ファンへの暴言、チケット剥奪、OBの出禁…ニックスのオーナー“狂人”ドーランの常軌を逸した行動【NBA秘話|後編】<DUNKSHOOT>

ファンへの暴言、チケット剥奪、OBの出禁…ニックスのオーナー“狂人”ドーランの常軌を逸した行動【NBA秘話|後編】<DUNKSHOOT>

“狂人”ドーランの常軌を逸した行動の数々。「チームを売れ!」と言いたくなるのも無理はない。(C)Getty Images

■MSGを“暴言”御法度の聖域にしたい暴君ドーラン

 その2か月後、ドーランはさらに信じがたい行動を取っている。ある日の試合前、ニックスの大ファンであり、シーズンチケット・ホルダーでもある35歳の弁護士、マイク・ハマースキーがガーデンのロビー近くでビールを飲みながら友人を待っていると、近くに停まっていたリムジンに向かって歩くドーランの姿が目に入った。

 咄嗟にハマースキーは叫んだ。「チームを売っちまえよ、ジム!」。ドーランは怒った表情をしながらハマースキーの脇を通り過ぎ、一旦は車にたどり着くも踵を返し戻ってきてこう言った。「今言ったのはどいつだ?」

 ハマースキーが名乗り出ると、ドーランは顔を5cmまで近づけ、罵詈雑言を喚き散らしたという。そして何度も「お前をガーデンには入れないからな」と凄み、チケットを見せるよう強要。ハマースキーが拒否すると、ドーランは付き添っていたセキュリティにハマースキーを入場させないよう指示し、そのセキュリティは1ブロック以上も後をつけてきたそうだ。ハマースキーはそれを振り切り、何とかガーデンに入場して観戦を果たした。
  翌日、ドーランの代理人が発表した声明文には次のように書かれていた。

“ガーデンのイベントにおいては、オーナーを含め、誰に対しても暴言を吐いたり、無礼なことをしたりしてはいけない、昨夜のファンは完全に一線を越えていた”

 驚くのはここからである。『ESPN』が報じたところによると、それからしばらく経ったある日、ハマースキーはシーズンチケットの更新をしようと、専任の担当者に電話を掛けたがつながらなかった。また、ネットの個人アカウントにもログインできず、電話でパスワードをリセットしてもらい、アクセスし直してシーズンチケットの更新を試みようとしたところ、“更新”のボタンが押せなくなっていた。再度専用ダイヤルに電話し、なんとかつながったものの電話を一方的に切られ、その後も2度に渡って切られたそうだ。
  この件について、『ESPN』の記者がガーデンに問い合わせたところ、ハマースキーのシーズンチケットの状況については“ノーコメント”であるとのこと。ドーランの指示であることに疑いの余地はないわけで、このしつこさや陰湿さは常軌を逸していると言わざるを得ない。見知らぬ一般のファンに対してであるからなおさらだ。

 ハマースキー以外に何人もの一般ファンとも揉めており、例えば年老いたニックスファンから送られてきた叱咤激励のEメールに、“(ブルックリン)ネッツを応援してろ!”とわざわざ返信する始末。ここまでくると、恐怖すら感じてしまう。こんな男が、いったいどうやってニックスのオーナーになり得たのだろうか。
  御年94歳のチャールズ・ドーランはニューヨークエリアのケーブルテレビシステムを構築し、それらを普及させるための人気コンテンツとして、1970年代にニックスやNHLのレンジャースと放映契約を結ぶ。後に『ケーブルビジョン』と名付けられたその企業は、全米有数のケーブルプロバイダーへと成長し、また同時期にケーブルテレビ放送局の『HBO』も創設、一代で巨万の富を築き上げた。そして1994年、ガーデンとそれに付随するニックスやレンジャースの買収に成功する。

 そのチャールズのドラ息子がジェームズである。ミュージシャンを目指したこともあり、一時期はアルコールやドラッグで身を持ち崩し、1993年にはドラッグの更生施設へ入院している。父親の会社に就職すると、1999年にガーデンのチェアマンの座を引き継ぎ、それから22年間に渡り、名門ニックスの実質トップの座に君臨している。

 ドーランがこの21年間で出した結果は皆無に等しい。逆に、しでかした失策や起こしたトラブルは数知れず。2020年3月に『ニューヨークポスト』がそれらをリストアップしており、人間関係ではスパイクやオークリーの他にも、実況アナウンサーのマーブ・アルバートやラリー・ブラウン元ヘッドコーチ、シーズンチケット・ホルダーである映画監督のウッディ・アレンなどとも一悶着を起こし、関係性を断っている。
 ■彷徨える泥船ニックスはこのまま沈みゆくのか?

