スーパーソニックス移転の“悲惨さ”を伝えた熱き男たち。1万ドルを費やし世界へ訴える【NBA秘話|後編】<DUNKSHOOT>

スーパーソニックス移転の“悲惨さ”を伝えた熱き男たち。1万ドルを費やし世界へ訴える【NBA秘話|後編】<DUNKSHOOT>

ヒートとサンダーが激突した2012年のファイナルでマイアミに乗り込んだリード(左)とバクスター(右)。2人の“怨念”が通じたのかサンダーは敗れた。(C) Getty Images

■ソニックスファンの亡霊としてサンダーに付きまとう2人の男

 ソニックスファンに対する逆風は続き、ベネットの企みを阻止しようと訴訟に打って出た当時のシアトル市長、グレッグ・ニッケルズが予想外の無能さを露呈する。彼が法廷で踏ん張っていたら、少なくとももう1年はソニックスがシアトルに留まり、打開策を模索する時間を獲得できた可能性は高かった。

 卑怯者のコーヒー屋、ペテン師のオクラホマン、ファン度外視のコミッショナー、愚かすぎる市長。登場人物が見事に酷い連中ばかり。まともなのは、こよなく愛していたチームをある日突然失ってしまったシアトルのファンだけという、何とも虚しい構図だった。

 そのファンを象徴するユニークな2人が、今回の主人公である。1人は『SONICSGATE』の監督兼プロデューサー、ジェイソン・リード。もう1人がエグゼクティブ・プロデューサーを務めたコリン・バクスター。2人とも、自他ともに認めるウルトラダイハード・ソニックスファンである。

 なんと2人は、ソニックスのユニフォームを着用し、ゾンビ(〈魔力によって〉生き返った死体)のメイクをしてサンダーの試合を観戦。それもファイナルの大舞台で、借金をしてサンダーベンチ真後ろの、日本円にして数十万円もするチケットを買って、である。目的はただひとつ、ソニックスファンが受けた惨劇を、世界中に伝えるため。

 2012年、サンダーのファイナル進出に合わせて、2人はマイアミに飛んだ。その際、『ESPN』のインタビューに答えているのだが、これがなかなか面白い。抜粋、意訳してみよう。
 ESPN:このアイディアはいつ思いついたの?
リード:2、3年前から。サンダーがファイナルに進んだら、何かどでかいことをやりたいって俺たちは話していた。シアトルには世界で最高のバスケットボールファンがいることを証明したかったんだ。

ESPN:そのチケットはいくらしたの?
バクスター:3500ドル……。
リード:それには手数料が含まれてないよ。全部込みで3900ドルだね。チケット転売サイトで、欲しかった席が手に入ったんだ。

ESPN:ホテル代や交通費、その他の費用を合わせたら、出費はどのぐらい?
リード:たぶん1人1万ドルぐらいじゃないかな。
バクスター:俺たちは超金持ちってわけじゃない。単にダイハード・ファンなだけさ。
リード:今回旅費を工面するため、2人とも新たにクレジットカードを作った。NBAがシアトルに戻ってくるまで、俺たちはこれで良しとするわけにはいかない。
バクスター:カネの問題じゃないんだ。情熱の問題だ。この機会を逃したらもう終わりだろう。このチームはシアトルのものであるべきなんだ。だけど、事態は少々おかしな方向に転がってしまった。チームを盗まれた時にどう対処すればいいのか、本当にわからない。ルールも何もないからね。そう、俺たちは“盗まれた”と感じている。
 ESPN:2人はシアトルのファンの中でも、特に大きなグループの代表的存在?
バクスター:俺たちの背後にある大きなうねりのためでなければ、こんなメイクなんてしないよ。206(シアトルとその近郊の市街局番)、ワシントン州、そして世界中のスーパーソニックスファンのためにやってるんだ。

ESPN:アリーナのスタッフや、他のファンの反応は?
リード:何の説明もなくサインボードを没収された。問題がないことを事前に確認したんだけどね。

ESPN:サンダーのベンチやチーム関係者から、何か反応やコメントは?
バクスター:俺たちに親切にしてくれた席の案内係がいて、何かまずい状況になったら知らせてくれと頼んどいた。サインボードを取り上げられた後、サンダーの(ベネット)オーナーが、俺たちがそこにいたことに激怒していると言ってたな。
リード:OKCの選手を恨んでいるわけじゃない。でも、クレイ・ベネットがチームを所有している限り、サンダーを応援するつもりはないね。彼らは俺たちが一番愛していたものを奪い取った。NBAがシアトルに戻るまで、俺たちは何度でも立ち上がるつもりだよ。

