久保建英はオランダ遠征で輝きを失っていた 思い出すFC東京「小川諒也」の不安

久保建英はオランダ遠征で輝きを失っていた 思い出すFC東京「小川諒也」の不安

久保の“ゲーム体力”は?(C)JFA

 森保ジャパンの、ヨーロッパでプレーする選手だけによる初のオランダ遠征は1勝1分けで終了した。10月9日のカメルーン戦は0−0のドロー、そして13日のコートジボワール戦は後半アディショナルタイム1分にFKから植田直通(25)[セルクル・ブルージュ:ベルギー]の代表初ゴールで1−0の勝利を収めた。

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 Jリーグの選手は過密日程と、海外に渡航した場合は帰国後に2週間の自主待機が義務付けられているため、ヨーロッパでプレーする選手だけによるフレンドリーマッチのメリットは初戦のカメルーン戦から顕著に表れた。

(註:橋本拳人(27)[FCロストフ:ロシア]と浅野拓磨(25)[パルチザン・ベオグラード:セルビア]は、オランダに入国が認められず招集外)。

 まず時差がないことがあげられる。普通、時差を解消するには、時差に応じて同じ日数を現地で滞在する必要がある。今回のオランダなら時差は7時間なので、1週間の滞在が必要になる。しかしW杯やアジア杯、オリンピックなどの国際大会でない限り、時差調整はしないのがオーソドックスだ。短期間の滞在ですぐに帰国するなら、居住している国の時差に合わせた方が便利だからだ。

 このため日本国内で開催されるフレンドリーマッチは、対戦相手はもちろん海外でプレーする日本人選手もコンディションはベストとは言いがたかった。時には“手抜き”をする来日チームもあった。

 その点、今回の2試合は、コートジボワール戦を解説した元日本代表の戸田和幸氏(42)が「移動も時差もないのでレベルは上がる」と指摘したように、“本気度”が高い試合だった。


■“真剣勝負”のメリット


 加えて両国とも11月にはアフリカ・ネーションズ杯の予選を控えていて、指揮官は本番を想定してシステムを変更するなどのテストを実施したため、日本にとってもカメルーン戦では3BKを試すなど収穫の多い2試合と言えた(もちろんデメリットもあったが、それは後述しよう)。

 試合は、あまり当てにならないFIFAランクだが、カメルーンが53位、コートジボワールが60位と示す通り(ちなみに日本は28位)、チームの完成度でカメルーンに一日の長があった。カメルーンは選手の戦術理解度が高く、素早いフォローでパスコースを複数作り、ショートパスを回して立ち上がりから日本を攻め立てた。

 コートジボワールが、日本の前線からのプレスが効果的だったとはいえ、自陣からロングボールを3トップのジェルビーニョ(33)[パルマ・カルチョ1913:イタリア]と、ニコラ・ペペ(25)[アーセナルFC:イングランド]に出して、アフリカ勢らしい個人技による突破を繰り返したのに対し、カメルーンの攻撃は洗練されていて、ヨーロッパ勢のスタイルに近かった。

 カメルーン戦ではボール支配率で劣勢に立たされた日本だったが、これこそ森保ジャパンが望むところだろう。W杯はもちろん、昨年1月のアジア杯でさえ、日本はボール支配率で優位を保つことはできなかった。このためカウンターとセットプレーが“真剣勝負”を勝ち抜くカギになる。こうした試合は、日本でのフレンドリーマッチではなかなか経験できない。これもアウェーのマッチメイクによるメリットだ。


■2連勝の可能性も


 そして森保一監督(52)は「速攻を仕掛けられる時は仕掛けます」としながらも、それができない時は「ディフェンスラインからボールをつないで相手を崩していく」のが第2の選択肢となる。

 そのためコートジボワール戦ではゴールキックをつないで攻めることに加え、カメルーン戦の反省から、吉田麻也(32)[UCサンプドリア:イタリア]は「スローインからボールを失う回数を減らす」ことも課題にあげた。

 結果はカメルーンに0−0、コートジボワールに1−0だったが、カメルーン戦はカウンターから大迫勇也(30)[ヴェルダー・ブレーメン:ドイツ]がフリーで放ったヘッドと、右CKから吉田のヘッド、終了間際の久保建英(19)[ビジャレアルCF:スペイン]の直接FKが決まっていれば3−0の勝利を収めていただろう。

 同じくコートジボワール戦も鎌田大地(24)[アイントラハト・フランクフルト:ドイツ]がフリーで放ったシュートと、後半26分のタテパス1本のカウンターから南野拓実(25)[リヴァプールFC:イングランド]が至近距離から狙った一撃が決まっていれば3−1で勝てた可能性が高かった。残念ながら「ボールをつないで相手を崩す」シーンから決定機をつかむことはできなかったが。


■久保のミス


 森保監督は、カメルーン戦のスタメンからコートジボワール戦では7人を代え、2試合で20人の選手を起用した。彼ら1人1人のプレーについて述べるのは控えるが、注目度の高かった久保については触れておこう。

 カメルーン戦は堂安律(22)[アルミニア・ビーレフェルト:ドイツ]に代わって後半20分から出場。コートジボワール戦ではスタメンで、後半16分に南野と交代した。2試合合計86分では、マーカーを振り切ってクロスを上げるシーンやコンパクトな振りのシュートを見せる一方、トラップやパスで“らしくない”単純なミスも散見された。

 コートジボワール戦では前半、右サイドの伊東純也(27)[KRCヘンク:ベルギー]らのクロスにペナルティーエリアへの侵入が遅れ、「岡崎慎司(34)[SDウエスカ:スペイン]がいれば」と思わずにいられなかった。

