【名馬列伝】「長い距離は持たない」と言われたキタサンブラックが見せつけた意地と底力<後編>

【名馬列伝】「長い距離は持たない」と言われたキタサンブラックが見せつけた意地と底力<後編>

血統から長距離は不向きと言われたキタサンブラック。敗戦から立ち直るタフさを身に着けて次々とタイトルを奪取した。(C)Getty Images

クラシックを狙うにはギリギリのタイミングである2015日1月31日。キタサンブラックはようやくデビューの舞台に立った。

 単勝3番人気で迎えた新馬戦は、東京の芝1800メートル。道中は後方の10番手あたりを進んだが、直線を向くと豪快な末脚を繰り出して、2着に3馬身差をつける圧勝で飾って見せた。

 続く2月の500万下(現1勝クラス)も東京を舞台に選び、距離を延ばした芝2000メートルに挑戦。9番人気と評価は低かったが、直線では2番手からあっさり抜け出すと、またも2着に3馬身差をつけて快勝。この勝利でマスコミに力量馬として注目されるようになった。

 そして3戦目には、クラシック競走への出走権をかけていよいよ重賞のスプリングステークス(G2)に出走。ここでも単勝は5番人気に甘んじたが、2番手でレースを進めて4コーナーで先頭に立つと、激しく追い込む1番人気のリアルスティールをクビ差抑えて優勝。デビューから無敗の3連勝で勇躍、クラシックへ駒を進めた。

 ここまでの3戦で人気にならなかった原因について触れておきたいことがある。それは、キタサンブラックの母の父がサクラバクシンオーだったことだ。

 サクラバクシンオーは日本競馬史に残る代表的な短距離馬。1993年、スプリンターズステークス(G1)連覇を含め、1400メートル以下の重賞を4勝しており(逆に1600メートル以上のレースでは勝利がない)、競馬界においては「究極のスプリンター」と認識されていた。

 種牡馬としても、2002年の高松宮記念(G1、中京・芝1200メートル)を制したショウナンカンプに代表されるように、産駒が活躍したのも、その多くがマイル以下の距離でのもので、より「サクラバクシンオー=スプリンター」のイメージが強く刷り込まれていた。

 そのため、母の父にサクラバクシンオーを持つキタサンブラックは「長い距離はもたない」という評価をくだされ、そのイメージはのちにまで続いていった。
  そして迎えた皐月賞(G1)。戴冠を狙うべく臨んだキタサンブラックだったが、そこにはデビュー前から評判が鳴り響く強敵が待っていた。キングカメハメハの仔、ドゥラメンテがその馬である。

 キタサンブラックは2番手を進み、直線でも粘り腰を見せはしたが、ドゥラメンテ、リアルスティールに交わされて3着。初めての敗戦を喫した。

 続く日本ダービー(G1)でも2番手から進んだものの直線で失速。勝ったドゥラメンテから2秒3も離された14着に涙を飲んだ。

 そして、この大敗が「母の父サクラバクシンオー」であるがゆえに長距離は不向きだという印象を強化することにもなった。
  しかし夏を越して、さらに鍛えられたキタサンブラックは秋シーズンに逆転を狙って攻勢をかける。2200メートルのセントライト記念(G2)に6番人気で出走すると、2番手からの抜け出しで快勝した。

 ここでポテンシャルの高さを再認識させたにもかかわらず、3000メートルの菊花賞(G1)では、またも距離適性の問題を取りざたされ、単勝は5番人気にとどまった。

 だが、キタサンブラックは、道中はインの5番手あたりで息を潜めて進み、最後の直線で最内のスペースを突いて激走。リアルスティールをクビ差で差し切って、念願のG1タイトルを手に入れた。

 表彰式のあと、自身も初のG1制覇だった北島三郎オーナーが人気曲の『祭り』を披露したのも話題となって、キタサンブラックの人気は一気に国民的な注目を集めるようになった。

「もっと強くなれる」という清水調教師の厳しいトレーニングにもへこたれずに成長を続けたキタサンブラックは、2016年から新たに武豊騎手を鞍上に迎えて勝ち星を積み重ねる。

 ときに取りこぼしはあったものの、すぐに敗戦から立ち直るタフさを身に着けたキタサンブラックは、天皇賞(春)の2連覇をはじめ、天皇賞(秋)、ジャパンカップ、大阪杯と次々にG1タイトルを奪取。そして、ここを勝てば歴代賞金王(当時)に立てるというラストランの有馬記念も、決然と先頭を切る堂々たる逃げを打って優勝。この勝利で通算獲得賞金は18億7684万3000円にも達し、G1レース7勝も歴代最多タイ記録(当時)となった。
  レース後には夕闇のなかをスポットライトに照らされて引退セレモニーが行われ、数万人のファンと北島オーナーら関係者に見送られてターフを去った。

 年明けの1月には、前年に続いて2年連続でJRA賞年度代表馬に選出されたとの報が届けられた。また、2020年には史上34頭目となる顕彰馬に選定されている。

 2018年から北海道・安平町の社台スタリオンステーションで種牡馬入りしたキタサンブラックは大人気を博し、130頭の交配相手を集め、そのなかから早くも東京スポーツ杯2歳ステークス(G2)を制するイクイノックスを出して、種牡馬としての能力の高さをアピールした。

 長期休養後のレースとなった皐月賞でいったんは先頭に立つ積極的な競馬で2着に入ったイクイノックスの評価は日に日に高まるばかり。人気を集めることが必至であろう日本ダービーで、父の無念を晴らし、また種牡馬としてのキタサンブラックの名を高める孝行息子となるか。ファンは固唾を飲んでその走りを見守っている。

文●三好達彦

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