破格の金が動いた今年の「リブゴルフ」 大金を得た選手が勝者なのか

破格の金が動いた今年の「リブゴルフ」 大金を得た選手が勝者なのか

ダスティンジョンソン(JazzyJoeyD, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons)

 サウジアラビアの政府系ファンドの支援を受け、グレッグ・ノーマンCEOによって今年6月に創設されたリブゴルフは、世界のゴルフ界を大揺れさせている。すでに今シーズンの年間8試合すべてを終えたところだが、一方、プロゴルフ界の「本家本元」であるPGAツアーは大改革を敢行し、9月に開幕した新シーズンが進行中である。【舩越園子/ゴルフジャーナリスト】


■得した人、損した人


「PGAツアーvsリブゴルフ」の対立は激化の一途で、PGAツアーに忠誠を誓っている選手の筆頭、北アイルランド出身のローリー・マキロイ は「もはや僕らと彼らの対立はコントロールのしようがない」と嘆いている。

 そんな対立と喧噪が広がる中で、いったい誰が得をして、誰が損をしたのだろうか。そう思っていた矢先、米ゴルフウィーク誌の記事の中に、こんな一文を発見した。

「PGAツアーはルーザー(敗者)だが、PGAツアー選手はウィナー(勝者)だ」

「勝者」「敗者」と言ってしまうと少々わかりにくいと思うので、勝者は「得をした人」、敗者は「損をした人」という言葉に置き換えてみると、なるほどと頷かされる。

 リブゴルフが破格の契約金や賞金でPGAツアーのトッププレーヤーを次々に引き寄せた 結果、PGAツアーの試合ではスター選手の姿が激減してしまった。言うまでもなく、それはPGAツアーにとって絶大なる損失だった。

  そして、残っている選手たちのさらなる流出を防ぐため、PGAツアーは新たなボーナス制度を設け、今季からは年間12試合を賞金2000万ドル級のビッグ大会へ格上げするなどの大改革を敢行し、さまざまな新施策を実施している。

 そうした施策は、リブゴルフが創設されていなければ、おそらく実施されることはなかったものだ。いわばリブゴルフのせいで考案・実施せざるを得なくなった、PGAツアーの「想定外の出費」である。そう考えれば、PGAツアーはスター選手もビッグマネーも失って、「損をした人」と言うことができる。

 一方、リブゴルフに移籍せずPGAツアーに残っている選手たちは、PGAツアーの大改革によって大幅に引き上げられた賞金やボーナスの恩恵に預かることができる。「トッププレーヤー」と定義される上位選手20名は、従来は15試合だった年間義務試合数が20試合に増やされたものの、2000万ドル級の賞金が約束されているのだから、不平不満が出るどころか、効率よく稼げるチャンスが増えて「得をする人」となる。

「トッププレーヤー」ではなくても、PGAツアーでは中位・下位だった選手たちは、有名選手や上位選手がリブゴルフへ移籍したことで位置づけが相対的に上がり、ビッグ大会などに出るチャンスも、勝てるチャンスも増えている。だから、そうした選手たちも「得をした人」「得をする人」と言えるだろう。


■選手は破格の稼ぎ


 リブゴルフ側に目をやれば、創設の噂が広がっていた昨年末から今年の春ごろまでは、「そんなツアーが実現するはずがない」「創設されたところで、選手が集まるはずがない」と言われていた。

 しかし蓋を開けてみれば、PGAツアーからもDPワールドツアーからも、有名選手が次々に移籍した。

 米国内ではゴルフ関係者以外からも、サウジアラビアのオイルマネーを資本とするリブゴルフを激しく批判する声が多数上がり、その批判はいまなお続いている。しかし、そうした動きとは裏腹に、リブゴルフの試合会場には大勢のギャラリーが詰め掛けた。とりわけ米国開催だった試合は、「満員御礼」に近い大盛況となった。

 そうした成功例を積み重ねつつ、リブゴルフは2023年の試合数を当初予定していた10試合から14試合へ増やしたほどで、運営側はホクホク顔だ。とりあえず現状では「得した人」と言うべきなのだろう。

