「神のお告げ」により7試合で引退 阪神・グリーンウェル伝説

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、1997年、阪神タイガースに一時期在籍した外国人スラッガー、マイク・グリーンウェル選手にまつわるエピソードを取り上げる。

プロ野球 阪神新外国人選手 マイク・グリーンウェル選手 入団発表=1997年1月29日 写真提供:産経新聞社

5月11日、NPBとJリーグ合同による「新型コロナウイルス対策連絡会議」の会合が行われ、終了後、NPB・斉藤惇コミッショナーが、今シーズンの開幕日について「まだ日程を決めるのは難しい」とコメント。無観客で行うにせよ、「都市間の移動は極力避ける」という状況が変わらない限り、プロ野球は依然、開幕の見通しが立たないようです。

これだけ長期間、プロ野球の試合を観られないのは筆者も初めての経験ですが、野球ファンの知人たちとオンラインで話すと、必然的に話題は、過去の名シーン・名勝負・名選手の話になります。先日、連休中にある阪神ファンと「Zoom」を使って話したとき、「ゴールデンウィークっちゅうと、思い出すんは“グリーンウェル”やなー」と、懐かしい名前が飛び出しました。

いまから23年前の1997年、「メジャー通算打率3割超」という触れ込みで阪神にやって来たボストン・レッドソックスのスラッガー、マイク・グリーンウェル。年俸は、当時の球団史上最高額の推定3億6000万円。契約金も含めると、4億円近い超大型契約でした。

当時、毎年のように下位に低迷していたチームを立て直すため、阪神フロントは大枚をはたいて大物メジャーリーガーの獲得に踏み切ったのです。初来日の際、空港でグリーンウェルはウエスタンブーツにテンガロンハットをかぶって颯爽と現れ、ファンの期待はがぜん高まりました。

ところが……グリーンウェルは春季キャンプ中に、突然帰国。しかも理由は「米国で展開しているサイドビジネスの契約更新」のためでした。なぜ契約を結ぶ際、事前に伝えなかったのかわかりませんが、阪神サイドは一時帰国を了承。グリーンウェルは「アイ・シャル・リターン」とマッカーサー元帥のような言葉を残し、一時帰国します。

すぐ戻って来るかと思いきや、数日後、代理人から衝撃的な報せが届きました。「キャンプ中に背中を痛めたようで、主治医から移動を禁じられた。米国で治療を受けたい」。ところが診断の結果がなかなか届かず、球団もファンも「いったい、いつ戻って来んねん?」とヤキモキすることに。

その後、アメリカの担当医師が会見し、「いまは歩行不能で、回復に6週間かかる」と発表します。阪神側はそのことを事前に知らされておらず、慌てて現地に医師を派遣。MRI画像を取り寄せ、それを阪神が契約する大学病院の医師が確認……という大騒動に発展したのです。

そんなすったもんだのうちに、シーズンは開幕。グリーンウェルが日本に戻って来たのは、4月下旬のことでした。球団側は少し調整期間を設けたあと、グリーンウェルのお披露目をゴールデンウィークに設定。5月3日、満員の甲子園球場で行われた広島戦で、グリーンウェルは「5番・左翼」でスタメン出場し、ようやく日本球界デビューを果たします。

この試合、グリーンウェルはいきなり5打数2安打2打点の大活躍を見せ勝利に貢献。 5打席目に放ったヒットは、試合を決める走者一掃の三塁打で「さすがはメジャーリーガーや!」と阪神ファンを唸らせました。

当時の指揮官・吉田義男監督も「いろいろあったけど、いい仕事をしてくれました」と安堵のコメント。グリーンウェルは翌4日の試合でも、満塁のチャンスに勝ち越しタイムリーを放ち、3安打の猛打賞。5日の試合でも、3試合連続でヒットと打点を記録しました。「私はこういう働きをするために、日本へやって来た」と語り、ファンを熱狂させたのですが……5月10日、東京ドームで行われた巨人戦で“事件”が起こります。

試合中、グリーンウェルは自打球を右足に当て、翌11日も試合に出場しましたが、痛みが引かず病院へ。12日に精密検査を受けたところ、右足指の骨折が判明したのです。球団側は大ショックを受けましたが、さらに本人からの申し出を聞き、愕然としました。

「背筋痛に続いて、今度は足の指を骨折した。これは『野球から身を引け』ということに違いない」

まさかの“引退宣言”。フロントは大慌てで説得に当たりましたが、本人の意思は固く、退団を了承することに。14日、急きょ甲子園球場内で引退会見が行われ、「骨折は“神のお告げ”。身を引く潮時だ」という有名なフレーズが飛び出しました。

グリーンウェルの日本での成績は、7試合に出場し、26打数6安打・5打点・本塁打0、打率.231。吉田監督のコメント「なんや、嵐のように来て、嵐のように去って行きましたなァ……」がすべてを象徴しています。

ところで、野球ファンの間で当時話題になったのが、「阪神はグリーンウェルに、年俸を全額払うのか?」ということです。単純に、年俸3億6000万円を安打数6本で割ると「ヒット1本=6000万円」。

「詐欺とちゃうんか?」とまで言われましたが、これまでは「『全額もらうのは申し訳ない』と、契約金や年俸の一部を返上した」という話になっていました。ところが、昨年(2019年)日本のトークバラエティ番組に、グリーンウェル本人がVTR出演。こんな発言をしたのです。

「『契約金をすべて返す』と阪神の(久万)オーナーに申し出たら、『正直なええ人や』と言われ、返金の話はなくなったんだ」

オーナーこそ人がいいというか、何というか……。年俸の一部は実際に返上したようですが、契約金は満額受け取り、相当な額を手にしたと思われるグリーンウェル。現在はアメリカで牧場を経営し、悠々自適の生活を送っているそうです。

阪神ファンの知人は、こう言っています。「毎年この時期になると、グリーンウェルのことを思い出す。阪神ファンにとって、“GW”はゴールデンウィークじゃなく、グリーンウェルの略なんや」

……この話だけでは、阪神ファンの皆さんに申し訳ないので、次回は「タイガースで活躍した外国人エース」にまつわるエピソードをご紹介します。

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