トリニダード・トバゴ戦で酷評された3バック、実は大正解というこれだけの根拠

■6月9日はエルサルバドル戦


 森保一監督が、就任15戦目にして初めて採用した3BK(スリーバック)による3−4−3の新布陣も、“勝利”という結果が出なければメディアは「森保不発」とか「大凡戦」として疑問を呈した。トリニダード・トバゴを迎えて6月5日に開催されたキリンチャレンジ杯で、日本は圧倒的に攻めながら0−0のスコアレスドローに終わったからだ。

「森保ジャパン、猛攻も不発 新布陣で呼吸合わず 初招集の久保建英はベンチ外」(zakzak[夕刊フジ電子版]:6月6日)

「【森保ジャパン】初採用の3バックに不安 ザック、西野監督時代にも試みたが失敗続きだった」(東スポWeb:6月6日)

「3バックにトライした森保ジャパン。無得点ドローに終わり攻撃面で課題」(時事通信:6月6日)

「【セルジオ越後】機能しない3バックをなぜ続けた?采配は疑問だし、選手も無策だった」(サッカーダイジェストWeb:6月5日)

 しかし、それほど3BKに問題があったのだろうか? 

 そもそも監督なら誰しも勝利を求めて采配を振るう。それがトリニダード・トバゴ戦で森保監督の選手起用にも表れた。注目を集める久保建英をベンチ外にし、スタートリストのメンバーは過去に招集歴のある選手を並べた。一部のメディアが久保を起用しなかったことを疑問視したが、過去の実績などを考えて起用のプライオリティーをつけるのは常識だ。

 そしてW杯本大会やW杯予選、アジア杯といった「絶対に負けられない試合」以外は、監督にテストしたい試合があるのも必然だ。なぜなら代表チームは、年間のテストマッチの数が限られているからでもある。

 本題に入ろう。トリニダード・トバゴ戦で採用した3−4−3システムは実に興味深いものだった。そして対戦相手のトリニダード・トバゴは、うってつけの対戦相手だった。

 トリニダード・トバゴのデニス・ローレンス監督は日本のスタートリストを見て、「3BKになりそうだと予感した」と話した。しかしキックオフ直後のシステムは4−4−2。ところが日本が3BKと確信すると、中盤アウトサイドの左MFネイサン・ルイスをFWに上げ、4−3−3にシステム変更した。

 攻撃の枚数が増えたことで、日本は守備時にWB(ウイングバック)の酒井宏樹か長友佑都のどちらかがDFラインに入る4BKに移行する。これまでアルベルト・ザッケローニ監督時代からトライして成功しなかった3BKからのシステム変更が、実にスムーズに行われたのだ。

 この点をCB(センターバック)の昌子源は「3BKは、昔はいいイメージがなかった。思っていた以上にできたのは間違いなかった」と手応えを口にした。

 システム変更には他にも利点があった。パスの選択肢が増えたことだ。ボランチの柴崎岳か守田英正がボールを持ってビルドアップする際、ワイドに開いたCBの冨安健洋と畠中槙之輔、WBの酒井と長友、2シャドーの堂安律と中島翔哉、そして1トップの大迫勇也とパスの選択肢が増えた。

 森保監督が3−4−3システムの利点として「攻撃では高い位置で幅を持って相手を分散できる。分散させるなかでビルドアップ」という目的は達成できた。

 ただし課題もあった。森保監督が「もう少しいい形で崩せればよかった」と言ったようにボールを支配して攻めながらもトリニダード・トバゴを完全には崩しきれなかった。その一因として、サイド攻撃にこだわるあまり、ゴール前に飛び込むフィニッシャーが少なかったことが指摘できる。

 それは後半に交代出場した右WBの室屋成も感じていて、「ボールが逆サイドにある時は中(ゴール前)に入って行くことも必要」と、ペナルティーエリアへ入る選手の枚数を増やす重要性を話していた。

 これまで実践してきた4−2−3−1では、1トップの大迫の近くにトップ下の南野拓実がいて、彼に両サイドMFの中島と堂安が絡み、1タッチでのパス交換から相手を崩してきた。そうした攻撃が3−4−3では影を潜めたため、相手を崩しきることができなかったと言える。

 ただ、実質的に練習2日という“ぶっつけ本番”では、森保監督も「もう少し時間が必要かな」というのは正直な本音だろう。「不発」なのは当然な結果でもある。


■日本代表育成の“一貫性”


 恐らく9日のエルサルバドル戦でも森保監督は3−4−3を採用するはずだ。9月から始まるカタールW杯アジア予選に向け、戦術の選択肢を増やす機会はこの2試合しかないし、17日から始まるコパ・アメリカは招集メンバーが東京五輪の選手がメインだからだ。

 といったところで、6月はキリンチャレンジ杯に加え、ポーランドで開催中のU−20W杯と、フランスで開催中のトゥーロン国際大会にU−22日本代表が参加と国際大会が重なった。

