那須川天心、涙のRIZIN卒業に秘めた想い。五味隆典と交わした“拳と拳の会話”「駆け引きなしでグーでいかせてもらった」

那須川天心、涙のRIZIN卒業に秘めた想い。五味隆典と交わした“拳と拳の会話”「駆け引きなしでグーでいかせてもらった」

「五味さんなら」と挑んだ大一番。那須川はその一発ずつに気持ちを込めた。(C)RIZIN FF

入場で泣き、試合後に泣き、大会エンディングでも泣いた。那須川天心ってこんなに涙もろかったのかと驚いた。いや、涙もろいのではなく、それくらいの思い入れがRIZINにあったということだろう。

 大晦日恒例のRIZINのさいたまスーパーアリーナ大会で、那須川は“卒業マッチ”に臨んだ。2022年は4月にRISE、6月に武尊戦でそれぞれキックボクシングでの試合を終えると、ボクシングに転向する。そのためこの大晦日は、RIZINに参戦する最後の機会だった。

 そんな大事な試合で対戦したのは五味隆典。RIZINの前身とも言えるPRIDEでも活躍していた43歳の大ベテランだ。ルールはボクシングに準ずる形でのエキシビション、3分2ラウンド。キックルールでの相手が決まらなかったため、急きょ白羽の矢が立った相手だが、那須川にも「五味さんなら」という思いがあった。

 いつもは気合いの入った表情で入場の花道を進む那須川だが、この日ばかりは感極まっていた。チケットは完売、2万2499人のRIZINファンの存在が胸に迫ったという。
 闘いぶりも、普段とは違った。いつもは冷静沈着、完璧に近いディフェンスとカウンターで相手を封じるが、今回は真っ向からやり合った。もちろん体重差のある五味のパンチは重かったが、それを食らいながら自分でも思いきり打ち込んだ。拳と拳の会話だった。

「僕はガムシャラにというか、駆け引きなしで“グー”でいかせてもらいました。五味さんも“グー”できてくれた。今の格闘家にはない気持ちをいただけたと思います。喝を入れていただいた感じです。この一戦は自分の記憶に凄い残りますね。本当にやってよかった」

「グー」とはつまり、ただ愚直に思いきり殴るということだろう。そうすることで伝わる思いが、格闘家にはある。勝ち負けのつかないエキシビション。キックの公式戦でないことに不満を抱いたファンもいただろう。しかし、五味と出なければできない“会話”も確かにあったのだ。

 試合後、マイクを握った那須川は「僕はRIZINが大好きで......」と涙した。この舞台は「何者でもない自分にチャンスをくれた」大事な場所だと言う。そしてメインマッチ後の大会エンディングに行なわれた卒業セレモニーでも、榊原信行CEOから卒業証書を授与されると、「泣きたくない」と言いながらまた泣いた。無敗のファイターの純情が溢れた。「4月のRISEの試合、6月の武尊選手との試合、RIZIN代表として勝ってキックボクシングを卒業します」

 自分を「RIZIN代表」と言うくらい那須川にとってRIZINは大きなものだった。デビューは2016年の年末。MMAマッチだった。自分のキャリアを切り拓くため、別競技に挑戦した。ミックスルールも、異例のフロイド・メイウェザー Jr.との対戦もあった。RIZINでの試合はチャレンジの連続で、それは本人にも驚きであり、楽しくもあった。 榊原は那須川のRIZINでの試合を「ともに磨き上げた作品、モデルケース」だと語っている。挑戦を重ねながら、RIZINで「那須川天心の試合が見たい」というニーズを作り出し、当初は存在しなかったキックボクシング部門を作らせるまでになった。

 いつからかRIZINあっての那須川というだけでなく、那須川あってのRIZINにもなっていた。お互いにとって欠かせない存在。涙が出て当然だった。

取材・文●橋本宗洋

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