世界の福本<プロ野球“足攻爆談”>「オレが走りづらかった投手ベスト5」

福本豊

 盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!

 前回は、牽制の「癖盗み」をテーマにしたけど、今回もその続きを。
 走りまくれる投手がいた一方で、僕でも走りづらかった投手は何人かいる。5人挙げるとすれば、左腕では近鉄・神部年男(75年にノーヒットノーラン達成)、日本ハム・木田勇(新人の80年に22勝を挙げてMVP)。右腕ではロッテ・八木沢荘六(73年に完全試合達成)、南海・山内孝徳(通算100勝の元エース)、巨人・堀内恒夫(V9時代のエース)だな。

 まずは神部さん。プロ入りは僕より1年あとやけど、年齢は5歳上。社会人時代からのライバルで、僕が所属した松下電器は、神部さんの富士鉄広畑を倒さないと都市対抗に出場できなかった。社会人時代にはまだ癖盗みに力を入れていなかったから、スタートを切るタイミングがわからなかった。僕だけでなく、松下の選手は何度も牽制で殺されていた。

 うまいというイメージが植え付けられていたから、プロでも最初は走れなかった。癖を見つけたのはプロで対戦を重ねて、何年かたってから。微妙な違いやけど、牽制の時はセットから大きくフワッと手が上がった。わかってからはスタートが切れるようになった。

 日本ハムの木田に関していえば、まず塁に出ることすら少なかったから、牽制の癖がどうのこうのではなかった。デビューした80年は初対戦から「これはアカンわ」と思わされた。球は速いし、コントロールもいい。変化球の切れもある。1年目はヒットを1本ぐらいしか打ってないんと違うかな。新人で22勝8敗4S、防御率2.28、228奪三振でタイトルを総なめにした。2年目以降はパッとしなかったけど、新人の時はほんまにお手上げやった。いつも言うように、盗塁数を増やすコツは塁に数多く出ることやね。

 八木沢さんの場合は、また違った意味で癖を盗めなかった。なにしろ、ほとんど牽制を見たことがなかった。「オレは牽制が下手やから」と言ってたけど、僕からしたら気持ち悪くてしかたなかった。何度もしつこく牽制する投手のほうが実はタイミングを取りやすい。今なら、DeNAの山崎康晃も八木沢さんと同じ部類。プロ5年目の昨季、初めて牽制球を投げたというからすごいよ。

 山内と堀内は走りにくさでいうと同じタイプ。右投手で牽制するターンが速いし、いろんなタイミングで仕掛けてくる。セットポジションに入ってからはこちらも注意しているけど、リードをとるタイミングで投げてくるからやっかいなんや。絶対に目を離したらアカンし、速いターンで低く、速い球が来る。必死に練習して身につけた技やと思う。

 それと堀内の場合はリーグが違うから、なかなか癖を見つけられなかった。ビデオで見るのと実際にグラウンドで自分の目で見るのとは違う部分もある。日本シリーズで対戦しても、わかった頃にはもう終わっているから。

 最近の投手はクイック投法は磨いているけど、牽制の技術はそこまで磨いていない。阪神の西勇輝のように上手な投手もおるけど、本気でアウトを狙う牽制球を投げる投手が昔に比べて少なくなっている。いくらクイックを速くしても、リズムが一定やったら、走者はスタートを切りやすい。牽制の達人と走者とのスリリングな攻防をもっと見せてほしい。

福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。

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