「原辰徳研究」江本孟紀が明かす“名将”の資質「冷淡な曹操孟徳に憧れ」

原監督研究

 もはやG党にとっては「読売巨人軍の総大将」と呼べる存在だろう。今季も開幕から首位をひた走っている。“名将”原辰徳監督を知る男たちが、知られざる采配ドラマと人心掌握術を語り尽くした。

 第2次原政権で12年から14年まで、1軍戦略コーチと1軍打撃コーチを歴任した現BCリーグ・新潟アルビレックスBCの橋上秀樹総合コーチが次のように証言する。

「私がよく覚えているのは、今はDeNAにいるロペスの巨人時代、二死一塁の局面でカウント3-2から『待て』のサインを出したことですね」

 長打を狙える助っ人外国人。その打棒に期待することなく、チャンス拡大のための賭けに出たのだ。

「助っ人にそんなサインを出すなんて聞いたことがなかった。ロペスも驚いたのか、一度バッターボックスを外して再確認したほどです。結果、その打席は四球になったんです」

 この7月に「監督 原辰徳研究 この『名将の器』に気付かなかった面々へ」(徳間書店刊)を上梓したプロ野球解説者の江本孟紀氏は、昨季の復帰早々に見せた、こんな奇策にも言及する。

「延長11回の裏、先頭ランナーが出て、投手の田口が打席に立ちました。セオリーは、田口にバントをさせるか、そもそも田口に代打を送るか。ですが、1球目に一塁走者に盗塁をさせ、無死二塁に。そのカウント1ボールで、田口に代打を送ったんです」

 得点圏にランナーを進めてから、次の策を打ったのだ。揺さぶりが効いたのか、次打者がサヨナラ2ランを放ち、巨人が勝利をもぎ取っている。

「原監督がすごいのは、そういう選手起用や作戦が、ビシビシ的中することです。勝負勘の鋭さはものすごかったですね。コーチとしてもやりやすかったですよ。自分は球団外から巨人に来たわけですが、生え抜きのスター選手、あるいは原監督自身に対しても、忖度したり気を遣う必要がないんです。純粋に勝つための作戦を進言するだけ。逆に、遠慮していると『なんで言わないんだ』となりますから」(橋上氏)

 前出の「監督 原辰徳研究」で、江本氏と対談を行った原監督は、中国の歴史書「三国志」を引き合いに出し、次のように語っている。

〈中でも曹操孟徳には憧れを持ちました。巨大戦力によって絶対的な地位を築き上げて、残酷かつ冷淡で手段を選ばない。(中略)「天下を取るなら、自分にも周りにも徹底的に厳しくしないといけないんだな」と考えました〉

 原監督は同書で、その覚悟を示すエピソードとして、現在の阿部慎之助2軍監督、二岡智宏3軍総合コーチが鳴り物入りで入団した時のことも語っている。当時の長嶋監督にルーキーの起用を進言したのは自分だった、というのだ。結果、押し出されたのは、バリバリのレギュラーでチームの貢献者だったベテラン、村田真一と川相昌弘だった。

 勝負に徹し、私情を挟むべからず。その心構えが、古代中国で「乱世の奸雄」と呼ばれ畏怖された武将から学んだものだったとは、なんとも驚きである。

 ただし、江本氏らが原監督を「名将」と断言するのは、選手からの反発を招きかねない采配を断行する意志力だけが理由ではない。高い人心掌握術も兼ね備えているからなのだ。レギュラーを奪われた村田とのエピソードについて、再び江本氏の著書から原監督の言葉を引用する。

〈開幕のスタメンがベンチ裏で発表されると、案の定、真一は私の顔を見るなり「ちょっとお話があります」と言ってきた。(中略)私は真一が「わかりました」と言ってくれるまで、じっくり話をするつもりでいました〉

 辛抱強く村田の主張に耳を傾け、阿部を起用する理由についても丁寧に説明し、村田の了解を取り付けたのだ。

「スタメンを外したり、2軍に落とした選手を監督室に呼んで、1対1で話し合っているのを何度も見ました。ムチを振るった選手に対しては必ず、何らかのフォローを入れるんです。マスコミにも『彼にはこういう理由で奮起してもらいたいから落とした』というふうにちゃんと事情を説明する。選手は意気に感じるわけです」(橋上氏)

 江本氏も同調する。

「遠征先の行きつけの店で何度か遭遇したのですが、主力選手や若手、外国人選手、スタッフに至るまで、自腹で食事に連れて行き、腹を割って話をしているんですよ。私らの現役時代はこういうこともよくありましたが、今では珍しいことです」

 グラウンドをひとたび離れれば、面倒見のいい親分肌な素顔がのぞく。モチベーターとしても一流ということだろう。加えて、

「選手やスタッフのことをよく見ているんですよ。例えば、主砲の岡本和真について聞いた時、『あいつは疲れませんから。使い減りしないんで、徹底的に使っていきますよ』と言ってました。選手の才能や性質を見極める目を持ってるから、的確な起用ができる。僕もそうですけど、元木ヘッドコーチと、宮本投手チーフコーチを抜擢した時、『大丈夫かよ』と思いませんでしたか。でも原監督は就任直後、キャンプ前の段階から『江本さん、大丈夫です。彼らはめちゃくちゃ勉強していますよ』と太鼓判を押していましたからね」(江本氏)

 これだけの「名将の資質」があれば、今後も勝ち星を積み重ねていくことは必至か。再度、原監督の肉声を紹介し、締めることにしよう。

〈昨年のリーグ制覇にあぐらをかくことなく、もう一度、ふんどしを締めなおしてシーズンに臨みたいと考えています。去年とは違う戦いを見せていきたいと思います。そして最後には、ゴールテープを先頭で切りたいと思っています〉

 新型コロナの影響で異例の変則シーズンとなった今季、悲願である8年ぶりの日本一に向け、原巨人の進撃が止まらない。

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