劇薬がなければ変化も生まれず……メキシコ戦は森保監督の理想を追求する交代策で自滅

劇薬がなければ変化も生まれず……メキシコ戦は森保監督の理想を追求する交代策で自滅

濃霧の中を走る久保建英(日本サッカー協会提供写真)

■決定機すら作れず


 オーストリアへ遠征中の日本代表は18日(現地時間17日)にグラーツでメキシコと対戦し、0−2で敗れた。これで森保ジャパンの2020年の戦績は2勝1分け1敗となった。

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 試合後のことである。メキシコのヘラルド・マルティーノ監督(57)に日本の記者が質問した。

「メキシコ・リーグでプレーしている選手が多いが、ヨーロッパに行かなくても代表チームが強い理由は?」

 たぶん記者の頭には、「レベルの高い選手=ヨーロッパでプレー」という図式があったのだろう。

 それに対しマルティノ監督は「答は簡単。メキシコの上位チームは競争が激しく代表レベルにある。元々ヨーロッパでプレーする選手は少なく、50%は国内でプレーしている」というものだった。

 さらに付け加えるなら、メキシコ・リーグはギャラも高い。ヨーロッパのビッグクラブでプレーするのは1つのステイタスであるが、それは高額なギャラとリンクしている。プロである以上、高額なギャラを提示したクラブでプレーするのは当然のことだ。

 ヨーロッパのビッグクラブでプレーしている選手が少ないからといって見下したわけではないだろうが、森保一監督(52)は「勝つ采配」ではなく、「理想を追求」する交代策で自滅した。W杯ベスト16の常連でもあるメキシコは、強いというより“したたか”で、相変わらずの試合巧者だった。


■チャンスを逃した日本


 ただ、テストマッチでメキシコに勝利したからといって、それが2022年カタールW杯のベスト16を約束するものではないし、“ロストフの悲劇”を払拭できたと断言できるものでもない。個人的には、日本の課題は継続されたままであることを確認できたメキシコ戦だった。

 戦い慣れた4−2−3−1でスタートした日本。13日のパナマ戦からスタメンを9人も入れ替えたが、ダブルボランチに柴崎岳(28)[CDレガネス]と遠藤航(27)[シュツットガルト]を組ませ、1トップには大迫勇也(30)[ヴェルダー・ブレーメン]の代役として鈴木武蔵(26)[ベールスホット]を起用し、トップ下にはパナマ戦で好プレーを見せた鎌田大地(24)[フランクフルト]を抜擢するなど現時点でのベストメンバーと言えた。

 プレスの応酬となった開始10分を過ぎると、日本は原口元気(29)[ハノーファー]のミドル(12分)からチャンスをつかむと、15分には鈴木と伊東純也(27)[ヘンク]が立て続けに決定的なシュートを放つ。どちらかが決まっていれば逆の結果もありえたかもしれないが、日本は千載一遇のチャンスを逃してしまった。

 メキシコは4−3−3の布陣でスタートしたが、逆三角形の中盤はアンカーにルイス・ロモ(25)[クルス・アスル]を置く4−1−4−1に近い形にもなる。このロモのサイドのスペースを柴崎と遠藤は適度な距離を保ちながら利用したのが前半の日本だった。


■押し込まれた日本


 しかしハーフタイムにマルティノ監督は2人の選手を交代し、左MFカルロス・ロドリゲス(23)[モンテレイ]に代えて、エドソン・アルバレス(23)[アヤックス]をボランチに入れ、右MFオルベリン・ピネダ(24)[クルス・アスル]を中央寄りに配置するダブルボランチの三角形の中盤にして守備を強化した。

「20分くらいまでは監督になって最悪の試合。プレーの奥行き、深さが足りなかった。後半は先回りし、あまりやらないダブルボランチと、その前にピネダを置いて有利に進められるようになった」とはマルティノ監督の弁だ。

