コパアメリカでスポーツ紙は「久保建英」を絶賛、過大評価で無責任と言われる理由

■「東京五輪は久保中心」はウソ?


 久保、久保、久保……。確かにスターが誕生した。仕方ないのかもしれない。しかしながら「コパアメリカブラジル2019」では、日本代表が負けても引き分けても、常に久保建英(18)が報道の中心だ。これに首を傾げるファンも少なくないのではないだろうか?

 ***

 まずは試合を振り返ろう。日本時間で18日に行われたチリとの初戦は0−4の完敗。21日のウルグアイ戦は2−2の引き分けに終わった。

 今回の日本代表は若手中心で、戦力不足を指摘する声は開幕前から根強かった。森保一監督(50)は会見で「所属クラブは派遣義務のない大会なので難しかった」とベストメンバーに遠いことを認めている。

 更にチリ戦の場合、森保監督はスタメンに東京五輪世代の8人を起用し、そのうち6人が初のA代表だった。これでは2015年と16年、コパアメリカを連覇した強豪チリに屈辱的大敗を喫したのは当然と言っていい。

 ところがスポーツ紙を見れば、日刊スポーツとスポニチは19日の1面で久保を絶賛した。見出しはそれぞれ、以下の通りだ。

「世界絶賛デビュー久保 完敗も『輝き』股抜き『最高』2人抜き『偉大』 悔しいシュート『言い訳すればボール緩くて少しずれた』」(日刊スポーツ)

「久保0−4の光 翼になったバルサMF置き去り V3狙う南米王者チリ認めさせた“日本の顔” 漫画みたい!? ドリブルで2人かわしサイドネット直撃シュート 『キャプテン翼』のモデルがプレーした地で魅了 最年少18歳13日公式戦 初先発トップ下フル出場も決定機外し自分に怒り『非常に腹立たしい』」(スポニチ)

 更に日刊スポーツは6面に「攻撃に『久保モード』を 東京五輪で勝つための課題」との署名記事を掲載した。

記事は《五輪まで残り約1年間。今大会の最低残り2試合も含めて複数の起用法を試し、最大限に力を出せる「久保モード」のような切り札的オプションを作るのも1つだ》と提言。東京オリンピックのため「チームけん引存在」と期待を込めた。

 0−4で惨敗したことも、ネット上では「五輪強化のために仕方がない」と理解を示す書き込みが少なくなかった。

 だが、ちょっと待て、と言いたい。そもそも久保は東京五輪に出場できないリスクがある。それを無視した報道を行っていいのだろうか?


■大迫勇也は五輪出場“禁止”


 2020年の東京五輪で、サッカーは開幕式より2日早い7月22日が女子、翌23日が男子初戦。決勝戦は女子が8月7日、男子が8月8日というスケジュールだ。もし久保がFC東京の選手だったならば、当然ながら主力選手としてフル出場するだろう。

 しかし彼は今夏、レアル・マドリードに移籍することが決まっている。スペインリーグの開幕はヨーロッパでも遅い方となり、例年は8月下旬から9月という具合だ。

 今シーズンを例に挙げると、例えばレアルのライバルであるバルセロナは7月23日、プレミアリーグのチェルシーと埼玉スタジアムで、27日にはヴィッセル神戸とノエビアスタジアムで対戦する。

 同じようにレアルも7月21日から27日にかけてアメリカ遠征を実施する。そして、ブンデスリーガのバイエルン・ミュンヘン、プレミアリーグのアーセナル、そしてリーガ・エスパニョーラのアトレティコ・マドリードといったクラブと試合を行う。もしかしたら久保は、このアメリカ遠征でデビューする可能性がある。

 このようにヨーロッパのクラブチームは7月末から始動し、プレシーズンマッチとキャンプを経てリーグ戦を迎える。こうしてスケジュールを詳細に書けば、意図に気づく方も多いだろう。レアルと東京五輪の強化スケジュールは、ほとんど重なっているのだ。

 そこで“レアルの久保”は果たして東京五輪に出場できるのかという、しごく真っ当な疑問が浮かぶ。森保監督をはじめ、日本サッカー協会はレアルからOKをもらっているのだろうか?

 ご存知の方も多いだろうが、五輪の場合、日本側は海外クラブに対して日本人選手を出場させる強制力を持たない。例えば東京五輪にOA(オーバー・エイジ)枠での選出を考えていた大迫勇也(29)の場合、所属するブンデスリーガのヴェルダー・ブレーメンは早々と東京五輪出場を拒否してしまった。

 2016年のリオ五輪では、「クボ」は「クボ」でも久保裕也(25)の出場を巡って大騒ぎになったのは記憶に新しい。

 当時、久保はスイス・スーパーリーグのBSCヤングボーイズに所属。クラブ側は久保の五輪参加を認めていた。ところが五輪の開催直前にFWの選手が負傷、久保を出場させる必要からいきなり参加を拒否した。慌ててバックアップ・メンバーとして帯同していた鈴木武蔵(25)と入れ替えるドタバタ劇があった。

