【名馬列伝】衝撃の復活劇とライバルを差し切った名勝負! グラスワンダーが二度の有馬記念で魅せた底力<後編>

【名馬列伝】衝撃の復活劇とライバルを差し切った名勝負! グラスワンダーが二度の有馬記念で魅せた底力<後編>

98年に続き99年の有馬記念を制したグラスワンダー(7番)。スペシャルウィークとの名勝負を演じた。写真:産経新聞社

クラシック競走と同様に、天皇賞・秋(GⅠ、東京・芝2000m)はクラシック競走と同様に外国産馬に開放されていなかったため、次の目標をジャパンカップ(GⅠ、東京・芝2400)に定めていたグラスワンダーは、そのステップとしてアルゼンチン共和国杯(GⅡ、東京・芝2500m)に出走するが、ここでもかつての活気ある走りは見られないまま6着に沈む。そのため陣営はジャパンカップを見送り、じっくり立て直して有馬記念(GⅠ、中山・芝2500m)に臨む決断を下した。

 闘争心を甦らそうと、的場は最終追い切りでこれまでになくびっしりと愛馬を追った。するとその後、馬の具合が目に見えて良化し、馬体の張りも復帰後でいちばんの状態まで戻ってきた。

【動画】グラスワンダーとスペシャルウィークの二頭が並んでゴール! 白熱の99年有馬記念!!
 それでも、この有馬記念はセイウンスカイ、エアグルーヴ、メジロブライトなどのGⅠウィナーが顔を揃えていたため、グラスワンダーはオッズ14.5倍の4番人気に甘んじたのは仕方ないことだった。

 しかし、グラスワンダーはその低評価を覆して劇的な復活を見せる。

 中団を進むと2周目の第3コーナーから位置を押し上げながら最終コーナーを回って直線へ向いた。そして鞍上のゴーサインを受けるとぐいぐいと末脚を伸ばし、エアグルーヴを突き放すと、バテたセイウンスカイを交わして先頭に躍り出る。後方から追い込んできたメジロブライトを半馬身抑えてトップでゴールへ飛び込んだ。一度は失われかかったグラスワンダーのファイティングスピリットを引き出した、的場の執念を感じる勝利でもあった。

 外国産馬が有馬記念を勝ったのは史上初のこと。また7戦目での優勝は史上最少キャリア記録でもあった。

 1999年もやや順調さを欠いて始動が遅れたが、初戦の京王杯スプリングカップ(GⅡ、東京・芝1400m)でエアジハードを降して勝利を挙げたものの、続く安田記念(GⅠ、東京・芝1600m)では大接戦ながら、ハナ差でエアジハードにリベンジを許して2着に敗れた。

 しかし、転んでもただで起きないのがグラスワンダーである。

 同い年の日本ダービー馬であるスペシャルウィークと初の直接対決となる宝塚記念(GⅠ、阪神・芝2200m)は、外国産馬へのクラシック競走の開放が成されていなかった時代だけに、ファンのあいだで空前の盛り上がりを見せた。
  1番人気にはオッズ1.5倍でスペシャルウィークが推され、グラスワンダーはオッズ2.8倍の2番人気に甘んじたが、レースは意外なほどあっさりと決着がつく。

 先団から早めに抜け出したスペシャルウィークだったが、その直後まで迫っていたグラスワンダーが一気にそれを飲み込むと、ゴールでは3馬身もの差をつけて圧勝を遂げてしまったのだ。スペシャルウィークの関係者にはショッキングなシーンであり、逆にグラスワンダーの復権はファンを大いに喜ばせた。
 
 宝塚記念でできた2頭の因縁の対決は、年末の有馬記念で再び実現する。ただし、ここへ至る道程はかなり違ったものであった。

 スペシャルウィークは、初戦の京都大賞典(GⅡ、京都・芝2400m)で7着に敗れたものの、そこから一気に巻き返して、天皇賞・秋とジャパンカップを連勝。宝塚記念での屈辱を晴らさんと、ラストランとなる有馬記念に臨んできた。

 一方のグラスワンダーは、始動戦の毎日王冠をハナ差で際どく制したものの、その後は筋肉痛を発症してジャパンカップを回避するなど、順調さを欠きながら、どうにか間に合わせたという状態で、1番人気には推されたものの、陣営は不安を抱えながら大一番を迎えることになった。

 レースはグラスワンダーが後方に控えると、スペシャルウィークがさらにその後ろを進む。淡々とした流れのなか、主役の2頭は向正面から徐々にポジションを押し上げながら直線へ向いた。グラスワンダーは先に抜け出して懸命にゴールを目指すが、そこへ外からスペシャルウィークが強襲。さらにはテイエムオペラオーが2頭に迫ろうとする大激戦となり、最後はグラスワンダーとスペシャルウィークが完全に並んだ状態でゴール。激闘を目にして燃え上がった観客は固唾を飲んで結果を待つが、なかなか掲示板に番号が上がらない。

 そして数分が経っただろうか。ようやく1着を示す場所に上がった番号は「7」。いったんは差されたかと思われたグラスワンダーがスペシャルウィークをわずかに差し返して勝利を収めていたのだ。着差は「ハナ」だったが、実際には3㎝の差しかなかったと言われている。有馬記念史に残る名勝負である。
  この年のJRA賞年度代表馬は、フランスでGⅠを勝ち、凱旋門賞(GⅠ、ロンシャン・芝2400m)でも2着したエルコンドルパサーに決まったが、グラスワンダーとスペシャルウィークにはそろって特別賞が贈られた。
 
 グラスワンダーは翌2000年も現役を続けたが、往時の力は出せなかったうえ、骨折が判明。宝塚記念(6着)を最後に現役を引退して、翌春から種牡馬入りした。

 産駒にはジャパンカップを勝ったスクリーンヒーローやアーネストリー(宝塚記念)、セイウンワンダー(朝日杯フューチュリティステークス)などを輩出。スクリーンヒーローは種牡馬としてGⅠレース6勝のモーリスや、有馬記念を勝ったゴールドアクターを出し、モーリスはすでに種牡馬としてスプリンターズステークス(GⅠ、芝1200m)を勝ったピクシーナイトなど多くの重賞勝ち馬を出している。

 血脈が途切れることなく続いていくことは、競馬の根源である血統的な楽しみそのものである。グラスワンダーの血が今後も発展していくことを願っている。

<後編・了>

文●三好達彦
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