八村塁やストックトンからの学びを胸に。初の全米制覇を目指すゴンザガ大、ジョエル・アヤイの成長記〈DUNKSHOOT〉

八村塁やストックトンからの学びを胸に。初の全米制覇を目指すゴンザガ大、ジョエル・アヤイの成長記〈DUNKSHOOT〉

今年のNCAAトーナメントで優勝候補筆頭に挙げられるゴンザガ大。その主軸を担うのがフランス出身のアヤイだ。(C)Getty Images

現地3月18日、アメリカの大学バスケ界最大のイベント、NCAAトーナメントが開幕した。

 優勝候補に挙がっているのは、ウエストコースト・カンファレンス(WCC)王者で、シーズン26戦に全勝している八村塁の母校、ゴンザガ大学だ。八村が1年生だった2017年には準優勝とあと一歩まで迫ったが、同大の歴史でまだ一度も頂点には立てていない。

 その『Zags』で活躍が期待されているのが、その年最高のシューティングガードに贈られる「ジェリー・ウエスト・アウォード」のファイナリスト5人にも選出されている、フランス人のジョエル・アヤイだ。

 アヤイ家は、元プロ選手の父に、4人の兄弟姉妹も全員プレーヤーというバスケ一家。6歳年上の姉ヴァレリアンはフランス代表の一員として16年のリオ五輪で準決勝進出に貢献、弟のジェラルドも今シーズンからフランスの名門ポー・オルテーズでプロデビューしている。
  幼少時から、アヤイのロールモデルだったのは、姉のヴァレリアンだった。試合があると、姉は必ずプレーについてコメントを送ってくれた。子どもの頃から姉を相手に1オン1 を繰り返し、ドリブルやシューティングを磨いたという。

 その後、トニー・パーカーやボリス・ディーオウなど数々のNBA選手を輩出したフランスの国立エリートアスリート養成所(INSEP)で腕を磨き、オファーをもらったいくつかの大学から中からゴンザガ大を選択。ちなみに、ロニー・トゥリアフや現在メンフィス・グリズリーズで2WAY契約を結ぶキリアン・ティリーも同じルートを辿っている。アヤイは1年分の選手資格を温存できる“レッドシャツルール”を利用して、1年早い17歳で入学した。

「正直、体力的にもまだ準備できていなかった。プレー面でも、使う用語や筋トレの仕方すらよくわかっていなかった。それにカルチャーの違いもあった。(試合に出られない)1年は長いけれど、結果的にはよりプラスになると信じてひたすら頑張った」。アヤイはフランスメディアのインタビューで当時を振り返っているが、17歳の青年にとって、最初は辛い日々だった。
  大学のスカウティング時にはクイックネスを高く評価されていたが、実際に入学してみると、ゴンザガ大のコーチ陣たちにとって彼のプレースタイルはあまりにもスローだった。

 夏休みはフランス代表チームに合流し、2018年のU18欧州選手権や19年のU19ワールドカップでは主力としてともに銅メダルを獲得。それでもNCAAで数字を残さない限りは認めてもらえなかった。年が若いことや言葉がわからないことで、チームメイトから酷な扱いを受けることもあった。

 そんななか、大学内で深い関係を築いたチームメイトに、彼は2人の先輩、八村とティリーの名前を挙げている。アヤイの両親は、八村の父親と同じアフリカのベナン出身。そんなシンパシーも2人の間にはあったのだろう。

「自分が求めるプレーをするために彼らが努力する姿は、まさに僕にとって手本にしたいものだった。何かわからないことがあれば、僕はいつも彼らのところに教えを乞いに行った。彼らが僕を良い方向へと導いてくれたんだ」
  周りの選手たちを観察しては良い部分を学び取っているというアヤイは、八村からは「新しい動きやフットワークを、完璧に自分のものにすべく徹底的に練習し、さらにそれをすぐ次の試合で使う。ただ練習するだけで満足するのはなく、実戦に応用するという目的を持って練習することの重要さ」を学んだという。

 ティリーについては、「試合中の状況を観察して読み取る能力が高く、それを自分のプレーに生かすだけでなく、チーム全員と共有する」といった部分に影響を受けたと話す。

 そしてもう1人、彼の強力なメンターとなったのが、同校のOBジョン・ストックトンだ。NBAのユタ・ジャズで偉大なキャリアを築いた殿堂入りプレーヤーは、入学当初からアヤイを気にかけ、以降もほぼ毎週直接会っては、様々なアドバイスをくれるのだという。

 夜中の1、2時までシュート練習をして、寮に戻らずそのままロッカールームで仮眠をとって大学の授業に行く日もあったというが、その努力はついに実を結んだ。2年目の昨季、平均出場時間は前年の5.6分から29.3分まで伸び、平均10.6点、6.3リバウンド、3.2アシストをマーク。WCCトーナメントのMVPにも輝いた。
  3年生となった今季は、平均11.8点、7.0リバウンド、3.0アシストと数字を伸ばし、1月9日のポートランド大戦では同校初のトリプルダブル(12得点、13リバウンド、14アシスト)も記録。入学時から体重も15kg近く増量して、現在は身長196cm、82kgとフィジカル面もアップした。スローすぎると言われていたスピードも、コーチ陣から「今のチームで一番クイックネスがある。それだけでなくスピードの生かし方が上手い」と評価されるまでに向上している。

「だんだんとコーチやチームメイトたちの信頼を勝ち得ているのを実感している。日々のトレーニングで、僕が上を目指して頑張る姿を評価してくれているように思う」と話すアヤイ。「ここでは忖度はない。チームの勝利の助けになると判断されればコートに呼ばれる」と、頼もしい上級生に成長した。
  昨年はNBAドラフトにエントリーしたが、指名される可能性が低いと悟って撤回。しかしそのおかげで複数のチームと面談する機会があり、自身の強みと弱み、今後の課題などを指摘されたことで、「NBAでプレーするにあたり自分に必要なものを炙り出すことができた」と前向きだ。

 彼自身は、自分の強みは「コーチが求めるスタイルに順応して、期待通りに機能させられること」だと分析する。コートの上では自発的に声を出し、率先してゲームメイクをし、必要な時に得点を奪う。そんな選手になれるよう努力しているのだそうだ。

 今季の『Zags』は、初日から目標を「優勝」に設定して日々取り組んできたという。“マーチマッドネス”に照準を合わせていた彼らにとって、レギュラーシーズン全勝は“過程”にすぎず、これからが真の戦いだ。気を抜くことなく一戦一戦に挑むと意気込みを語るアヤイは、敬愛する八村やティリーら先輩たちのためにも、ゴンザガ大に初のタイトルをもたらしたいと切望していることだろう。そんな彼の勇姿を、4月5日の決勝戦で見られるだろうか。

文●小川由紀子

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