クラスター発生を認めない日本相撲協会 内部から疑念の声出る

クラスター発生を認めない日本相撲協会 内部から疑念の声出る

春場所の館内(時事通信フォト)

 5月4日、相撲協会は5月24日に初日を迎える予定だった夏場所の中止を決定。7月の名古屋場所を東京(両国国技館)での無観客開催とし、10月の秋巡業を中止することも明らかにされた。表向きは同日の緊急事態宣言の延長が理由とされるが、「なんとか開催したいと考えていた協会が諦める決定打となったのは、親方と関取に感染者が出たことだろう」(担当記者)とみられている。

「4月10日の時点で幕下力士1人の新型コロナ感染が判明していたが、同25日になって協会は、高田川親方(元関脇・安芸乃島)や同部屋の十両・白鷹山ら、新たに6人の協会員が感染したことがわかったと発表した。

 ただ、この間の協会の情報公開の姿勢に疑問を呈す声は少なくない。

「25日の時点で、感染が判明した6人は全員入院中という話だったが、わずか5日後の30日には全員が退院したと発表された。高田川親方は23日、白鷹山は24日に検査を受けたという経緯が明らかにされたが、幕下以下の力士4人については詳細が示されず、いつから感染がわかっていたのかなどは不明。親方と関取以外は、所属部屋すら非公表です」(同前)

 感染した全員が高田川部屋所属なら5人以上で、いわゆる「クラスター(小規模な患者集団)」にあたるが、それも明らかにされていないわけだ。

「親方衆で初めての感染者となった高田川親方は八角理事長(元横綱・北勝海)が目を掛けている親方のひとりで、二所ノ関一門のナンバー4です。協会の副理事で、審判部副部長の要職に抜擢されている。八角体制に反旗を翻した貴乃花親方を年寄総会などで厳しく追及し、“角界追放”に一役買って高く評価された。感染判明後も、八角理事長はコメントを出していないが、本当に厳格な対応ができているのか」(相撲ジャーナリスト)

 感染予防の観点から取材が制限されるなか、メディアも協会の発表内容をそのまま報じるものがほとんど。そうしたなか、例外だったのが〈高田川部屋クラスターか〉と報じたスポニチ(4月26日付)だった。

「複数の関係者の情報として、最初に感染がわかった幕下力士と、その後に判明したうち2人以上が高田川部屋と報じた。記事では力士1人がICUに入っているとの情報にも触れている。専属解説者の親方の身の周りの世話をする高田川部屋の元力士がいて、その筋からの情報があったから踏み込めたのだろう。それにしても、クラスター化問題を抜いたのが、高田川親方と犬猿の仲の貴乃花親方が長く専属評論家を務めたスポニチというところも因縁深い」(同前)

 だが、報道を受けても、協会は否定も肯定もせず、他のメディアは親方と関取以外の感染者がどの部屋の所属なのか、明言しない状態が続いている。

◆高田川部屋前の張り紙

 クラスターが発生した場所を公表するかは、議論の対象となる問題だ。大阪のライブハウスでクラスターが発生した際は、事業者が店舗名の公表に応じ、感染の疑いがある人を追跡できた。ただ、感染拡大防止に資する一方、事業への影響があるため、千葉市のように、クラスター発生時に施設名公表に応じた事業者には協力金を支給するなどのケースもある。

 一方、相撲協会は公益財団法人として、税制優遇も受けている団体だ。どういった情報公開の姿勢が求められるのか。公益法人のガバナンスに詳しい中島隆信・慶応大学商学部教授が指摘する。

「慎重な判断が必要とされるデリケートな問題です。感染防止の観点からいえば、部屋を公表すべきだといえる。ただし、相撲部屋の場合、所在地に加え、親方やすべての所属力士の名前などが公表されており、彼らの住居も兼ねている。個人のプライバシー、人権を守る観点も必要ではある。親方や関取の名前だけ公表しているのは、協会から給料をもらっているという社会的責任を鑑みた基準でしょう。

 問題はそうした基準について説明を尽くせているかということ。基準の説明が不十分なまま一部の情報だけを出していたら、部屋の周辺住民にも不安が募る。本来は、差別的な扱いが起きないように地域住民の理解を得るなどの努力をしながら、できる限りの情報開示をしていくことが求められる。それが社会全体で感染予防に取り組むことへの貢献になる」

 説明なき情報コントロールは、相撲部屋への不信を招きかねないのだ。実際、東京・江東区にある高田川部屋の目の前にある共同ゴミ置き場には、誰が貼ったか記されていない〈当分の間(一カ月位)、ゴミの集積は中止します〉との張り紙が貼られ、周囲の住民から訝しがられている。

 改めて協会に高田川部屋の感染状況、クラスター公表の基準について質問状を送付したが、対応窓口は自動音声アナウンスが流れるのみで回答は得られなかった。

 こうした八角体制の組織運営に、内部からも疑念の声が上がる。若手親方のひとりはいう。

「3月の春場所の無観客開催も10人の理事での投票は賛成6、反対4と拮抗した。夏場所だって、ぶつかり稽古などの禁止が通達されている状態なのに、いきなり本場所の土俵に上がれるはずがない。発表が遅すぎる」

 とはいえ、このまま本場所中止が続けば、1場所5億円とされるNHKの放映権収入もなくなる。

「そこで捻り出されたのが、7月の名古屋場所の“東京開催”ではないか。もちろん、1000人の大所帯が名古屋に移動することでの感染拡大リスクを防ぐという理由はあるのだろうが、それだけではない。状況次第で時期をずらしての開催をギリギリまで探るといった対応は、協会所有の国技館のほうが、融通が利く。

 仮に7月にかなり終息に向かっているようなら、1マス1人の限定で太い常連客を入れるといった“柔軟な対応”も国技館ならやりやすい。20軒ある茶屋も喜ぶ。一方の名古屋は2009年に暴力団の桟敷観戦問題が発覚して茶屋の取り潰しなどがあったため、現在は茶屋が3軒だけ。補償問題を含めた交渉がまとまりやすいという側面もあっただろう」(ベテラン記者)

※週刊ポスト2020年5月22・29日号

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