「見返したかった」渋野日向子の涙に込められた“複雑な想い”。亡き恩人への感謝、そして批判に対する本音も

「見返したかった」渋野日向子の涙に込められた“複雑な想い”。亡き恩人への感謝、そして批判に対する本音も

大ブレイクを果たした2019年以降、苦しい時期を過ごしていた渋野。約1年11か月ぶりの優勝に思わず涙をこぼした。(C)Getty Images

国内女子ツアーの『スタンレーレディス』最終日、前週の『日本女子オープン』を制した勝みなみに刺激を受けたわけではないだろうが、同じ黄金世代の渋野日向子が4人プレーオフを制し、1年11か月ぶりの国内ツアー5勝目を飾った。

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 一時は首位と4打差まで離された渋野だが、この日は最後まであきらめなかった。「何があるか分からない」と信じ、ボギーを叩いてもすぐにバーディを奪い返すしぶといプレーを続ける。そして、ついに18番パー5でこの日6個目のバーディを奪うと、首位グループに加わったのだ。

 この時点で通算10アンダーに並んだのは渋野、木村彩子、ペ・ソンウ、アマチュアの佐藤心結の4選手。プレーオフの舞台となったのは、つい先ほどバーディを奪ったばかりの18番だった。その1ホール目で木村が脱落すると、2ホール目に渋野だけがバーディを奪って決着。渋野にとっては、18番を3回連続でプレーしたのが幸いだっただろう。
 「今までスイング改造を行ってきた集大成が18番のすべてのショットで出たのではないかと思います」と力強く言い放ったように、ティショットからパッティングまで完ぺきなゴルフを演じたのだ。

 ティショットでは3回ともフェアウェイをキープ。しっかりと飛距離を出し、課題としていた“飛んで曲らないドライバーショット”も見せつけた。さらに2打目では7番ウッドと5番ユーティリティを使い分け、3打目でウェッジを打てる距離にボールを運んでいた。

 本戦では52度、プレーオフ1ホール目では54度、2ホール目では46度のウェッジを使用した渋野。残り距離はそれぞれ95ヤード、88ヤード、108ヤードだった。

 昨年から掲げているテーマのひとつに、100ヤード前後の距離からの精度を上げることがあったが、そのために先に挙げた3本のウェッジに58度を加えた4本ウェッジでシーズンを戦った。渋野にしてみれば、その成果を見せるにはこれ以上ない舞台だったと言える。
  この日、18番のピン位置は右奥だったが、「バックスピンがかかるので、ピンの上2ヤードに落とせばカップインもあるかなと思って打ちました」と渋野。その狙いどおり、本戦ではピン上約1ヤードに落とし、ピン手前1メートルの位置まで戻す。

 プレーオフ1ホール目ではさらに精度を上げて、ピン上2ヤードに落とすと、ボールはバックスピンがかかってカップに向かっていく。惜しくも外れたが、約20センチ手前につけた。2ホール目こそ、ピン上5ヤードに落ちたため、1.5メートルの下りのパットが残ったが、どのショットもしっかりと計算されたショットだった。

「4本のウェッジを入れたおかげで、1ヤード、2ヤードを打ち分けることができたと思います」と語ったとおり、必死で練習してきたことが重要な場面で大きな武器となったのだ。
  優勝が決まった瞬間、思わず涙がこぼれ、両手で顔を覆った渋野。「勝てなかった2年間のことをいろいろ思い出しての涙です。これでいろんな人にいい報告ができるなと」。その中には、今年の4月に亡くなった前所属会社であるRSK山陽放送の社長を務めていた桑田茂氏も含まれる。高校時代からずっと笑顔で応援してくれていた恩人だった。

 支えてくれた周囲の人やファンに対して感謝の気持ちを届けるためにも優勝したかったが、自分の意地を見せたい気持ちもあった。メジャーである『AIG全英女子オープン』を制し、国内ツアーで4勝を挙げた19年は一躍時の人となったが、その後は米ツアーで結果を出せず、国内ツアーでも優勝に手が届かなかった。

 その間、自身のスイング改造についていろいろと言われていることも耳に入ってきた。「あーだこーだ言っていた人を見返したい気持ちを心に片隅に置きながらプレーしていました」と本音を漏らす。

 今回の優勝で、自分の選択が間違っていないことを証明できたことも嬉しかった。「一時は19年の自分を超えることはできないと思いましたが、今は2年前の自分よりも強くなれる感じがあります」と、この1勝がもたらす自信は計り知れないぐらいに大きい。終盤戦に向かう女子ツアーをまだまだ盛り上げてくれそうだ。

文●山西英希

著者プロフィール/平成元年、出版社に入社し、ゴルフ雑誌編集部所属となる。主にレッスン、観戦記などのトーナメントの取材を担当。2000年に独立し、米PGAツアー、2007年から再び国内男子、女子ツアーを中心に取材する。現在はゴルフ雑誌、ネットを中心に寄稿する。

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