 リブゴルフへ移籍した選手たちの「損得」を見てみると、金額上は明らかに「大いなる得」である。

  米国出身の ダスティン・ジョンソン は、リブゴルフと4年間の契約を結んだことで125万ドル(約2億円)の契約金を事前に受け取った上で8試合を戦い、手に入れた賞金は個人戦・チーム戦を合わせて3563万ドル(約52億円)。ジョンソンは6月まではPGAツアーでも稼いでいたため、それらをすべて合算すると今年の彼の賞金総額は6850万ドル(約100億円)になる。ジョンソンはPGAツアーでプレーしていた過去15年間の賞金総額が7500万ドル(約110億円)だったことを考えると、それに近い金額を今年1年だけで稼いだことになる。

  リブゴルフでジョンソンに次いで稼ぎが多かったのは南アフリカ出身のブランデン・グレース で1660万ドル(約24億円)、3位は米国出身のピーター・ユーライン で1280万ドル(約19億円)。

 ちなみに、リブゴルフに参加した4名の日本人は、香妻陣一朗 が120万5000ドル(約1億7665万円)で45位。谷原秀人 は75万2600ドル(約1億1033万円)で54位、木下稜介 は62万4000ドル(約9148万円)で56位、稲森佑貴 は50万1000ドル(約7344万円)で57位だった。どの選手も、主戦場のツアーより明らかに多くのマネーを手に入れ、大いに「得をした人」となった。

 さらに言えば、リブゴルフに移籍した選手のバッグを担ぐキャディも、みな笑顔を輝かせている。というのも、これまでなら選手が予選落ちすれば賞金はゼロとなり、キャディの実入りはベースとなる金額のみだった。

 しかし、予選落ちがないリブゴルフでは、たとえ最下位でも途中棄権でも、選手は1600~1800万円の報酬が約束されているため、キャディは少なくともその10%以上の金額を必ず受け取ることができるようになった。その意味では、働く場をリブゴルフへ移したキャディたちも「得をした人」と言うべきなのだろう。


■世界ランキングの問題


 こうして見ると、リブゴルフに移った人々は、お金の面では誰もが「得をした人」と言えそうである。

 だが、これまで世界の頂点、あるいはその近辺で輝いていたトッププレーヤーたちは、リブゴルフ移籍後、世界ランキングのポイントを得ることができず、順位は下降の一途を辿っている。その結果、来年のメジャー大会に出場できないことになれば、それは彼らにとっては「甚大なるダメージ」となる。

 そんな中、R&A(ロイヤル・アンド・エンシェント・ゴルフ・クラブ・オブ・セント・アンドリュース)のマーチン・スランバース会長は、「来年の全英オープンにおいてはリブゴルフ選手を制限しないつもりだ」と明かした。しかし、制限はされないとしても、リブゴルフ選手の世界ランキング下降が止まるわけではない。

 リブゴルフにはいまなおテレビ放映権契約がつかないため、試合中継はユーチューブなどごく一部の方法に留まっており、かつてのスター選手たちの露出が激減しているのも事実だ。

 いや、選手の露出度合いを取り沙汰する以前に、世界的に眉をひそめられているサウジアラビアのオイルマネーに「尻尾を振って移籍した」と批判され、古巣のツアーを「平気で裏切った」との誹りを受け、せっかく築き上げてきた信頼や名声を失った元トッププレーヤーたちは、「大損をした人」と言っても過言ではない。

 だが、リブゴルフでジョンソンのチームメイトとしてプレーしている元PGAツアー選手での米国出身のパット・ペレス は、「たくさんの批判や誹りを受けているけど、そうしたことを僕はまったく気にしない。やるべきことをやったぜ」と、ビッグマネーを得たことにただただご満悦である。

 何を「得」と考え、何を「損」とみなすか。それぞれの価値観によって、今年、「得をした人」と「損をした人」の見方や定義は大きく分かれるのだろう。

 しかし、「大金を得ること=勝者」とだけは考えたくないし、そう考える人々だけでゴルフ界が占められてしまうことだけは避けたいと私は思う。

舩越園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学客員教授。東京都出身。早稲田大学政治経済学部経済学科卒。1993年に渡米し、在米ゴルフジャーナリストとして25年間、現地で取材を続けてきた。2019年から拠点を日本へ移し、執筆活動のほか、講演やTV・ラジオにも活躍の場を広げている。『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『才能は有限努力は無限 松山英樹の朴訥力』(東邦出版)など著書訳書多数。1995年以来のタイガー・ウッズ取材の集大成となる最新刊『TIGER WORDS タイガー・ウッズ 復活の言霊』(徳間書店)が好評発売中。

デイリー新潮編集部

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