ニックスを破滅へと導く“狂人”ジェームズ・ドーラン。無能オーナーが起こした数々のトラブル伝説【NBA秘話|前編】<DUNKSHOOT>

ニックスを破滅へと導く“狂人”ジェームズ・ドーラン。無能オーナーが起こした数々のトラブル伝説【NBA秘話|前編】<DUNKSHOOT>

ニックスのプレーオフ進出が8年ぶりであるように、近年のチームは低迷が続いていた。その元凶となったのが、オーナーを務めるドーランだ。(C)Getty Images

ニューヨーク・ニックスが久々のプレーオフ進出を決めた。NBA屈指の古豪は昨季まで、実に7年連続プレーオフ不出場。これはフランチャイズ・ワーストタイという惨状だった。この事態を招いた張本人はリーグきっての無能オーナー、ジェームズ・ドーラン。ニックスをどん底に突き落とした“狂人”の愚行の数々を紹介しよう。

■ニックスを誰よりも愛する男がガーデンで遭遇したトラブル

 古ぼけて無機質な廊下の奥で、何やら揉め事が発生している。5、6人の集団に、関係者らしき別の人物も小走りで駆けつけ、どうやらのっぴきならない状況のようだ。その様子を、数メートル離れた場所から撮影したブレブレの映像が、『YouTube』にアップされている。
  突然、1人の男が大声で喚き出した。

「誰も俺に伝えなかった!(3回繰り返す)俺はここから動かないからな!もし俺をチャールズ・オークリーのように逮捕したいなら、やりやがれ!オークリーをやった時のように、俺を後ろ手にして縛るつもりか?!」

 声の主はスパイク・リー。場所はマディソンスクエア・ガーデン5階の従業員用出入り口エレベーターの前。2020年3月2日に開催された、ニックス対ヒューストン・ロケッツの試合前の出来事である。

 スパイクは映画監督兼プロデューサーとして、アメリカでは知らない人がいないほどの著名人だ。制作する映画のテーマは人種の問題が多く、たまに踏み込んだ発言をして議論の的になったりするものの、それよりニックス絡みで話題になることの方が多いかもしれない。ニックスのウルトラダイハードファンとして有名であり、世界一のニックスファンと言ってもいいだろう。

 10歳の時、父親に連れられて旧ガーデンに行き、ニックスの試合を初観戦。一発で虜になった。それからニックス一筋半世紀、1970年のファイナル第7戦、伝説の“ザ・ウィリス・リード・ゲーム”もガーデンで目撃したという。1985年のドラフトでニックスがパトリック・ユーイングを1位指名したその日の夜、徹夜でシーズンチケット購入の列に並んだそうだ。
  武勇伝として語り継がれているのは、天敵レジー・ミラーとの熱いバトルだろう。1990年代にニックスとしのぎを削ったライバル、インディアナ・ペイサーズの頭目だったミラーと、プレーオフの試合中に激しい言葉の応酬を繰り広げ、終いには選手を差し置いてスパイクが新聞各紙の一面を飾ったことも何度かあった。

 そんな世界で最も熱く、クレイジーで、ニックスを誰よりも愛する男が、第二の我が家と言ってもいいガーデンで遭遇した一大トラブル。翌日スパイクは『ESPN』のスポーツトークショー『First Take』に緊急ゲストとして呼ばれ、思いの丈をぶちまけている。その時語った内容によると、騒動のあらましはこんな感じだ。

 ガーデンの北側、西33丁目の8番街寄りに従業員用の出入り口がある。正確には“従業員およびメディア、障がいを持つパトロン専用”の出入り口で、スパイクはかれこれ28年以上もの間、そこから出入りしていた。ガーデンの南側、西31丁目の7番街寄りにはVIP専用の出入り口もあるが、スパイクにとって従業員専用出入り口の方が利便的にも精神的にも楽だったのだろう。言わば、一種の慣例になっていた。
  2日の夕方、いつものように従業員用の出入り口から入館したスパイクは、チケットをスキャンしてもらい、エレベーターでフロアレベルの5階に行こうとすると、セキュリティからエレベーターの使用は許可できないと言われる。わけのわからないスパイクが強引にエレベーターで5階に上ったところ、何人ものセキュリティが待ち構え、「従業員用の出入り口ではなく、VIP専用もしくは一般客用のゲートから入り直してほしい」と言われたのだそうだ。

