ネイマールをめぐる疑惑〜背景にある「サッカーと人種差別」

話題のアスリートの隠された物語を探る「スポーツアナザーストーリー」。今回は、サッカー、パリ・サンジェルマン(PSG)VSマルセイユ戦で試合終了間際に起こった乱闘騒ぎと、ネイマール選手、酒井宏樹選手も巻き込んだ人種差別疑惑の背景について取り上げる。

マルセイユ戦で相手選手と小競り合いするパリ・サンジェルマンのネイマール(左)=2020年9月13日、パリ(ロイター=共同) 写真提供:産経新聞社

パリで現地時間9月13日に行われたリーグ・アン(フランス1部リーグ)、パリ・サンジェルマン(PSG)VSマルセイユ戦。このカードは、スペインリーグの「エル・クラシコ」(レアル・マドリードVSバルセロナ)のフランス版とも言えるライバル対決で、「ル・クラスィク」と呼ばれています。

毎回、両チームの選手たちが熱い火花を散らすこの対決。試合は0-1でアウェーのマルセイユが勝利。リーグ・アンはPSGがここ10シーズンで8回も優勝しており、マルセイユがリーグ・アンでPSGに勝ったのは2011年11月が最後。以降3分13敗と屈辱的な状況が続いていました。

それだけに敵地で挙げた9年ぶりの白星は、マルセイユにとって溜飲の下がる勝利でしたが、今回、残念な出来事が起こってしまいました。試合終了直前に乱闘が起こり、両チーム合わせて5人がレッドカードを受ける騒動に発展。PSG側の退場者の1人がネイマールでした。

ネイマールは、マルセイユのDF、アルバロ・ゴンサレスの後頭部を殴っていたことがVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)で確認され、2試合の出場停止処分が下されました。ところがネイマールは、殴ったのは「アルバロから受けた人種差別的な発言が原因」と反論。

一方、アルバロは自身のツイッターで「人種差別が許される余地はない」と潔白を主張し、これにネイマールが「自分の過ちを認めないお前は、尊敬に値しない!」と応酬。場外乱闘の様相を呈するなか、ここに来てまた新たな疑惑が浮上しました。欧州での一部報道によると、ネイマールもアルバロに対し、同性愛者差別的な言葉で罵倒していたと言うのです。

これとは別に、ネイマールは試合中、マルセイユのDF・酒井宏樹に向けて「アジア人に対する差別的な言葉をたびたび吐いていた」という報道も。この試合をめぐる騒動については現在、フランスのプロリーグ機構が調査に当たっており、近々何らかの結論が出されることになります。もしこれらの報道が事実であれば、ネイマールは最大20試合の出場停止処分を受けるかも知れない、という観測も出ており、どんな裁定が下されるのか、今後の成り行きが注目されます。

先日のテニス・全米オープンでも、大坂なおみ選手がBLM(Black Lives Matter=黒人の命も大切)に関連して、黒人被害者の名前が入った黒いマスクを着用して入場。人種差別に強い抗議の意を示したのは記憶に新しいところです。続く全仏オープンで、大坂がどんなメッセージを発するのかも注目されましたが、左太もも裏の違和感のため大事をとって欠場。奇しくもそのフランスで、競技こそ違えど、日本人選手も巻き込んだ人種差別問題があらためてクローズアップされることになりました。

サッカー界は以前から、人種差別につながる発言や行為に対しては厳しく処する方針で一貫しています。つい先日も、イングランド・プレミアリーグでこんな事件がありました。7月、クリスタル・パレスのFWで、コートジボワール代表でもあるウィルフリード・ザハに、SNSで人種差別的なメッセージを送った疑いで、12歳の少年が逮捕されたのです。

この少年は試合前日、ザハのインスタグラムに「明日はゴールを決めるなよ」と、黒人に対する侮蔑的な言葉を交えてダイレクトメッセージを送信。ザハはこの脅迫めいたメッセージをインスタで公開すると、さっそく現地警察が動き、対戦相手のアストン・ビラも、犯人の「スタジアム永久追放」を約束。プレミアリーグもザハを支持し、差別反対の声明を出しました。

試合終了直後、警察は少年の逮捕を発表。このニュースは英国メディアで驚きを持って報じられましたが、たとえ12歳であろうと、人種差別には毅然とした態度で臨む姿勢が窺えます。

なぜ欧州サッカー界が、これだけ人種差別に対して厳しい姿勢をとるのかは、戦後、欧州への移民増加を背景とする選手の“多国籍化”にあります。さらに1995年の「ボスマン判決」によって、EU域内の国籍を持つ選手については外国人枠が撤廃されたことも、多国籍化に拍車を掛けました。レアル・マドリードが各国の代表選手を集め「ギャラクティコ」(=銀河系軍団)と呼ばれるスター軍団を形成したのも、その流れの1つです。

アフリカを出自とする黒人選手や、旧植民地出身の選手が主力として活躍するケースも増え、それに伴って、一部サポーターが相手チームの主力選手に向かって、動物の鳴き真似をしたり、バナナを投げ込むなどの侮辱行為も頻発しました。

こういった行為を一掃すべくつくられた組織が、NGO団体の「FARE」(Football Against Racism in Europe)です。FAREは、FIFA(国際サッカー連盟)・ UEFA(欧州サッカー連盟)と協力。サッカー場での人種差別を撲滅するための運動を展開しています。

ワールドカップでも、前回(2018年)のロシア大会から、FIFAの委託を受け、専門の研修を受けたFAREのメンバーが観客席を監視。人種差別的な応援や横断幕を発見すると、即FIFAの規律委員会に報告しています。差別行為が度を超している場合、FIFAはそういう行為をしたサポーターの国の協会に罰金を科し、是正を促すというシステムも確立しています。

欧州サッカー界、そしてFIFAがここまでする理由、それは「サッカーは世界の共通語」という認識があるからに他なりません。確かに、自国の代表や、ひいきのクラブチームが負けたとき、つい感情的になることはあります。フーリガンに代表されるように、社会への不満のはけ口として、サッカー場に来る人たちもいます。

ですが、暴力的な物言いを放置していては、サッカーという競技が持つ「ボール1つで、世界のあらゆる人種・民族が1つになれる」という特性を消すことになりかねません。サッカー界全体が一致団結して人種差別に「NO」と言うことは、特に若い世代に対しての強いメッセージになります。大坂なおみが全米オープンで見せた一連の行動とも共通する姿勢であり、これもスポーツの持つ力なのです。

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