『僕はおそらく他の人より練習量が少ない』と自分のペースを貫く理由。パルクールアスリート朝倉聖のトレーニング法とコンディショニング

『僕はおそらく他の人より練習量が少ない』と自分のペースを貫く理由。パルクールアスリート朝倉聖のトレーニング法とコンディショニング

表現者、朝倉聖の原点は絵を書くこと。中学生の時は美術部に所属していた。写真:田中研二

 プロとして活躍する方々のインタビューを通し、明日への一歩を応援する「Do My Best, Go!」。第8回は、新時代スポーツ、パルクール界の若きエース朝倉聖(SEI)が登場。自分の身体のみを使って、表現し、勝負をする世界にいる彼の、アスリートとしてのコンディショニング、そしてアーティストとしての個性について、探っていこう。

   ◆  ◆  ◆

――パルクールは、全身を使うとてもハードなスポーツだと思うのですが、子どものころから運動は得意でしたか?

「運動神経はよいほうだったと思います。体育のマット運動、跳び箱などは得意でした。ただ球技全般が苦手で、なにかルールを考えたりするものはあまり得意ではなかったですね。もともと動くのは好きだったのですが、ハマれるものが見つからず、中学の部活は美術部に入りました」

――美術部? 絵を書くのが好きだったのですか?

「いまも好きです。僕は母子家庭だったのですが、母親が仕事に行っている間は、ひとりの時間が多くて、いつも母親の用意してくれたペンと紙で、黙々と絵を書いていました」

――書道も得意とうかがいましたが?

「学校の先生に字がきれいだねと褒められて、それがきっかけでずっと続けています。いまは八段で、子どもに教えられる資格も持っているんですよ」

――かなりのインドア派だったんですね。身体の線も細かったのですか?

「そうですね。それほど食べる子ではなかったです」

――高校も文化部に?

「その時はすでにパルクールを始めていて、それに夢中でした」

――パルクールを知ったのはいつですか?

「小さい時から、いわゆる屋根から屋根に飛び移ったりする、海外のアドレナリン系の派手な動画をよく見て、知っていました。ただ、すごいなあとは思っても、それらのパフォーマンにはそれほど魅かれませんでした」

――では、やってみたいと思ったきかっけは?

「中学2年生の時にテレビから流れてきたパソコンのCMです。パルクールをしている映像が使われていたのですが、その動きが繊細で、きれいで、とても印象に残りました。美術や書道など、なにか表現することに興味があったのですが、身体で表現することもできるんだ、と思ったことが始まりでした。CMに出演していたZENさんとは、今では一緒に活動するようにもなりましたが、変わらず僕にとってのヒーローです」
 ――パルクールをやりたくても環境が整っていなかったかと思いますが、どのように練習したのですか?

「当時は練習できる施設もなかったので、家の近くの公園、芝生や砂場、ときどきマットが引き出せる武道場などで練習していました。もちろん、アクロバティックな技はできないので、最初はものを飛び越えたり、棒の上でバランスを取ったり、ちょっと段差から段差を飛んだり、YOUTUBEなどの動画を見て、見よう見まねでやってみるしかなかったです」

――そこから海外の大会に出場するまでの経緯は?

「パルクールをやり始めてから、いつか海外の大会は出てみたい、という思いはずっとありました。19歳の時、アジア大会(※『LCG IV ASIAN PARKOUR CHAMPIONSHIPS』)がシンガポールで行なわれるのを知って、自分のレベルを知る意味でもよい機会だと思って、チャレンジしたんです。その時は運にも恵まれて、初めての海外大会で3位に入賞し、ベストトリック賞もいただきました。アスリート活動が始まるきっかけになった大会ですね」

――渡航の手続きやエントリーなども自分で?

「はい。ひとりでやりました。ただ、現地に行ったら日本人の方がいらっしゃって、僕は英語もできなかったので、その方にサポートしていただきました」

――かなりのチャレンジだったかと思うのですが、ご自身の中で自信みたいなものはあったのでしょうか?

