“世紀の一戦”武尊vs那須川天心は実現するのか?カギとなる複雑な条件「K-1でもRIZINでもない中立なリング」

“世紀の一戦”武尊vs那須川天心は実現するのか?カギとなる複雑な条件「K-1でもRIZINでもない中立なリング」

対戦実現には「あと数週間」がリミットとされる武尊(左)vs那須川(右)。 写真:産経新聞社、徳原隆元

今どうなっているのか。結局どうなりそうなのか。多くの格闘技ファンが気になっているはずだ。現在の日本格闘技界における最高のビッグカード、武尊vs那須川天心の一戦である。

 始まりは2015年。那須川が対戦を呼びかけたことが大きな話題となった。しかし武尊の属するK-1サイドは那須川に独占契約を求める。本音としては闘いたかった武尊だが、当時、K-1の枠組みを崩すことはできなかった。以降、両陣営の関係は険悪なものになっていく。

 その状況を動かしたのは武尊だ。那須川の名前こそ出さなかったものの「みんなが望む試合を実現させたい」と発言。そのことでファンの期待感も復活する。心ない人間たちからは「逃げるな」といった誹謗中傷をぶつけられたが、武尊はもとより逃げる気がなかった。

 そして昨年大晦日、武尊はRIZINでの那須川の試合をリングサイドで観戦。試合後には“グータッチ”をかわした。「待たせましたね」との会話もあったという。

 その後、那須川は2月のRISEで志朗戦に勝利。武尊は3月にレオナ・ペタスを下してK-1王座を防衛した。これで晴れて実現へ、と思いきや、武尊が負傷。回復を待ち、あらためて実現が期待されているというのが現在の状況だ。
  時間がないことは、誰もが分かっている。那須川は来年、ボクシングに転向することを公言しているのだ。9.23RISEを終え、残るキックボクシングの試合は年末のRIZINと年が明けてからのRISE、この2試合となる。

 タイミングを考えると、武尊戦は年末、RIZINの試合契約を使ってのものになるだろうか。あるいはイレギュラーでもう1試合ということなのか。来年のRISEは那須川の“キック卒業マッチ”であり、彼のホームリングに武尊が上がることは考えにくい。

 9月23日、RISE・ぴあアリーナMM(横浜)大会で、那須川は「僕もマジで分からない。状況が整えばやりたい」と語るにとどまった。RISE伊藤隆代表は、世紀の一戦の実現について質問され、その時点では「(交渉の)テーブルに着いていません」とコメントしている。またRIZINの榊原信行CEOが間に入っていることも明かした。

 そして榊原CEOは、RIZIN会見後の囲み取材でこの件について言及。

「みんなが少しずつ我慢したり譲ったりする必要がある。誰かの思い通りに100%いくというのでは実現しない」
  榊原氏は、この試合の実現に関して「コーディネート、調整役」だと語っている。K-1、RISE、スポンサー、放送局、配信局、そうした各方面のコンセンサスが必要だと。

 これだけ大きな試合になると、ことは単純ではない。那須川がK-1に、あるいは武尊がRISEに乗り込むということは考えにくいし、RIZINも那須川のホームだ。

 武尊が理想としているのは、そうした既存のリングではない場所での闘い。大晦日、那須川の試合を視察した後でこんなコメントを残している。

「片方(の団体)を脱退して片方に行くというやり方はしたくなかった。そのことで片方の団体が落ちてしまうので。誰かが落ちたり傷ついたりしてはいけない。どうにか格闘技界がひとつになるような試合にと思って動きてきたつもりだったので。

 この試合をやるには中立なリングで。僕はK-1のチャンピオンとして、天心選手はRISE、RIZINのチャンピオンとして。理想の形はK-1でもRIZINでもない中立なリングを作って、そこでやりたいと思います」
  榊原CEOの表現を借りれば「みんなが少しずつ我慢したり譲ったりする」、武尊の言葉では「誰かが落ちたり傷ついたりしない」、それが中立のリングということだ。K-1でもRISEでもRIZINでもない大会。それが実現すれば、日本格闘技界が一丸となっていることもアピールできる。

 ただもちろん、その「中立なリング」の実現は簡単ではない。それぞれの立場でどこを譲り、何を譲らないか。その調整には時間がかかってしまう。誰が会場を抑え、誰がチケットを売るのか。利益の分配は。これまでRIZINを中継してきたフジテレビが放送するのか。K-1とRISEを盛り上げてきたABEMAはどう絡むのか。考えなければいけないことは山のようにある。

 実現できるか否か。もう時間が少なくなっているのは間違いない。榊原CEOは、9月末の時点で、やるにせよやらないにせよ「あと数週間」がリミットだとしている。交渉(調整)自体は継続して行なわれており、我々としてはそれがまとまるのを願うしかない。

 武尊にとっては悲願の一戦。現在の那須川は「決まればやる」というスタンスだがこの試合の意味や大きさを充分に理解しているし、武尊の実力も認めている。実現したとして、コロナ禍の中で会場にどれくらいの観客を収容できるのかも気になるところ。タイムリミットとの闘いは続く。

文●橋本宗洋

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