角居勝彦調教師 「放牧明けの馬はあまり走らない」の真偽

角居勝彦調教師 「放牧明けの馬はあまり走らない」の真偽

角居勝彦調教師が「放牧」について語る

 現代競馬に欠かせないのが外厩。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、今回は外厩施設「ノーザンファームしがらき」(滋賀県)の様子をお届けする。

 * * *
 外厩の存在が今の競馬にとっていかに重要かを前回お話ししました。外厩入りイコール短期放牧。競走馬がレースで力を出し切るために、なくてはならないシステムです。

 角居厩舎でもいくつかの外厩を利用させていただいていますが、今回はそのうち「ノーザンファームしがらき」に管理馬の様子を見に行きました。

 滋賀県南東部の甲賀地方に位置し、栗東トレセンから車で40分ほど。カーナビや道路標識など見なくとも、目的地が近いことは分かる。信楽焼の店舗がそこかしこにあり、名産のたぬきの置物がずらりと並んでいます。蕎麦屋などの店頭に置かれている愛らしいたぬきの置物は、「他を抜く」といった縁起物だそうで、まさに競走馬にとってもゲンがいい。そんな道を走って行くと、のどかな風景の中にものすごい施設が現われます。

 敷地面積28ヘクタール。東京ドーム6個分の敷地に、900メートルの外周コースと直線の坂路、広々と快適な馬房が320。各厩舎にウォーキングマシンが設置され、脚元に不安のある馬のためのトレッドミルも数台あります。

 特筆すべきは坂路でしょう。800メートルと栗東トレセンよりも短い距離ですが、勾配がすごい。最大で8%、高低差は39.7メートル。しかもスタートして3%から5、6、8%と徐々にキツくなっていきます。栗東トレセン坂路の最大勾配が4.5%だから、その差は明白。ここでしっかりと、そして無理なく負荷をかけて鍛えることができます。その走りっぷりをカメラが追尾し、調教管理室のモニターでフォームを管理しています。

 山の気候なので夏でも風が涼しく、栗東トレセンより5度くらい気温差がありそう。馬にとってはリラックスできる環境です。

 その分、最初は戸惑うかもしれません。「放牧かと思ったら、トレセンよりキツいじゃん?」という感じでしょうか。それでも快適な環境での調教は、トレセンとは違い、レースに向かう馬のピリピリとしたメンタルの悪影響を被ることがない。その点も重要です。

 だから外厩で1、2か月過ごした馬は体重が増えます。筋肉がついて馬体が充実する。かつては「放牧明け」の馬はあまり走らないものでしたが、今の短期放牧の場合は事情が違うわけです。もし短期放牧明けで馬体重がそれほど増えていない場合、どこかに不調の原因があるのかもしれません。

 暑い盛りに馬房を訪れると、ゆったりとした空気が伝わってきます。

 午前中にびっしり走ったのか、2歳管理馬が馬房でくつろいでいました。わたしが近づくと、なにやら怪訝そうな顔で振り返った。「なんでセンセイが来るんだ。そろそろトレセン入りかな?」といった表情です。その後、馬房から連れ出し、担当者の話を聞きながら、歩様などをチェックしました。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。

※週刊ポスト2017年7月21・28日号

関連記事(外部サイト)