「明確な自信というのはなかったです。自分の現在地を知りたかったのと、過去の公式大会でまだ一人しか成功させていなかった“トリプルコーク”という技の精度が高まっていたので、大きな大会で成功させたい! という思いが強かったです」

――そして見事に成功させたと。動画も見ましたが、高さのある障害物から行なう大技ですよね、これまでにケガの経験は? 恐怖心はどう克服したのですか?

「ケガの経験でいうと軽い打撲、捻挫くらいですね。骨折とかはないです。もともと僕は臆病で、勢いでいくタイプではありませんでした。トレーニングをしていく中で、徐々にコツがつかめたり、筋力がついてきたり、自分の動きを把握した上で、飛ぶ距離を延ばしたり、技のレベルを高めていったという感じですね。本当にちょっとずつです。無理してケガするというのが一番もったいないと思っています」
 ――アスリートになって、身体のコンディション維持のために意識していることは?

「身体に負荷をかけ過ぎないことですね。僕はおそらく他の人よりも練習量が少ないと思います。一時期はかなりの練習漬けだったのですが、気が乗らない時、体調がだるいなと思ったら練習をしないようにしています。ケガにもつながりますし、無理をすることでストレスがかかってしまうと思うので、そういう時はきちんと休んで、調子が良い時に、しっかりやることを心がけています。また、調子を整えるためにも、自分の身体に意識を向けたり、食事の内容を意識したりしていますね」

――ヴィーガンとお聞きしたのですが?

「ヴィーガンといっても、かっちりとしたものではなくて、自分の場合は8割9割くらいです。ストレスを溜めたくないので、誰かと食事に出かける時などは、汁物をOKとか、たまにお肉も食べたりしています」

――どのような効果を感じてらっしゃいますか?

「動物性のものを食べると頭がボーとすると言いますか、モヤがかかっているというか。しばらくやめた後に動物性のものを食べると、とくに実感しますね。続ける中で体調の良さを実感したり、成績にもつながったりして、いまも続けています。

 変わっていると思わるかもしれませんが、僕は運とか自然の力とか、見えない力もあると信じています。そういうものを感じてパフォーマンスをしたい。そのためには、五感が鈍い状態ではダメ。少しの判断ミスが、大きなケガにつながってしまうので、危険を感じるセンサーが敏感でなければなりません。ですから、食生活は大切なんです」

――その中で、いま積極的に取り入れているものはありますか?

「最近ちょっとハマっているのは、スムージーですね。バナナとアボガド、豆乳に合わせています。アボガドが大好きです。それから納豆ですかね」

――納豆をスムージーにするのですか?

「いえ、納豆は普通に(笑)。それから、きのこも意識して食べるようにしています。汁物や炒めものが多いですね。食感も好きです」
 ――先ほどトレーニングは体調に合わせて、と話されていましたが、大会前はそうはいかないと思うのですが?

「無理をしないことは変わりません。気分が乗らない時は、基本トレーニングを入念に繰り返し、体調の良い時はビッグトリックをたくさん練習するなど分けています」

――大会に向けて、どんな準備をしておくのでしょうか?

「パルクールのほとんど大会は、コースが事前にわからないんです。数日前に公開されることもありますが、できることは、ここでこういう技出せるな、つなぎ技が出せるなど、イメージトレーニングくらいです。それでも、実際のコースを見てみたら想定よりも小さかったりして、思っていた技が出せない場合も多く、その場での対応力なども問われます」

――その場でプログラムを組み立てるというのは少し驚きました。対応するためにも基礎や日々のトレーニングが重要だということですね?

「そうですね。コースを使った前日調整は、時間としてそれなりあるのですが、みんなが一斉に行なうので、集中できなかったり、場所が使えなかったりと、十分とはいえません。また、練習で疲労が溜まってしまうと本番に影響しますから、体力配分も大事ですね」

――試合前に行なうルーティンなどはありますか?