 注目度の高いプレーオフの場にサンダーが進出したら、また彼らはゾンビのメイクをしてサンダーベンチの真後ろに姿を現わすのだろうか。

 シアトルのソニックスファンの間で、もう10年以上もスターバックスコーヒーのボイコットが続いているという。僕は特にソニックスファンというわけではなかったが、なんとなく応援したくなってくる。これほど熱く、忠誠心にあふれたファンを、ベネットやスターンはよくもまあこんなにあっさりと裏切り、見捨てたものだなあと思う。ファンあってのプロスポーツチーム、これだけは永遠の真理である。
 ■ソニックスと運命をともにした反骨のスポーツアナウンサー

 もう1人、ソニックス移転に際し男気を見せた人物がいる。21年間に渡り、チームの専属アナウンサーを務めたケビン・カラーブロウだ。

 1987年からソニックスの専属となったカラーブロウは、計9度ワシントン州の“スポーツキャスター・オブ・ザ・イヤー”を受賞。リーグの中でも、特に優秀なアナウンサーの1人とみなされていた。ケンプの“レインマン”というニックネームの生みの親でもある。

 ケンプがプロ入りして2年目のある日、カラーブロウは“Rain Man”(ダスティン・ホフマンとトム・クルーズ出演の1988年アカデミー賞受賞作品)のポスターを目にする。そこからヒントを得て、「ケンプはゲームを支配(Reign)し、繰り出されるダンクはまるで雨(Rain)。彼こそまさしく“The Reign Man”だ!」と実況。雨の多いシアトルの街にぴったりのそのニックネームは、あっという間に定着したのだった。
  2008年夏、ソニックスはシアトルを離れることになり、41年間続いた歴史に終止符が打たれる。チームの移転に伴い、スタッフや関係者への対応は様々だった。オクラホマシティへの異動の声がかからなかった者もいれば、オファーのあったスタッフの中には即決する者や、迷う者もいた。もちろん、カラーブロウにもオファーがあった。オファーどころか、チームに必要不可欠な存在だった。

 フランチャイズ移転の経緯は、カラーブロウも当然知っていた。そして、ファンの気持ちも。カラーブロウは迷った末、オクラホマシティ行きを断る。4人の子どもの生活環境を変えたくないという理由もあったが、それは単身で通えば解決できた問題だった。

 カラーブロウにとって、それまでと同じようにソニックスの選手をサンダーの選手として実況することはできなかった。悲嘆に暮れているソニックスファンのためにも、そして何より、己の矜持のためにも。大切な仕事を犠牲にしてでも、どうしても譲れない一線が彼にはあった。
  カラーブロウは現在64歳。『TNT』のNBA中継や、『ESPN』のリードアナウンサーとしてNBAファイナルのラジオ中継も何度か担当した。2016−17シーズンからはブレイザーズの専属アナウンサーに就任し、その高い能力を遺憾なく発揮していたのだが、新型コロナウイルスの中断明けの試合には復帰せず、ブレイザーズのチームアナウンサーの職を辞している。一身上の都合だそうだ。

 最後に余談をひとつ。シアトルを拠点とする4大ネット系列局の公式サイトに掲載されていたブログで、ある記者がカラーブロウのサンダー専属アナウンサーへの就任辞退を記事にしていたのだが、その結びの文章にやられた。公式サイト内の記事である以上、デスクや上司のチェックが入るはずであり、日本だったら即刻削除され、ブログ担当者は大目玉を食らうレベルだろう。アメリカのメディアは、まだまだ健全だなあと思わされた次第だ。

(カラーブロウのオクラホマシティ行き辞退について)“個人的な短信:よくやったぞ、ケビン!”

文●大井成義

※『ダンクシュート』2020年10月号掲載原稿に加筆・修正。

【PHOTO】日米識者10人が厳選!ジョーダン、コビーらNBA最強スコアラーTOP10をお届け!

関連記事(外部サイト)