ロッテ『謎の魚』の人気を探る!大当たりの背景に「時代が生んだ戦略」

謎の魚と、千葉ロッテマリーンズの井口資仁監督と、マーくん

 誰が呼んだか『謎の魚』。みなさんは、この『謎の魚』をご存じですか?

 これは2017年に誕生した、千葉ロッテマリーンズの球団キャラクターの名前です。魚といっても“深海魚の王子”、セミの脱皮のように中から違う形が次々と出てきて、5回も変化します。

 ■通常、球団キャラクターはチームへの応援がメインの役割なのですが、『謎の魚』は、第一形態から第五形態まで変身する、自身の姿を観客が驚き楽しんでくれることこそが、エールなのです。その人気は球場を飛び越え、アメリカやイギリスなど、世界をまたにかけ、「ミステリー・フィッシュ」としてロッテファンのみならず、現在でも謎の注目を集め続けています。

 これまで有名な球団キャラクターといえば、ヤクルトの『つば九郎』、中日の『ドアラ』など、誰もがひと目でわかる動物がユニフォームを着ているのが一般的でした。しかしロッテは、とにかく“謎”の存在にこだわったのです。

 噂には聞いていた筆者も、マリンスタジアムで観戦中、突然、出てきた『謎の魚』と、その変身のプロセスに大喜びの観客を目の当たりにし、なぜこのようなキャラクターが生まれ、なぜこんなにも人気があるのか、“謎”を探りたく、広報に取材をお願いしました。

 そこには意外な事実や苦労秘話がありました。実は球団にとって「キャラクター」は、われわれが想像する以上に、はるかに重要な存在だったのです。

■「プロ野球は、ご存じのとおりアスリートのパフォーマンスと人気で成り立っています。しかし、どんなに人気のある選手でも、毎年、いい成績を残せるとは限りません。結果が出せなければ、取材はなし、マスコミに取り上げてももらえない、非常にシビアで不安定な世界です。そこに通年、安定した話題を提供できるキャラクターがいてくれれば、心強いんです」(ロッテ球団広報)

 このような重い任務を背負ったキャラクターだからこそ、制作のコンセプトとしては、単にかわいくて子どもの人気を狙うのではなく、世間の注目を浴びる存在になる、という難しい目標を掲げなければなりません。そして実に4年の構想期間を経て、ついに誕生したのが『謎の魚』というわけです。

 このキャラクタ―のモデル設定は、■「マリーンズなので海の生き物にしよう、サメがいい、いや、もう少しかわいいほうがいい、魚にしよう! それなら深海魚の王子だ! とすんなり決まりました」というのは、先のロッテ球団広報。

 そして、このキャラクターにどう話題性をもたせるかが、第一の課題だったのでした。

 それでは、謎の魚出生の内幕話をご紹介しましょう。

 まず、球団サイドの要望は既存のキャラクターにはないキャラクターがほしい。言い換えれば、今までにない強い個性がマストだったと言います。

「当初、しゃべるキャラクターを作る案が出ましたが、それでは個性が弱いと議論の末、 “変形する”、それも1回だけでなく何回も変身していく設定にいきつきました。そして、少しずつ変身していく過程を、段階的に分けて小出しにしながら、時間をかけてマスコミに発表する作戦に決まりました」(ロッテ球団広報)

“ご要望”に応えて『謎の魚』のぬいぐるみも発売(2400円・税込み)

 次に、このキャラクターをどう名付けるかが、大きな思案のしどころでした。

 それまでのマリーンズキャラクターの名前は、マリンーズにちなみ、『マーくん』『リーンちゃん』『ズーちゃん』でした。名前は命名と同時に、キャラクターにイメージを与えてしまいます。例えば「魚太郎」だと和風で男性、「マイケル」なら外国人男性、というような先入観をもたれてしまいがちです。だからこそ、ネーミングに関しては、かなり難航したという。

■「本当に、いろいろな名前が候補にあがりましたが、どれも決め手に欠け、時間だけが過ぎていきました。この際、名前がない設定が斬新かもと、具体的な名前はつけず『謎の魚』に決定したんです。もちろん、多くの関係者はこの方針に“本当に大丈夫なのか”と懐疑的な見方をしていましたが……(笑)」(ロッテ球団広報)

 極めて初期設定はシンプル。詳細は視聴者のご想像におまかせです、というスタンスでスタートしたこのキャラクターについて、戦う側である、千葉ロッテマリーンズの井口資仁監督に伺ってみました。

■「私は謎の魚がとても好きで2017年末に都内で行った引退パーティーにも招待をさせてもらったほどです。魅力はやはり、なんともいえない不思議さではないでしょうか。これまでのキャラクターにはない新しさ。名前もわからない。詳しいプロフィールもなく、想像をかきたてられる。SNS社会の今にはピッタリで、いわゆるインスタ映えするキャラクターな気がします」

 人がSNSに投稿するのは、映える外見であり、ツッコみどころあり、人々の議論を煽(あお)る要素があることが、ポイントです。『謎の魚』は、名前、変身する姿、さらにプロフィールがほとんどないという設定が、SNSで話題になり、制作サイドの思惑は、見事に的中したのです。

 実際、ツイッターなどでは「普通にキモい!」「ロッテの新キャラ最高かよ」「キモカワ」と、プロ野球ファンだけでなく、ネット住民を巻き込んで話題となりました。

「こちらから『また変身するらしい』『もっとスゴイ形になるみたい』などのメッセージを発信することで、観客や視聴者の想像力をかきたて興味を持ってもらうために、魚の変身も1日で完結させず時間をかけて少しずつ公開し、飽きさせない工夫をしました。

