女性アスリートの間でタブー化する苦しみ、「やせすぎ」「無月経」の後遺症

現役時代の村田由香里さん。40キロ台の体重で競技を続けた

■「美人でしょう」「ド根性フラミンゴ」

 9月15日、MGC(マラソン グランド チャンピオンシップ)で1位となった前田穂南選手(23)のスラリとしたスタイルを、そう評したマラソン解説者の増田明美さん。

 しかし、こうしたマラソン体形の選手はやせすぎで、あるリスクとも戦っているのだ──。

■やせすぎは無月経、骨粗鬆症のリスクが

 日本医師会や日本産科婦人科学会などでつくる「一般社団法人 女性アスリート健康支援委員会」の理事で、東京大学医学部附属病院女性診療科・産科の能瀬さやか医師は、次のように説明する。

■「マラソン界では体重がより軽いほうが有利だと思われています。特に女性選手の場合、やせるためにエネルギー不足に陥り、月経がなくなり、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)になるリスクが高まっています」

 体脂肪が下がると月経異常が起こり、分泌される女性ホルモンの不足が不妊や骨粗鬆症の原因になることは知られている。体重制限がある女性アスリートは、まさにこの危険にさらされているのだ。

 実際、女子マラソンでは、シドニー五輪の金メダリストで“Qちゃん”こと高橋尚子さん(47)、アテネ五輪の金メダリスト・野口みずきさん(41)も、肋骨や足の疲労骨折の経験があり、オーバーワークによるエネルギー不足が原因だったのだろう。

高橋尚子さん(写真左)は、'02年に米国での高地合宿中に肋骨を疲労骨折。野口みずきさん(写真右)は金メダル獲得後、疲労骨折など故障に悩まされた

 日本医療研究開発機構の「若年女性のスポーツ障害の解析とその予防と治療」のデータによると、■月経周期が異常になる頻度は、競技レベルに関係なく全選手の40%近い数値に達しているという。

 さらに、体操、新体操、アーティスティックスイミング(シンクロ)、フィギュアスケートなどの審美系競技も高い数値を示している。

 射撃などの技術系や、100メートル走などの瞬発系、柔道やレスリングなどの体重・階級制の競技にも見られる症状のようだ。

■「ただ、体重・階級制の競技は、体重を絞る時期は試合の直前からです。減量期間が短く、試合が終われば元の体重に戻すのが一般的なので、審美系や持久系ほど無月経の割合は多くありません」(前出・能瀬医師)

■食べることに罪悪感があった

 元新体操選手で、シドニー五輪で団体5位、アテネ五輪で個人総合18位だった村田由香里さん(37)は、■18歳から24歳まで6年もの間、無月経だったと告白する。

■「新体操は見た目の心象で採点される競技なので、監督やコーチから口酸っぱく“細いほうが美しい。やせたほうがいい”と言われます。ですから、食べることに罪悪感があって、だんだん食べなくなっていった」

 村田さんは164センチと長身だが、当初49キロあった体重は、みるみるうちに43キロまで落ちていったそうだ。

「■代表の合宿などは、1日に10時間も練習するんですが、そのときは貧血ぎみで、いつもふらふらでやっていました。練習が終わって、部屋まで歩くのもやっとの状態。

 休みの日は外に出かけることもなく、ずっと部屋で横になっていました。私は無頓着なほうだったので、気分的にはイライラせず、目標に向かって進んでいるという充足感がありましたね」

 2回目の五輪のときには、47キロが最も動ける体重だとわかったが、

■「体重や食事、それから月経のことは、代表の合宿でも、大学の同僚にも、ほとんど話しませんでした。個人差があることで、私はわりと減量で苦労しなかったほうなので、そうではない選手に気を遣うというか、タブーというか……」

 現に今回、週刊女性はほかの元アスリートにも話を聞こうとしたが■「デリケートな問題なので……」と取材拒否。答えにくいテーマのようだ。

■無月経には不妊の可能性も

 先の能瀬医師は、

■「月経がなくなるのは、運動量に見合った食事がとれず、エネルギー不足に陥るので、身体が異変を感じて危険信号を出しているのです」

 とアスリートに限らず、食事制限をしている一般の女性も、無月経には注意が必要と警鐘を鳴らす。

■「後遺症として、骨がすかすかになる骨粗鬆症になってしまい、疲労骨折や引退後の骨折のリスクを高めるおそれがあります。

■ また近年、競技を続けながら妊娠を目指す選手も増えつつありますが、そのような選手が無月経だった場合、不妊の可能性もあります」

 これまで指導者も、選手自身もエネルギー不足や無月経への認識が低かったことを能瀬医師は指摘する。

「選手は月経がくると、練習を休んだり、軽くしたりしなければいけないので、■“こないほうがいい”と考えている選手が意外に多いのです」

 中学・高校生の場合は、病院での受診すらためらってしまうこともあるという。周りに未成年での妊娠を疑われるからだ。

 このように、やせすぎや無月経が原因で後遺症に悩まされる有名アスリートは少なくない。

 元マラソン選手で、世界選手権元日本代表の原裕美子さん(37)について、スポーツ紙の運動部記者が語る。

■「彼女は食事制限による摂食障害から“クレプトマニア”と呼ばれる窃盗症に陥り、万引きで2回逮捕されて、“万引きランナー”と揶揄(やゆ)されました。現在は執行猶予つきの判決が下り、病気治療中のようです」

 フィギュアスケート解説者の鈴木明子さん(34)も現役当時、摂食障害だったことを公表している。肉食に対して「脂っぽいものは太る」と拒絶反応があったという。

■女性として将来を生きることも大切

 レスリングでは、ロンドン五輪で金メダルに輝き、現在は日本代表コーチの小原日登美さん(38)も、子どもを授かることはできたが、現役時代は減量との戦いから無月経になっている。

小原日登美さんは、過酷な減量で体脂肪率がひとケタ台に

■「スポーツ選手として五輪を目指すことや試合に勝つことはもちろん大切ですが、女性として将来を生きることも大切。女性アスリートの無月経の問題はここ5年ほどでようやく表面化してきた問題。

■ 私たちがさらに啓発していかなければいけないし、監督やコーチもそれを理解しなければと思っています」

 と能瀬医師は力説する。

 一方、村田さんは昨年、無事に1児を授かり、すくすくと育っているという。

「運がよかったと思っています」という彼女は現在、日本体育大学保健医療学部で准教授として教鞭をとるかたわら、新体操部でコーチをしている。

「選手もそうですが、われわれ指導者がこういった知識や認識を高める必要があります。

 ■私の苦い経験を、選手にも伝えていきたい。現役のときに教えられても、私が聞く耳を持っていたかどうか疑わしいですが、ひと通り教えておけば、すぐに聞かなくても、いつかは気づくはずですから」

 女性アスリートたちの活躍は美しく華々しいが、痛ましい現実があることも知る必要がありそうだ。

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