馬の「利き脚」考察は日本競馬の予想時の妙味

馬の「利き脚」考察は日本競馬の予想時の妙味

名調教師が馬の「利き脚」について語る

 JRA10場のうち、東京、中京、新潟が左回り。その他はすべて右回りだ。もちろん馬にも得意な回りはある。数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」から、馬の利き脚について考察する。

 * * *
 競馬中継の解説やレース後の騎手のコメントなどで、「手前を替えた」という言葉を聞くことがあります。高速で走る中での動作なので、観ている方には分かりにくい変化ですね。しかしレースに勝つために、とても重要なポイントです。

 馬は、たとえばウサギなどとは違って左右の脚の動きをずらして走る。左右の動きが対称型ではなく、左右どちらかの脚を前に出した体勢で走ります。このとき前に出ている脚を手前脚といい、右が前ならば右手前、左が前ならば左手前です。

 馬にも右利きと左利きがあって、利き脚を手前にしたほうがよりスピードを発揮する。だからレースの勝負どころでは利き脚を手前にするわけです。ラストの直線ではどの馬も利き脚を手前にして頑張ります。

 ところがコースは直線だけではなく、コーナーがあります。

 たとえば東京競馬場や新潟競馬場のような左回りコースの場合、コーナーを回るときには左手前でなければならない。手前が逆だと、外側にブレーキをかけるような形で走ってしまう。右利きの馬でも器用な馬は上手に切り替えることができます。

 アメリカの競馬場はすべて左回りなので、調教の段階で手前の変え方を教えますが、ヨーロッパや日本ではうるさく言って教える調教師はいませんね。

 馬の「利き脚」を考えることは、いわば日本競馬の予想時の妙味になるわけです。たとえば直線の手前脚と4コーナーの手前脚を見れば、得意コースが分かります。

 馬は鞍上の手綱さばきや重心移行によって手前を替える。高速で走る最中での手前変換は鞍上も馬も恐怖を感じます。レースでの骨折事故の多くは、この手前変換時に起こるのです。なので、あまり手前は替えたくないのですが、ずっと同じ手前で走ると疲弊してスピードが落ちていくので、この辺の塩梅が難しいところです。

 重馬場では手前変換した馬場が滑ったり、でこぼこに脚を取られたり違和感があると、何度も手前を替えてしまう馬がいます。騎手が「この馬は重馬場が苦手」とコメントするときは、何度も手前変換を行なっている可能性があります。

 手前変換の上手な馬は、それだけでも高い能力を持っているといえるかもしれません。

 なお、調教において肩の筋肉が硬くなっている馬、首の下の筋肉が硬くなっている馬も手前変換するときの動きがぎこちなくなります。

 サンデーサイレンス産駒が「やわらかい」と評されるのは、肩関節を覆う筋肉が柔軟だから。強い馬は手前を替える瞬間がなめらかなのです。

 手前変換の上手下手を見きわめるのはなかなか難しいですが、パドックで馬の前捌きがスムーズかどうかに注目してみるといいかもしれません。

●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。

※週刊ポスト2017年9月22日号

関連記事(外部サイト)