 ■おまけに詳細なプロフィールがないため、マニュアルどおりの動きもなく、魚の行動は予測できない。神出鬼没だからこそ、偶然に出会ったファンや視聴者は驚き、楽しみ、SNSにアップしてくれることによって拡散され、話題になったのだと思います」(ロッテ球団広報)

 話題になったのは、その姿だけでなく『謎の魚』の言動にもあります。

 球団キャラクラーですから、当然、開幕戦から登場すると思いきや、一切、姿を見せず、突然ツイッターで、■「ぐふフフフ、今日はチケットが完売なので開幕戦はいきません。ぐふフフフ」とつぶやき、屋久島に行ってしまったり、台湾に上陸して台湾プロ野球の始球式に出たり、ハワイアン航空からオアフ島に招待されたり、“魚の競り”という謎の企画でとある企業に800万円で落札され、トラックで連れていかれてしまったり……。まさに、これまでのキャラクターでは想像もつかない異次元の行動をとっています。

 その後、男である、結婚している、子どもがいる、戌年(いぬどし)、新婚旅行はハワイに行った、競馬が趣味、などなど少しずつプライベートを公表してきました。これは、スタート時点で設定を“謎”にしていたのが大当たりで、そのときどきの社会的話題に便乗し、後づけの展開ができるので、まさに戦略勝ちといえるでしょう。

『謎の魚』はマスコミからの注目も集め、新聞、テレビなどで取り扱われ、話題性を確保しました。

「正直なところ、最初はマスメディアからよい反応はもらえず、取り上げられる機会も少なかったのですが、ファンによって動画が拡散され、それも海外まで広がると一気に価値が高まり、対応も一転しました。

■ 現在、Twitterフォロワー数は4万7000、デビュー直後の動画再生回数は2017年が80万6321回、2019年は10万回くらいです」(ロッテ球団広報)

 ここまで成長した『謎の魚』について、若くしてチームキャプテンを務めていた鈴木大地選手■は、どう思っているのだろうか。

■「デビューした2017年、最初はなんだろう? 程度しか思っていませんでしたが、周囲の人がこのキャラクターの話題をするようになって、そんなに話題になっているんだと思いました。

■ 驚いたのは、やはり今まで野球の話などしなかった人たちもこの謎の魚を知っていたことでした。それだけ広く受け入れられるキャラクター設定なのだろうなあと思います。今後、どのような展開になって話題になるか注目をしています」

 と、目を輝かせる。

 『謎の魚』の人気にあやかり、関連グッズは70点以上、販売。

味は謎の味と、深海の味の2種類、謎の魚まんじゅう(※現在は販売しておりません)

 2017年から2018年前半にかけて、ロッテマリーンズグッズの売り上げ1位に輝き、『謎の魚』グッズは全体の10%以上の売り上げを占めるそうです。

 最後に裏話、そして今年の活動について広報に聞いてみました。

■「設定上の裏話がひとつあります。第1形態、第2形態、第3形態、そして東京湾木更津付近で生まれ、上陸してから1度、海に戻り、また再上陸するという設定は、映画『シン・ゴジラ』をヒントにしています。たまたま子どもと映画を見ているときに思いつきました(笑)」

 これには気づいたファンの方も多く、SNS上で「それってシン・ゴジラだ!」と議論が起こり、マスコミが取り上げたそうですが、まさに狙いどおりの展開! 考えてみると謎の魚の成功は、まさにSNSが影響力を持つ現代社会を反映したキャラクターを生み出した成果といえるでしょう。。

 そして、今年、さらには2020年オリンピックイヤーに向けて、

「今年は小休止をして来年2020年にまた大きく展開をする予定をしています。このような企画はいつも攻めていては飽きられます。ですので今年はあえて引きぎみに活動をさせています。■まだ2020年にどのような展開をするかはお伝えできませんが、周囲の予想と逆をいく天邪鬼(あまのじゃく)精神にあふれる、魚のさらなる魅力を作れるようにがんばりますので期待してください」

 世界遺産のひとつである京都・東寺にある五重塔。その初層階の4隅の軒下に小さな4体の天邪鬼がいます。諸説ありますが、ひねくれている性格のため、お釈迦様が罰としてそこに封じ込め、五重塔を支える役目を与えたといいます。

 まさに『謎の魚』もロッテマリーンズという大きな屋台骨を陰で支える大役をつかさどっている存在だと思いました。

 がんばれ謎の魚!!!

北岡哲子(きたおか・てつこ)日本文理大学特任教授 感情・表情・脳と癒しをテーマにする「癒し工学」の創始者。工学博士であり、心の科学者。社会人1年目でヘッドハンティングされ、外資系のベンチャーへ移籍し経営のノウハウを学び、25歳で起業し女性200人を擁する人材派遣の会社を設立。結婚を機に仕事を完全に辞め専業主婦になる。育児が一段落してから独学で心理学を、さらに研究所・大学院でカウンセリング・臨床心理学を学び、2007年東京工業大学で工学を学ぶ機会を得て、同大において2009年に学位(工学博士)を取得、同時に助教に就任。著書に『「癒し」は科学で手に入る』(幻冬舎ルネッサンス新書)、『スポーツをテクノロジーする? トップアスリートの記録を引き出した技術の力』(日経BP社)。

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