 残念ながらU−20日本代表は田川亨介らケガ人が続出したこともあり決勝トーナメント1回戦で韓国に0−1で惜敗した。しかしU−22日本代表はグループリーグ初戦で前回覇者のイングランドを2−1で倒し、第2戦のチリには6−1と圧勝した。最終戦こそポルトガルに0−1で敗れたものの、得失点差でグループリーグを首位で突破。08年以来となるベスト4進出で、6月12日の準決勝に臨む。

 U−22日本代表を率いるのは横内昭展監督代行(兼日本代表コーチ)、同じくU−20日本代表を率いるのは影山雅永監督(U−18日本代表監督)である。各年代の大会が重なったため、選手と指揮官は分散してそれぞれの大会に参加しているが、改めて日本は強化の一貫性により結果を残していると実感せざるを得ない。

なぜなら日本代表の森保監督は、サンフレッチェ広島のコーチ(2007〜2009年)、監督(2012〜2017年)を務め、監督としてチームをJ1リーグ優勝3度に導いた。横内は広島のコーチ(2003〜2017年)として森保を支え、影山も広島のコーチ(2001〜2005年)を務めた経験がある。各年代の代表監督とコーチは“広島人脈”で構成されているため、チームの基本コンセプトは統一されているのだ。

 その証拠に、日本代表は今大会で初めて3BKを採用したが、東京五輪のベースとなる現U−22日本代表とU−20日本代表は、立ち上げ時から3BKで戦っていた。

 そうした指導体制の一貫性を築いたのが、2014年に日本サッカー協会の技術委員長に就任した霜田正浩(現・レノファ山口監督)だった。霜田は、アルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ、ヴァイッド・ハリルホジッチと歴代の日本代表監督を招聘して日本代表の強化を図りながら、アンダーカテゴリーの指導体制にもメスを入れた。

 それまでのU−16(U−17W杯に臨むチーム)とU−19(U−20W杯に臨むチーム)は、どんなサッカースタイル、戦術を選択するかは、チームを率いる監督に任せていた。監督が好むサッカーに適応する選手を起用してきた。当時は、「勝負に負けたけど日本はいいサッカーをしていた」とか、「ボールポゼッションでは相手を上回った」と、敗れたものの自画自賛していたのがアンダーカテゴリーの現状だった。

 しかし霜田が委員長に就任した2014年はブラジルW杯で惨敗し、秋に立ち上げた五輪チームもアジア大会で韓国に敗れベスト8止まり。そしてU−16とU−19もアジア予選で敗れ、W杯出場を逃した。

 危機感を抱いた霜田は、それまで監督任せだったチーム作りではなく、各年代に共通した日本代表の問題点――「勝負弱い」、「チャンスに決められない」などを洗い出し、同じコンセプトによる指導体制の一貫性を訴えた。それが2015年4月に発表した「2015日本代表強化指針」だった。

 トップチームからアンダーカテゴリーまで、アジア予選を突破してW杯で結果を残す。そのため各年代に“縦グシ”を入れたのが「強化指針」でもあった。スピードやアジリティなど日本人のストロングポイントを生かしつつ、デュエルなど課題であるフィジカル強化にも取り組み、ボールポゼッションではなくゴールを目ざす――サッカーの原点に返る強化指針でもあった。

 と同時に、霜田はU−15とU−18の日本代表も立ち上げ、共通の目的で強化を図った。アンダー世代の継続的な強化がトップチームの強化には欠かせないと判断したからだ。現在、日本代表のコーチを務める齊藤俊秀(元日本代表)は2015年にU−15日本代表のコーチに就任し、翌年はU−16日本代表のコーチなどを歴任し、現在に至っている。

 今回U−20日本代表コーチとしてW杯に挑んだ秋葉忠宏(ジェフユナイテッド市原などで活躍。アトランタ五輪日本代表)は2014年からU−21日本代表のコーチを務めるなどアンダーカテゴリーで指導を続けてきた。

 五輪チームをベースに臨むコパ・アメリカで日本はどんな戦いを見せるか楽しみだが、久保建英を始め東京五輪の候補選手のパイはかなり広がった。それは日本代表が各年代で共通した強化指針の下で強化してきた成果でもある。その結果、日本代表は、香川真司や岡崎慎司らW杯に連続出場した実績のあるベテランといえども、ポジションを保証されないほど競争は激化した。

 9日のエルサルバドル戦は、勝敗だけでなく、レギュラー争いも含め3BKはスタメンが代わっても機能するのかどうか、興味深い一戦になることは間違いない。

六川亨(ろくかわ・とおる)1957年、東京都生まれ。法政大学卒。「サッカーダイジェスト」の記者・編集長としてW杯、EURO、南米選手権などを取材。その後「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。

週刊新潮WEB取材班編集

2019年6月9日 掲載

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