元横綱「稀勢の里」が語る「相撲部屋」改革論 早大大学院の修士論文でもテーマに

元横綱「稀勢の里」が語る「相撲部屋」改革論 早大大学院の修士論文でもテーマに

セカンドキャリアも横綱?

 9日から始まった大相撲五月場所。看板の横綱・白鵬は6場所続けての休場と、協会はまさに土俵際である。そんな折、明るい話題の一つが、元横綱・稀勢の里の学位取得か。4万字にわたる論文を物したご当人、現・荒磯親方が「相撲部屋」改革論を語った。

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「ゼミにいた1年間は、とにかく刺激的でしたね」

 そう振り返る荒磯親方。

「例えば“自分がもし荒磯親方だったら”というテーマの授業があって、企業経営者の方が“駅前の商業施設に部屋を構える”などの案を出すんです。聞いたことのないような発想が伺えて、とにかく刺激になりました」

 ガチンコの日本出身横綱、稀勢の里が引退したのは2年前のこと。その後は年寄・荒磯を襲名し、田子ノ浦部屋の部屋付き親方として指導を行ってきた。

 それに加えて、昨年は早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の修士課程に入学。1年間学び、「新しい相撲部屋経営の在り方」をテーマに修士論文を提出。この3月、学位を得たのである。

「厳しい課題をたくさん出したので、はじめは戸惑っていましたがね」

 と語るのは、指導教官だった平田竹男教授。

「親方との両立は大変だったと思いますが、課題の提出が遅れることが一度もなかった。頑張って付いてきてくれましたよ。論文はA4で44ページ、4万470字。中身も抜群で、最優秀論文として表彰されました」

 とベタ褒めなのである。


■2食か3食か


 では肝心の中身は。現役時代とは打って変わり、柔和な表情で親方が説明する。

「まずは、相撲部屋に土俵を複数設けられないか、と。Jリーグの鹿島アントラーズの練習施設には四つグラウンドがありますが、いまある40と少しの相撲部屋はすべて土俵ひとつ。だから稽古中、特に下位の力士は見ているだけの時間が長いんです。もし土俵がもうひとつあれば、もっと効率的に稽古ができますよね」

 構想はほかにも。

「稽古場にビデオカメラを入れることも検討したい。これまでは土俵は神聖な場との意識があり、稽古の撮影というのはあまり行われてこなかった。でも、私も経験がありますが、撮影して取り口を見直すことで、指導がより効果的になるんです。具体的には、部屋の4カ所にカメラを備えると、身体の使い方がもっともよく見えることがわかった」

 土俵にしろカメラにしろ、新たに設置するには元手が必要。そのため、協会からの給付金やタニマチによる寄付といった従来の「財布」に頼ることなく、部屋は独自に企業とスポンサー契約を交わし、資金獲得を行うべし、というのである。

「それと、食育の問題ですね。相撲界では朝は食事をせず、稽古が終わった昼前にちゃんこを食べる。そしてその次は夕食という1日2食。しかし、自分が怪我をしたとき、1日3食にしたら稽古の質が上がったことがあったんです。他のスポーツ選手も朝しっかりタンパク質を摂ってから練習に臨みますよね。こうした点も含め、親方が栄養学を学んでいくことは重要だと思います。力士は引退後、糖尿病などで苦しむ事例が多いですから……」

 近い将来に部屋を興すべく、準備を進めている親方。その一環としての「学び」というわけだ。となれば、やはり聞いてみたいのは「女将さん」候補のこと。34歳独り身の親方を心配する声もあるが、

「そこは……結婚しないというスタイルもあるからね。でもいい報告ができればいいな。時々は、うちの娘はどう?なんて話をいただくこともありますから」

「週刊新潮」2021年5月20日号 掲載

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