 スパイクとの一件について、ニックスの広報はすぐさま声明文をリリースした。そこには、“スパイクが被害者であるなんて馬鹿げている”“出入り口の件については、これまで何度もスパイクにVIP専用出入り口を使うよう頼んできた”“スパイクがドラマを盛り上げるために、このような誤った論争を起こすのは残念だ”“あの日、ドーランとスパイクは笑顔で握手している”などと、一企業の公式文書としては稚拙すぎる文言が並んでいた。

 それらすべてをスパイクは完全否定し、言い訳だと明言。『First Take』ホストのスティーブン・A・スミスは、出入り口変更の事前通達について、電話やEメールの記録は一切残っていない、ニックスは証拠を提出すべきだと語っている。

 番組に出演していた約20分間、憤りと怒りを隠さず興奮状態のスパイクだったが、一転唇を震わせ、薄っすらと涙を浮かべながらニックスへの想いを吐露するシーンがあり、胸を打たれた。
 「心の中で、俺はいまだブルックリンから来た少年のままだ。ガーデンに忍び込んでた頃のね。俺はニックスを愛している。ウィリス・リード、レッド・ホルツマン、ディック・バーネット、カジー・ラッセル、デイブ・ストールワース、ネイト・ボウマン、ビル・ブラッドリー。彼らを見て俺は育った。彼らは俺の男たちだ。天井を見ると、1972-73シーズンの優勝バナーがぶら下がってるけど、あれが最後だなんて情けないよ。俺が生きている間に、次のチャンピオンシップ獲得を見ることができるのか? 俺の息子は今24歳だけど、彼はニックスが優勝する姿を見ずに死ぬんじゃないのか?」

 スパイクはコートサイド最前列のシーズンチケットに毎年いくら支払っているか知らないらしく、本人の依頼でスティーブン・Aが調査したところ、2019-20シーズンは1試合1席3400ドル(約37万円)で、2席保有しており、プレシーズンゲームも合わせた1シーズンのチケット代は計29万9000ドル(約3260万円)。もう1人の番組ホスト、マックス・ケラーマンが、「物価を考えなかったら、30万ドル×30年で、これまで10ミリオン(約11億円)近く使ったってこと?」と驚くと、「バカみたいだな」と高笑いするスパイク。
  ドーランという無能な船頭に率いられ、21年間かろうじて漂流してきた古豪ニックスも、そろそろ限界に達しつつある。2019年オフのケビン・デュラント(ネッツ)のような大物FAからは敬遠され、レジェンドのOBは出禁を食らい、応援団長のスパイクも愛想を尽かして一時身を引く決断を下した。“ミラクル・ニックス”でアシスタントコーチを務め、その後ブルズを強豪に育てた名将トム・シボドーを新たにヘッドコーチとして迎え入れたものの、泥舟ニックスは沈みゆく運命にあるのだろうか。

 いや、残された手がひとつだけある。ガーデンで頻繁にチャントされ、ハマースキーが面と向かって言い、アンチドーランの急先鋒であり、ドーランを“プロスポーツ界で最低最悪のオーナー”であると言ってはばからないケラーマンが度々口にするセリフがそれだ。

「チームを売れ、Mr.ドーラン!」
 【追記】
 2021年2月23日、ガーデンでの今季初となる有観客試合が開催された。リーグが定めた入場者数上限は1981人。その約1か月後、3月21日に行なわれた対フィラデルフィア・セブンティシクサーズ戦、スパイクは約1年ぶりにガーデンへ姿を現わしている。大方の予想を覆し、躍進を続けるニックスの熱いプレーに我慢しきれなかったのだろう。観戦ボイコットがついに終了したのだった。

 これですべて円く収まるかと思いきや、別の場所で新たな火種が生じる。3月11日、ニックスのレジェンド中のレジェンドであるパトリック・ユーイングが、自らヘッドコーチを務めるジョージタウン大の試合で古巣ガーデンを訪れた際、セキュリティから入場許可証の提示を要求され足止めを食らう。試合後の公式会見で、「ここは俺のビルディングじゃなかったのか?」と怒りを顕にしたユーイング。

 その翌日、『First Take』に再びゲスト出演したスパイクは、次のように語った。「ドーランを非難するつもりはないが、ガーデンでは何かがおかしなことになっている。デレク・ジーターがヤンキー・スタジアムへの入場を止められるのを想像できるか?マジック・ジョンソン(元ロサンゼルス・レイカーズ)がステイプルズ・センターへの入場時に止められるか?マイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズほか)がユナイテッド・センターで足止めされるか? WTF!(What the fuck!)」

文●大井成義

※『ダンクシュート』2020年12月号掲載原稿に加筆・修正。

 

関連記事(外部サイト)

  • 記事にコメントを書いてみませんか?