井上尚弥、ドネア撃破で漂った精神面の飛躍。2年7か月前の初対戦と比較して“モンスター”は何が違ったのか?

井上尚弥、ドネア撃破で漂った精神面の飛躍。2年7か月前の初対戦と比較して“モンスター”は何が違ったのか?

終始主導権を握りながら、ドネアを打ち破った井上。貫禄すら漂わせたパフォーマンスは、間違いなく歴史に残るものだった。(C)AP/AFLO

6月7日、さいたまスーパーアリーナに集まった1万7000人の大観衆の前で、WBAスーパー、IBF王者・井上尚弥(大橋)がWBC王者ノニト・ドネア(フィリピン)を返り討ちにしたのは大方の想定内だった。約2年半前の第1戦でもボディブローでKO寸前までいったこと、39歳というドネアの加齢を考慮すれば、KO決着は何ら予想外ではなかった。

 ただ、それにしても2回1分24秒という速さで、これほどまでに完璧な決着を見せてくれるとは思わなかったというのが正直なところだ。

「やる前から必ず言葉にしていたのが『ドラマにするつもりはない。この試合は一方的に勝つんだ』。そういう思いでプレッシャーをかけてこの試合に挑みました」
【動画】ドネアを渾身の左フックで撃破! 井上尚弥のKOシーンをチェック
  試合後のリング上で井上はそう振り返っていたが、実際に今戦ではいい意味での緊張感が目についた。わずか4分半という短いサンプルではあるが、競走馬でいうところの“入れ込みすぎ”という状態だった第1戦と比べ、パンチ、フットワークはよりスムーズで無理がなかった印象がある。

 一撃必倒のパンチを持つドネア相手では一瞬のミスが命取りになる。それだけに試合開始早々に右目をかすめた左フックによって、警戒心がより強まるというプラス材料があったのは理解できる。「おかげでしっかりピリついて試合を立て直すことができた」という当の井上の言葉は正直な思いの吐露だったはずだ。試合後に故障があって万全の体調ではなかったことを示唆してはいたが、少なくとも精神面では、この日の井上は緊張感が力に変わるという最高の状態だったのではないか。

 1ラウンド終盤、ドネアが「見えなかった」という右ストレートで井上が最初のダウンを奪った瞬間に、勝負は事実上決まった。もちろん偶然などではなく、実力上位だからこそ放てた必然のカウンターパンチ。2回に左フックでダメージを与えた後の詰めも、キャリア序盤に悪目立ちした顎が上がる悪癖は影を潜め、ほとんど隙のないフィニッシュだった。 対戦相手の質、かかったタイトルの数、舞台の大きさまでを考慮に入れれば、今戦は2014年12月、スーパーフライ級王者になったオマール・ナルバエス(アルゼンチン)戦と並ぶ井上のキャリア最高のパフォーマンスだったろう。格的には最大のビッグネームである2人を相手にベストファイトを見せているのも、何かを象徴しているように思えてくる。

 2人のレジェンドが再対決した今戦は、アメリカでも軽量級の範疇を超えた話題を呼んだ。メインイベント開始は米東部時間で朝8時過ぎという厳しい時間帯ではあったが、この早さでは他に何のイベントも行われていないことがむしろ幸いに働き、第1ラウンドのゴングが鳴る頃、ボクシング・メディアのSNSは井上対ドネア戦一色になった。
  それほどの注目度の中で、39歳になったとはいえ殿堂入り確実の強者を完璧に葬ったことの意味は大きい。今から10年後も、20年後も井上のキャリアが振り返られる際、“ドラマ・イン・サイタマ2”は歴史的王者のピーク・パフォーマンスの1つとして語り継がれていくに違いない。

文●杉浦大介

【著者プロフィール】
すぎうら・だいすけ/ニューヨーク在住のスポーツライター。MLB、NBA、ボクシングを中心に取材・執筆活動を行う。著書に『イチローがいた幸せ』(悟空出版 )など。ツイッターIDは@daisukesugiura。

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