 A代表ならまだしも、五輪チームで久保を中心にしたチーム作りは、このような危険をはらむ。

久保はバルセロナの下部組織で育ったため、18歳になる今夏の復帰は既定路線だった。そしてクラブ側は最初の2年間はBチームでのプレーを条件とした。もし、久保がバルセロナに入っていれば、東京五輪への出場はOKだったのかもしれない。

 それを久保は「Bチームでのプレーは1年間、2年目からはトップチームへの昇格」を訴え、バルセロナと決裂。それをレアルが呑んで移籍が実現した。

 つまり久保は来夏、トップチームでレギュラー争いに挑む。極めて重要な時期だ。「五輪どころではない」と言っても差し支えない。クラブ側も本音は同じだろう。東京五輪に久保が出場できない可能性は厳然として存在するのだ。

 同じことはベルギー・プロ・リーグのシント=トロイデンVVに所属する冨安健洋(20)や、オランダ・エールディヴィジのフローニンゲンに所属する堂安律(21)にも当てはまる。松本山雅の前田大然(21)もバルセロナが獲得に動いているとの噂がある。

 つまり現時点で久保、冨安、堂安、前田の4人が東京五輪を欠場する可能性がある。日本はベストメンバーで東京五輪に出場できないかもしれないのだ。


■スポーツ紙の記事は過大評価


 コパアメリカのチリ戦に戻ろう。久保は前半11分に大型MFプルガルの股抜きと、後半20分に中山雄太とのワンツーからドリブルで2人を置き去りにして放ったシュートくらいしか見せ場はなかった。

 久保の優れている点はシュートミスについて「言い訳をすれば、ボールが緩くて少しずれてしまった」と振り返ったように、成功しても失敗してもその原因をしっかりと自覚し、言葉にできることだ。それは15歳でJ3リーグにデビューしたときからかわらない。

 ドリブルにしても、自ら言葉にしたように「リミッターが外れるじゃないですけど、ああやって何も考えずにスルスルと抜ける時がある」シーンは、私たちが何度も目撃してきたところだ。

 久保に対する期待値を考えれば、チリ戦の彼は「物足りなかった」というのが正直な評価だろう。パサーである柴崎岳と一緒にプレーしたのはエルサルバドル戦の後半10分間だけ。他のメンバーとも初めてプレーしただけに、久保が望むタイミングでパスが出てこなかったことも輝けなかった理由の1つに違いない。

 もう1つ気になったのは久保のポジションだ。エルサルバドル戦で森保監督は3−4−3でスタートし、後半22分に室屋成と山中亮輔を投入して4−2−3−1に変更。そして後半22分に南野拓実に代え久保を投入し、トップ下に起用した。

 しかし久保は右サイドに流れてプレーすることが多く、このため堂安と重なり、堂安は窮屈そうにプレーしている印象を受けた。

 久保は2列目もしくは2トップでもプレーでき、チリ戦の後半20分のプレーのように、FC東京でも大分戦では左サイドからタテへの突破でゴールを決めた。しかし本来は右サイドを得意としている。右サイドならカットインしながらのフィニッシュや、ラストパスが出せるし、タテに抜け出してのシュートやクロスとプレーが多彩だ。

 森保監督は、A代表でも五輪代表でも、右サイドMFのファーストチョイスは堂安(コパアメリカは不参加)で、左MFは中島翔哉(24)であり五輪チームでは安部裕葵(20)のため、必然的に久保はトップ下での起用になったのかもしれない。

 いずれにせよ、日刊スポーツやスポニチの1面は、やはり過大評価と言わざるを得ない。久保は自分が持つ実力を発揮できなかった。彼が類いまれな才能を持っているからこそ、厳しい目で報道するべきではなかっただろうか。

 久保は2戦目のウルグアイ戦でベンチスタートとなった。それでも後半38分に三好康児(22)に代わって得意とする右MFで起用されたが、日本はウルグアイの攻勢に守勢一方で、久保もこれといった見せ場を作れずにタイムアップの笛を聞いた。

 さすがに報道の姿勢はチリ戦に比べると冷静だったが、それでも久保について言及した記事は多かった。例えば日刊スポーツで「ちゃんとサッカーしなさい」の連載を持つセルジオ越後氏(73)は21日(電子版)「三好2発で久保は次戦で真価問われる」との記事を掲載した。

《終盤に投入された久保はチームが防戦一方の中で、なかなかボールに触れられなかった。次戦は先発すると思われ、勝たねばならない試合で真価が問われる》

 次戦のエクアドル戦は日本時間の25日。過去の対戦成績は日本の2勝だが、いずれも親善試合のため参考にはならないだろう。

 久保のフル出場を予想する声は少なくない。日本が決勝トーナメントに進出するためにはエクアドル戦の勝利が前提条件になることだけは確かだ。久保にとっても重要な1戦になるのは間違いないだろう。

週刊新潮WEB取材班

2019年6月23日 掲載

関連記事(外部サイト)