 とりあえず、対処療法として日本の攻撃の起点に蓋をしたといったところだろう。

 対する日本はというと、後半12分に柴崎に代え橋本拳人(27)[FCロストフ]、鈴木に代えて南野拓実(25)[リバプール]を投入し、ゼロトップの布陣にした。

 絶対的な1トップの大迫が不在の場合は、南野のゼロトップが森保監督にとってファーストチョイスであることは想像に難くない。

 加えて遠藤がゲームメイクに長足の進歩を見せているため、フィジカルに強くボール奪取能力の高い橋本とのダブルボランチは魅力的ではある。

 しかしこの交代と、折からのガスで視界が悪くなり、日本は一方的に押し込まれるようになった。


■似たタイプばかり?


 0−2になってから森保監督は攻守にハードワークのできる原口に代えテクニシャンの久保建英(19歳)[ビジャレアル]、鎌田に代えスピードスター浅野拓磨(26)[パルチザン・ベオグラード]、伊東に代え三好康児(23)[アントワープ]と交代カードを切った。

 しかしながらゴールはもちろん、決定機すら作れなかった。浅野の武器は伊東と同様スピードだが、2−0とリードしたメキシコは当然引いて守るため、快足を生かすスペースはない。本来なら空中戦に強いストロングヘッダーが欲しいところだが、海外はもちろん国内リーグにも該当者はいないのが辛いところ。

 パナマ戦後のことだった。森保監督はチーム作りの理想を次のように語った。

「ケガなどでアクシデントがあったときに、『誰としか組めない』ではなく、理想として『誰とでも組める』を連係連動しながらトライしていって欲しい」

 メンバーが代わっても目指すサッカー、理想とするスタイルやコンセプトは変わらないということだ。

 しかし、その弊害として似たようなタイプの選手が選ばれている気がしてならない。伊東と浅野、久保と三好に、今回は召集外だが堂安律(22)[アルミニア・ビーレフェルト]に中島翔哉(26)[ポルト]らだ。

 それぞれ特長が異なるのは当然だが、スピード系でありドリブラーという共通点がある(中島はそれに加えて決定力もある)。


■メダルなど夢物語


 かねてより森保監督は、選手交代の拙さを指摘されてきた。起用された選手個人のパフォーマンスにも問題があると思っていたが、似たようなタイプの選手が同じポジションに入るようでは変化も生まれにくい。いわゆる“劇薬”となるような選手交代がないのもそれが理由だろう。

「では他に、誰が代表選手にふさわしいのか?」と質問されても、正直、即答に困ってしまう。ただ、監督が替われば起用する選手も変わるかもしれない。

 かつてのハビエル・アギーレ監督(61)がそうだったように。残念ながらそんな時間的な余裕はないだろうし、そこまで逼迫しているわけでもないのが逆にもどかしいところでもある。

 とりあえず日本代表の年内の活動は終わった。12月にフランスで予定されていた大会に五輪代表は参加しないことも決まっている。

 年明けの活動は3月のW杯2次予選からとなるが、A代表より気になるのが五輪代表である。

 何人かの選手はA代表と掛け持ちしているが、それがチームの強化につながるとは到底思えない。

 どこの国もコロナの影響で五輪代表の強化まで手が回っていないかもしれないが、今年1月のU−23アジア選手権で日本は強化の遅れを露呈してグループリーグで敗退した。それだけに巻き返しを図らないと、メダルなど夢物語に終わりかねない。

六川亨(ろくかわ・とおる)
1957年、東京都生まれ。法政大学卒。「サッカーダイジェスト」の記者・編集長としてW杯、EURO、南米選手権などを取材。その後「CALCIO2002」、「プレミアシップマガジン」、「サッカーズ」の編集長を歴任。現在はフリーランスとして、Jリーグや日本代表をはじめ、W杯やユーロ、コパ・アメリカなど精力的に取材活動を行っている。

週刊新潮WEB取材班編集

2020年11月21日 掲載

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