ロシアGPでのハミルトンとノリスの明暗はどこで分かれたのか?「残り8周」での決断を海外メディアが回想

ロシアGPでのハミルトンとノリスの明暗はどこで分かれたのか?「残り8周」での決断を海外メディアが回想

ハミルトン(左)のタイヤチェンジが今回は結果に結びついたが、雨が上がっていたらノリス(右)に軍配が上がっていたことだろう。(C)Getty Images

F1第15戦ロシア・グランプリの決勝は、ルイス・ハミルトン(メルセデス)が逆転で制して通算100勝という前人未到の大記録を樹立したが、ランド・ノリス(マクラーレン)が初優勝をほぼ手中に収めていた残り8周からの雨をめぐる両ドライバー&チームの動きは、見る者に強い印象を与えることとなった。

 46周目から降り出した雨に対し、当初はノリス、ハミルトンともにスリックタイヤでの走行継続を望み、接戦を演じていたが、ハミルトンが49周目を終えた後にピットインしたのに対し、ノリスは最後までスリックで走り切ることを選択。結果的にノリスの賭けは裏目に出て、強くなった雨の中で懸命に車をコントロールするも、51周目でコースアウトしてハミルトンの先行を許し、最終的には7位でレースを終える羽目となった。

 レース後はしばらくコクピットから降りることなく、悔しさの程を窺わせたノリスは、「とても失望している」と正直な気持ちを明かし、「チームはピットインさせたがっていたが、僕はステイアウトすると決めた。これは僕の決断だ。不思議なことに、雨が降り続けるとは言われたが、強くなるということを我々は分かっていなかった。小雨が続くという情報を基に、僕は判断した」と語った。
  この両者が明暗を分けた8周を、スポーツ専門チャンネル『ESPN』が回想。両チームの無線でのやりとりを振り返りながら、異なる決断を下すことになったポイントに迫っている。

 首位ノリスと2位ハミルトンのタイム差が1秒345で突入した46周目、まずノリスがスタンドの観客の多くが傘を開き始めたことを無線で報告。続く47周目はまだ、雨が少なかったものの、ノリスのタイムは前の週よりも3.6秒も遅くなるなど、ドライビングには間違いなく影響を与えており、またここでチームからは「雨はレースの終わりまで続くだろう」と伝えられた。

 さらにこの周でノリスはコースアウトし、ハミルトンは追い抜きのチャンスを迎えるが、過去のマックス・フェルスタッペン(レッドブル)とのバトルがもたらした結果を教訓として、ここでは強引に前に出ることを思い止まったという。なお、マクラーレンはこの時、残り数ラップでのバトルに備え、燃料の節約を指示している。
  48周目に入った時、両者は0.0996秒とほとんど差がない状態だったが、ノリスが驚異的なマシンコントロールでハミルトンを抑え続けていた。この時、メルセデスはピットインを戦略のひとつとして真剣に考え始め、その前に14番手を走っていたヴァルテリ・ボッタスを47周終了時に先にピットに入れて様子を見ることを決める。このことを知らされたハミルトンは、「場合によってピットインもあり得る」とも伝えられるが、「滑りやすいが、雨はあまり降っていない」と否定的な返答をしていた。

 そして、間もなくタイヤを履き替えた後のボッタスのラップタイムが大幅に改善されたことが判明すると、メルセデスはハミルトンにピットインを命じたが、ノリスに肉迫し、なおかつバイザーにかかる雨粒も少なかったことから、ハミルトンは「彼(ノリス)はすぐ目の前にいるんだ」とこれを無視し、49周目に入る。

 この時点でノリスの頭にピットインの選択肢はなく、必死にハミルトンを抑えるとともに、無線で青旗を要求しながら、前に現われる周回遅れの車をかわしていたが、ボッタスとのラップタイム差は第2セクター通過の段階で5.3秒もの開きがあった。そして、メルセデスにとって決定的なポイントとなったのは、フェルスタッペンがピットインしたことだった。
  後に2位まで浮上するライバルの動きに反応し、メルセデスは再度ハミルトンにピットインを指示。しかし、ここでも7度のワールドチャンピオンは「雨が止んできている」と難色を示したことで、メルセデスは戦略に関する最高決定権を持つヘッドストラテジストのジェームズ・ヴァウルズが介入しようとしたが、先にハミルトンの方からピットインすることが伝えられた。

 一方、マクラーレンも多くの車がタイヤ交換を敢行したことをノリスに伝えたが、これに対する返答は「シャラップ!」……。そして、チームの「インターミディエイトに変えるのをどうだろう?」という打診(指示ではなく)についても、「ノー」と答えた21歳の英国人ドライバーはコースに留まり続けたが、ハミルトンはアウトラップだけで4秒もタイム差を埋めていた。
  50周目終了時のピットインを拒絶したことで、チームから「(優勝するには)もう、このタイヤで走り続けるしかない」と指摘されたノリスだったが、14秒995の差で突入した51周目、雨が強くなる中でターン5の入り口でスピンして180度回転。その傍らをハミルトンが通過していった。レースに復帰するも、本来なら8速全開のバックストレートで5速までしか入れられない状態で、首位との差はみるみる開き、完全に勝利の可能性は消え、遅ればせながら入ろうとしたピットでは白線越えの違反を犯して罰則を受けることに……。

 こうして波乱のレースは終焉を迎えたが、キーポイントとなったのは、ボッタスがタイヤ交換の効果を明確に示したこと、そしてフェルスタッペンの動きなど、メルセデスにはピットインを決断するための材料が揃ったのに対し、マクラーレンにはそれがなかったことが挙げられるようだ。

 最終的にドライバーを従わせることができる権限をチームが持つメルセデス、対して実際にコースを走るドライバーからの情報をあてにしながら、決定もドライバーに任せるマクラーレンという、チームとドライバーの非常に興味深い関係性の違いも、結果に少なくない影響を与えた。
  ノリスやマクラーレンは「ギャンブルに負けた」と言えるが、同メディアは「後になってからなら何とでも言える」として、彼らの決断を責めることはできないと主張。「もし残り4周で雨が弱まっていれば、ノリスが勝利し、天才と呼ばれていただろう」と綴っている。

 今季のハンガリーGPでは、赤旗再スタート時に他車が全てピットでタイヤ交換する中、ハミルトンだけがスターティンググリッドに並び、直後にピットに入って最後尾に落ちるという判断ミスを犯したが、一瞬の判断や駆け引きが、レースの結果を大きく変えてしまうというF1の別の面の面白さが今GPでは見られたと言えよう。

構成●THE DIGEST編集部

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