カタールW杯、選手とともに大舞台に挑む3人の「裏方日本代表」

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、サッカーW杯カタール大会において、選手以外で奮闘する日本人にまつわるエピソードを紹介する。

【サッカーカタールW杯2022 開会式 開幕戦カタール対エクアドル】開会式セレモニー=2022年11月20日 アルベイトスタジアム 写真提供:産経新聞社

いよいよ始まったサッカーW杯カタール大会。7大会連続出場で初のベスト8進出を目指す日本代表の活躍ぶりも楽しみだが、選手以外にも大会を支える日本人が何人もいる。そんな「裏方日本代表」とも言うべきメンバーたちの奮闘ぶりを見ていきたい。

日本代表の裏方、と言えば、5大会連続で代表の食事面の一切を取り仕切る西芳照シェフ、通称「サムライブルーの料理人」の存在があまりにも有名だ。ただ、そんな西シェフを超える「7大会連続」……つまり、これまで日本が出場したすべてのW杯で代表チームを支えてきた人物がいる。キットマネージャーの麻生英雄さんだ。

キットマネジャーとは、サッカークラブが練習や試合で使用する道具を準備・管理するのが主な仕事。いわゆる「用具係」であり、ときには練習のサポートやファン対応も、さらには選手やコーチらの相談相手にもなる「何でも屋」。さまざまな面でチームを支える「縁の下の力持ち」だ。

麻生さんは横浜フリューゲルスのアシスタントマネジャーとしてサッカーの世界に入り、その仕事ぶりが認められて97年から日本代表のスタッフ入り。翌年のフランス大会から始まる日本サッカーのW杯の戦いにおいて常に代表をサポートし続け、いちばん近くで日本の成長を見守ってきたのだ。

この麻生さんがすごいのは「7大会連続」という経歴もさることながら、そのプロ意識の高さだ。一時は日本代表ユニホームのオフィシャルサプライヤーであるアディダス社の社員として代表チームを支える立場だったが、2006年ドイツW杯で日本代表が1勝もできずにグループリーグ敗退を喫したのを機に、その安定した立場を捨てたのだ。

『あんなにすごいメンバーがいても勝てなかった。ショックでしたね。そのとき、僕らスタッフはどうしたらいいのかって考えたんです。当時、中田(英寿)や俊輔(中村)、イナ(稲本潤一)とか海外組が増えてきたけど、スタッフは海外経験がなかった。これは自分も海外に行くしかないと……』

~『Yahoo!ニュースオリジナル』2018年10月20日配信記事 より(麻生英雄キットマネージャーの言葉)

こうしてアディダス社を退社し、海外武者修行へ。その経験を活かし、その後も日本代表のサポートを継続しているのだ。

同様に、海外で揉まれながらW杯で裏方業に徹するのがセルビア代表のコーチを務める喜熨斗勝史(きのし・かつひと)さんだ。

名古屋グランパスでコーチを務めていた際、クラブのレジェンド、ドラガン・ストイコビッチが監督に就任。2010年のリーグ初優勝に貢献するなど絶大な信頼を得ることに成功した。その後も喜熨斗さんは、「ミスター」と呼ぶストイコビッチが率いるチームを変えるたびに、その右腕として帯同。2021年、ストイコビッチがセルビアの代表監督に就任すると、またしてもその腕を買われ、代表コーチ入りすることとなった。

サッカーの本場、ヨーロッパの代表チームで日本人がコーチを務める……その責務がどれほど大変なことか、喜熨斗さん自身が強く実感している。

『コーチ就任を快諾した時から背負うものの大きさは分かっていました。私を招聘してくれたミスターへの責任、セルビア代表として目の前の試合に勝利する責任、セルビアサッカー界全体への責任。そして自分の振る舞い次第では、後進の未来にも影響するかもしれない日本人としての責任感。それらが初戦に勝利したことで“この方向性で良いんだ”という自信へと変わり、それは中2日で待ち受ける大一番への後押しになりました』

~『サッカーダイジェストWeb』2021年4月22日配信記事 より(喜熨斗勝史コーチの言葉)

「中2日で待ち受ける大一番」とは、ヨーロッパ予選で対峙したポルトガル代表との直接対決。クリスティアーノ・ロナウド擁する強国相手に劇的な逆転勝利を収め、無敗で首位通過を決めた試合だ。

喜熨斗さんはそんなセルビア代表に対し、重い「責任感」と共にハードワークに励むことでサポートし、信頼を勝ち取り、W杯本大会でもコーチを任されるに至った。大会前の喜熨斗さんの言葉からは、その大役を担うプライドも窺い知ることができる。

『ここがキャリアのピークだとは思っていません。ただ、日本人で誰もやっていないことをやっていると自負しています』

~『日刊スポーツ』2022年11月10日配信記事 より(喜熨斗勝史コーチの言葉)

そしてもう1人、強い責任感を持ってカタールW杯に挑む日本人がいる。今大会の主審候補に選ばれた唯一の日本人、山下良美さんだ。

今年(2022年)9月には、J1の試合ではじめて女性として主審を担当。女性審判の第一人者として歴史に名を刻み続け、ついに今大会ではW杯の歴史において初めて選出された3人の女性主審の1人となった。

『日本でも世界でも、さまざまな女性審判員が信頼を積み重ねてきたことがあるから、この機会が与えられたと思います。その信頼を壊してはいけないという責任は、本当に重く感じています』

~日本サッカー協会公式サイト 2022年7月26日掲載記事 より(山下良美審判の言葉)

山下さんは23日に行われるグループリーグF組のベルギーvsカナダの試合で第4審判としてW杯デビューすることが決まった。奇しくも日本代表の初戦であるドイツ戦と同じ日、世界に対してその存在をアピールすることになる。

三者三様、強い責任感と決意を持ってW杯と向き合う日本人がいる。そのことも踏まえながら大会をしっかり追いかけていきたい。

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