 28年間まかり通っていたものが、事前の通告もなしに変更されるのは納得いかない、それに一度スキャンしたチケットでの再入場はできないはずであると、スパイクは断固拒否。それが、冒頭の映像シーンである。

 最終的に、偶然そこに居合わせた、近所に住む仲の良いセキュリティの手引で、とりあえず一旦6階まで行き、そこから自分の席へと降りていった。ハーフタイムには球団オーナーのジェームズ・ドーランがスパイクの席までやってきて、「話したいことがある」と言ってきたそうだが、怒りの収まらないスパイクは「話すことなど何もない」と突っぱねたそうだ。
 
『First Take』でスパイクは、一連の出来事は「ドーランによるハラスメントである」と断言した。球団のトップが、最も忠誠心の高いファンであり、最重要とも言える顧客を足蹴にしたのだ。憤怒したスパイクは、「もう今シーズンはニックスの試合を観にガーデンに行かない」と宣言。あのスパイクが、である。幸か不幸か、新型コロナウイルスの感染拡大により2020年3月11日を最後にレギュラーシーズンが中断となり、観戦ボイコットは自然消滅している。

 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。その元凶は、偏執狂の独裁者、リーグきっての無能オーナー、ドーランにある。すべては彼の指示だったのだろう。メディア上でニックスの惨状を憂いているスパイクの存在を、ドーランは不快に思っていたに違いない。エレベーターの前で、激昂したスパイクの口から名前が飛び出したオークリーもその1人であり、近年ドーランと一悶着起こし、世間を賑わせている。
  1990年代ニックスのハート&ソウルであり、ジョン・スタークスやパトリック・ユーイングと並びファンフェイバリットだったオークリーは、57歳になった今でもニューヨークでは特別な存在だ。多少ガラが悪く、行き過ぎた言動が目についたりするものの、昨今のニックス・フロント陣に苦言を呈している、ファン目線を持った数少ないOBの1人。

 2017年2月8日、ガーデンで行なわれたニックス対ロサンゼルス・クリッパーズ戦に友人と観戦に訪れたオークリーの席は、コートエンドの最前列に座るドーランからほんの数メートルの距離だった。チケットは自分たちで入手していた。第1クォーターの途中、オークリーが席に着いて4分半後、彼に問題行動が認められるとして、セキュリティが本人にガーデンからの退去を勧告。ドーランの指示による動きであることは、火を見るよりも明らかだった。

 オークリーは何もやっていないし、ヤジも飛ばしていないと主張、セキュリティと押し問答に。その際、怒り心頭に発したオークリーは、セキュリティの胸を数回小突いてしまう。最終的に10人近くのセキュリティとニューヨーク市警に両腕と身体を抱えて連行され、もつれて通路に倒れ込んだところを後ろ手に手錠をかけられ、暴行罪で逮捕。この時、ガーデンには「オークリー!オークリー!」のチャントが響き渡っていた。オークリーは近隣警察署の留置所ヘ移送され、深夜に釈放されている。
  同日夜、ニックスの広報は自分たちの正当性を主張する声明を発表、“オークリーは非常に不適切で、完全に暴力的な振る舞いをしていた”とし、挙句の果てに“彼は偉大なニックであり、我々は彼に一日も早く救いの手が差し出されることを願っている。”などといけしゃあしゃあとのたまう始末。
  結局、オークリーはガーデンを出禁となるが、黙って引き下がらなかった。ドーランとガーデンを相手取って、あの夜の対応や、ドーランがラジオのインタビューでオークリーを“アルコールの問題を抱えている”と語ったことに対し、名誉毀損であるとして訴訟を起こす。だが昨年、オークリーの敗訴に終わっている。(後編に続く)

文●大井成義

※『ダンクシュート』2020年12月号掲載原稿に加筆・修正。

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