 久保が輝きを失った一因として考えられるのは、今シーズン移籍したビジャレアルでは終盤の交代出場が多く、いまだ90分フル出場したことのないことがあげられる。試合から遠ざかれば“ゲーム勘”が鈍るのはもちろん、“ゲーム体力”も衰えるため、プレーに余裕がなくなっているのではないだろうか。


■“優先順位”の再考


 昨シーズンのJリーグで左SB小川諒也(23)[FC東京]が8月に左足首を傷めた。全治6〜8週間のケガで、11月下旬にはチームの全体練習に復帰するまで回復した。リーグ戦出場も間近と思いきや、小川本人は「まだゲーム体力が戻っていません」と不安を口にした。いくら練習で100%追い込んでも、強度の高い実戦を戦い抜く体力は別物ということだろう。

 小川と同じ悩みを久保は抱えているのではないだろうか。

 過去の日本代表の監督は、外国人であれ日本人であれ、ヨーロッパでプレーする選手、いわゆる“海外組”を重用してきた。Jリーグより強度の高い試合や練習をしているのがその理由だった。日本代表ではレギュラーでも、海外のチームへ移籍したらポジションは保証されていない。そうした競争も選手をタフにするとして、海外組は国内組に優先されてきた。

 しかし、いまは海外組だけで2チームを作ろうと思えば作れるようになった。このため“海外組だから”という優先順位はもう辞めるべきである。海外組でもまずレギュラーかどうか。次に試合出場の多寡を招集や試合出場の基準にすべきだと思う。


■高まらない完成度


 そういう意味で森保監督は、ファンはもちろん、とりわけメディアの期待が高い久保といえども特別扱いをしなかったのは高く評価したい。

 その森保監督だが、A代表の勝利は昨年12月14日のEAFF E―1選手権の香港戦(5−0)以来となる(それまで試合がなかったのだから当然だが)。今年1月にはタイで開催されたU―23アジア選手権でU―23日本代表を率いたものの1分け2敗に終わっている。

 そんな森保監督が目指すサッカーのコンセプトは、1年ぶりの代表マッチと練習でも「新たに伝えるコンセプトはない」とした上で、「チームにはベースがあってオプションがある。問題を解決、修正能力のあるのが強いチーム」と考え、「ベーシックな部分を伝えたうえで、オプションは選手が話し合った上で変えていって欲しい」と、選手の自己判断を尊重するスタイルである。

 試合が始まってしまえば監督のできることは限られている。そこでピッチ上で選手らが考えて、臨機応変に対応して欲しいというのが森保監督のサッカー観だ。恐らく日本人に一番欠落している発想でもあるだろう。

 ただし不安がないわけでもない。森保監督はスタッフらと共に綿密なスカウティングにより選手を発掘し、A代表と五輪代表のラージグループを広げてきた。それ自体は悪いことではない。気がかりなのは、いつ選手をセレクトする作業に入り、チームとしての完成度を高めていくのか、なかなか見えてこないことである。


■森保監督の懸念材料


 コロナ禍により五輪は1年延期され、W杯予選も世界的な規模で先送りされた。しかしながら今年1月のU―23アジア選手権は東京五輪の最終予選も兼ねていたため、韓国やサウジを筆頭にどのチームも完成度の高いチームを送り込んだのに対し、森保監督は海外組を招集できなかったとはいえ選手のテストを繰り返してグループリーグで敗退した。いくら予選を免除されているとはいえ、他国と比べてチーム作りの遅れは明白だった。

 A代表に関して言えば、3月と6月にアジア2次予選が終了すれば、9月からはアジア最終予選が始まるはずだった。

 ちょうど4年前の2016年9月、リオ五輪後に当時のヴァヒド・ハリルホジッチ監督(68)はホームにUAEを迎えてアジア最終予選をスタートさせたが、結果は1−2の黒星スタートだった。

 今回はコロナの影響でW杯予選の日程が変更されたものの、本来ならチームの骨格はもちろん、スタメンとサブの役割も見えてきてもいい段階である。果たして森保監督は、いつチームのメンバーを固める作業に入るのだろうか。

 A代表は言うに及ばず、五輪代表にいたっては三笘薫(23)[川崎フロンターレ]らの台頭は好材料だが、いったい誰が招集されるのかさっぱりわからない状況だ。コロナの影響があるかもしれないし、チーム作りは日々変化するものかもしれないが、それでもこれが森保監督につきまとう懸念材料と指摘したい。


■10億円の収入減


 日本サッカー協会は14日、11月17日にオーストリアでメキシコと親善試合を実施すると発表した。コロナによる出入国の規制が緩和されない限り、海外組によるヨーロッパでの試合開催はやむを得ないだろうし、それなりのメリットがあることは前述した。

 その一方で、アウェーの親善試合はデメリットもある。Jリーグ同様、入場者に制限があるとはいえ、入場料収入がまったく入ってこない。それに伴うスタジアムでのグッズ販売、飲食などの収入もゼロだ。幸いにも今回の2試合は、民放2社がテレビ中継したおかげで、1試合最低1億円とも言われる放映権料が日本サッカー協会に入った。

 しかし3月と6月のW杯2次予選、10月と11月の最終予選と親善試合が延期になったことで、日本協会は10億円以上の収入減になるだろう。「サムライブルーが稼いで、なでしこジャパンやアンダーカテゴリーの強化費を捻出する」という図式がコロナで崩れた。こればかりはコロナの沈静化を待ちつつ、代表選手のさらなる成長を期待するしかないだろう。

六川亨(ろくかわ・とおる)
1957年、東京都生まれ。法政大学卒。「サッカーダイジェスト」の記者・編集長としてW杯、EURO、南米選手権などを取材。その後「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年10月17日 掲載

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