使おうという考え方です。

 1頭の馬を続けて使いすぎると、休ませたときに一気にテンションが落ちてしまう。競馬に戻りたくないというメンタルが強くなってしまう。だから2、3回使って短期放牧というサイクルが、競走馬にはいいと思うのです。

 トレセンでの調教が終わった後など頻繁に外厩を訪れて、馬の様子を確かめるのは、調教師の大事な仕事の一つです

 私が助手だった頃は、外厩がととのっておらず、たとえば桜花賞や皐月賞で上位に来た馬でも、オークスやダービーのトライアルを使うこともありました。1か月半も厩舎に置いておくぐらいなら、使った方がいいという考え方でした。

 しかし関西では森秀行先生が中心になってグリーンウッド(トレーニングセンター)ができました。大きな投資なので複数の調教師のアシストが必要です。そこで森先生は何人かの調教師に声をかけられて実現にこぎ着けました。そのとき調教師になったばかりの私にも、声をかけてくださいました。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。

※週刊ポスト2017年7月21・28日号

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