「試合当日は、起きて朝にお風呂に入り、体温は常に高い状態にしています。ケガ予防の意味もありますが、これは受け売りですけど、暖かいと考え方もポジティブになるので、それを意識しています。それから、トイレによく行きますね」

――トイレですか?

「みんなにトイレマニアかって突っ込まれるくらい行きます(笑)。お腹が弱いっていうこともあるのですが、少しでも身体になにかが溜まっているのが嫌で、集中力を高めるためにも、すっきりした状態でいたいです」
 ――パルクールはフランス発祥ということもあり、2024年のパリ・オリンピックで正式種目として採用される話もありましたが、残念ながら外れてしまいました。

「オリンピックで金メダルを獲りたいと思っていたので、しばらくはモチベーションが下がっていました」

――では、次の目標は?

「ずっと出場したいと思いつつ、実現していなかった、“Red Bull Art Of Motion(レッドブル アート オブ モーション)”に出場してみたいです。町の造形物をそのまま使うところがおもしろくて、壁や階段、ベンチ、町全体がひとつの舞台になります。観客も近くてとても盛り上がります。その大会で優勝することが、いまの僕の夢ですね」

――子どもたちへレッスンも行なっていると聞きました。

「いまプライベートレッスンを受け持っている子は、僕に憧れを抱いてくれていて、真似をしたいと、一生懸命に練習しています。前からヒーローみたいな存在になりたいと思っていたので、うれしいですね。公園内のちょっとしたヒーローからスタートして、その範囲が少し広くなったかなと。もっと広げていきたいです」

――そのことはパルクールの認知度を上げていくことにもつながりますね。

「最近は公園でトレーニングしていると。『パルクールだ!』と言われる機会が多くなりました。僕が始めた頃は変な目で見られていましたから、だいぶ変わりましたね。当たり前の光景になってほしいです」

――全身を使うパルクールは、最近、さまざまスポーツのトレーニング法として取り入られているようですね。

「パルクールにはもともとトレーニングとしてのカルチャーがあり、肉体のみならず精神を鍛える目的がありました。それから身体の使い方、日常の簡単なところで言えば、転んだ時などの回避方法、距離が足りなかった時のうしろに転がる動きだったりとか、高いところから落ちた時にコロンと回る動きだったり、身を守る術を学べます。スポーツの側面だけでなく、そうしたルーツやカルチャーも多くの人に知ってもらいたいですね」

――観るスポーツとしては、どんなところに注目したらよいですか? 

「フリースタイル部門は、自由度が高い分、性格が出やすいんじゃないかと思っています。それぞれのかたちがあるので、そこを見てほしいです。僕の場合は、好きな事をつきつめるタイプなので、苦手な鉄棒技はあまり取り入れてないです。それからひねくれた性格なので、“THE 王道”は好まなくて、ファッションもそうですが、パルクールでも流行の技はしません。ちょっと外したり、変化をつけたり、人と違うことをしようと意識しています」

――そのあたりがSEI選手の魅力であり、強みになっているんですね。いくつかのパフォーマンスを見ましたが、力強いというよりも、しなやか、華麗という表現が合う気がします。

「ありがとうございます。技やフォームの美しさにこだわっているので、そう言っていただけとうれしいです!」

【プロフィール】
朝倉聖〜SEI(あさくら・せい)
1999年3月27日生まれ。monsterpk Crew所属。神奈川県出身
中学生の時にパルクールと出合い、独学で練習に励み高校卒業後、日本トップのパルクール集団monsterpk Crewに加入。華麗に動き回る独自のスタイル「SAINTKOUR」を武器に、2019年日本選手権初代王者、国際大会で日本人初の優勝を成し遂げるなど、世界レベルの実力を示した。ソニーのスマートフォン・Xperiaの魅力を発信する「Xperia Ambassadors」や「TEAM G-SHOCK」メンバーとしても活動している。

取材・文●尾崎史洋(THE DIGEST編集部)
撮影場所:MISSION PARKOUR PARK TOKYO

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