引退明言の22歳、女子柔道「朝比奈沙羅」の二刀流 世界選手権の見所は

 彼女が歩む柔の道は、一風、変わっている。女子78キロ超級の朝比奈沙羅(22)は恵まれた体格を活かし、数々のタイトルを獲ってきた。来る東京五輪の代表も手が届くところに位置するのだが、まだ決まったわけではない。なのに、すでに五輪後の引退を決めてしまっているのだ。理由は“二刀流”だからというが……。

 結論を先に記すと、医者の家に生まれた彼女は、自身も医師になるという夢の実現へと踏み出すのである。父親が麻酔科医、母親は歯科医だ。

 しかし、東海大学医学部の受験に失敗し、体育学部へと進んだ。今春、大学を卒業すると、医学部専門の予備校に通いながら競技を続けている。そんな彼女にとって、今月25日に開幕する世界選手権は人生を左右する大一番だ。スポーツ紙の五輪担当記者は言う。

「朝比奈選手は東京五輪で日本代表として戦い、そのあとのグランドスラム東京大会に出て、来年末で引退すると公言しています。そのあとは本格的に医者を目指すというのです。そんな“二刀流”の選手はこれまで柔道界にいませんでしたね」

 だから、変わり種として扱われてきたが、

「彼女に、信念を曲げるつもりはありません。だからこそ、夢への第一歩として、今度の世界選手権が大きな意味を持ちます。五輪代表の座を勝ち取るために、世界選手権と11月のグランドスラム大阪大会で優勝する必要があるんですよ」


■世界女王の経験


 78キロ超級の代表枠は一つ。

「朝比奈選手は、176センチ135キロのサイズを活かし、向かうところ敵なしでした。全日本体重別選手権では女子史上初の4連覇を達成し、昨年の世界選手権でも女王となった。しかし、2年前から台頭してきた素根輝(あきら)選手には分が悪い。国内大会で5連敗中なのです。素根選手は19歳で162センチ110キロ。成績も上り坂にある。日本で唯一、朝比奈選手を投げられる選手です」(同)

 今度の世界選手権では朝比奈、素根両選手が日本代表となっているが、

「ともに勝ち上がれば、朝比奈選手は決勝で素根選手に勝たなければいけません。負けたら五輪代表の道が遠のきます。それは同時に、彼女が描く夢への第一歩で躓(つまず)くことでもある。だから世界選手権は朝比奈選手にとって大事なのです」(同)

 そんな彼女について、ソウル五輪柔道女子の銅メダリストでJOC理事の山口香さんはこう語る。

「朝比奈さんが五輪に出た場合、何色かは別にしてもメダルは確実でしょう。素根さんは対朝比奈という点では強いですが、対外国人選手となると、世界チャンピオンになった経験のある朝比奈さんに分があると思います。朝比奈さんの意気込みは相当でしょうから素根対策もしているはず。五輪に出られなければ、そこで引退となってしまいますからね」

 それと、世界選手権のもう一つの見どころも教えてくれた。彼女たちの所属先(朝比奈は「パーク24」、素根は環太平洋大学)の総監督である。

「朝比奈さんは吉田秀彦さん、素根さんは古賀稔彦さん。二人ともバルセロナ五輪の金メダリスト。ともに柔道私塾の講道学舎と世田谷学園の出身ですし、仲もいい。五輪も熟知しています。そんな二人の教え子が戦うのも面白いですよね」

 二人の戦いに注目するもよし、朝比奈選手の“二刀流”を応援するもよし、だ。

「週刊新潮」2019年8月29日号 掲載

関連記事(外部サイト)