【天皇賞(秋)】イクイノックスが驚異的なポテンシャルを発揮! 敗れるも名勝負を演出したパンサラッサ陣営に最大限の称賛を

【天皇賞(秋)】イクイノックスが驚異的なポテンシャルを発揮! 敗れるも名勝負を演出したパンサラッサ陣営に最大限の称賛を

天皇賞・秋は、イクイノックスがゴール前でパンサラッサをかわして優勝を飾った。写真:産経新聞社

秋の中距離チャンピオン決定戦となる天皇賞(秋)(GⅠ、東京・芝2000m)が10月30日(日)に行われ、逃げ込みをはかった単勝7番人気のパンサラッサ(牡5歳/栗東・矢作芳人厩舎)を中団から爆発的な末脚で追い込んだ1番人気のイクイノックス(牡3歳/美浦・木村哲也厩舎)が豪快に差し切って優勝。1987年に参戦が可能になった1987以降、3歳馬の優勝はバブルガムフェロー(1996年)、シンボリクリスエス(2002年)に次ぐもので、キャリア5戦目での天皇賞制覇は史上最少出走数記録となった。

 競馬の面白さ、楽しさを存分に味わわせてくれるレースだった。
 キーポイントは、追い切り後の共同会見で「いつもどおりのイメージ(逃げ)でレースを進めますか」という質問が投げられた際、パンサラッサを管理する矢作芳人調教師が迷いなく打ち返したコメントに隠されていた。
「もちろんです。ファンの方もそれを望んでいるでしょうから、そういう競馬に徹したいと思っています」

【動画】驚異のまくりでイクイノックスが天皇賞・秋を制す! 事実上の「逃げ宣言」、それも”脚を溜めて”の逃げではなく、福島記念(GⅢ、福島・芝2000m)や中山記念(GⅡ、中山・芝1800m)を制覇したとき見せたような”大逃げ”のプランをプンプンと匂わせるセリフだった。

 ゲートが開くと、ロケットスタートを切ったバビット(牡3歳/栗東・浜田多実雄厩舎)が先頭を窺おうとするが、そうはさせぬとばかりにパンサラッサが手綱をしごかれながら“定位置”の先頭を奪った。

 2番人気のシャフリヤール(牡3歳/栗東・藤原英昭厩舎)と、3番人気のジャックドール(牡3歳/栗東・藤岡健一厩舎)は2番手集団に位置を取り、イクイノックスとダノンベルーガ(牡3歳/美浦・堀宣行厩舎)は馬群の後ろ目を追走する。

 先頭を奪い切ったパンサラッサは、水を得た魚とでも言うべきか。ハイペースで快調に飛ばし、さらには向正面の半ばあたりから後続との差をどんどん広げ、一時は十数馬身ほどの差を付けた。

 1000mの通過ラップはなんと57秒4という超の字が付くほどのハイペース。どんどんと後続と差が広がる様子をターフビジョンで目にし、また1000mのラップタイムを実況放送で耳にした観客が大きくどよめく。

 最終コーナーを回り、直線へ向いてもパンサラッサと後続の差はまだ大きく保たれていた。後続も懸命に追撃態勢に入るが、なかなか差は詰まってこない。

 後続とはまだ10馬身ほどの差があり、観衆の目にはパンサラッサの逃げ切りが濃厚だとうつったそのとき、馬群の外からイクイノックスとジャックドールが馬体を併せながら伸びてきた。

 逃げ切るのか、届くのか――。
  興奮のるつぼに叩き込まれた観衆の叫び声が競馬場を覆うなか、ジャックドールを競り落としたイクイノックスがしなやかでいて力強いフットワークで、逃げ脚に陰りが見えたパンサラッサとの差をぐいぐいと詰めると、ゴール寸前でそれを差し切って鮮やかな勝利を収めた。
  イクイノックスの後ろから伸びてきたダノンベルーガが3着に入り、末脚の切れで見劣ったシャフリヤールとジャックドールは、それぞれ5着と4着に敗れた。また、皐月賞馬のジオグリフ(牡3歳/美浦・木村哲也厩舎)も末脚の伸びを欠いて9着に大敗した。

 イクイノックスは、父キタサンブラックの初年度産駒。キタサンブラックは種付料の手ごろさ(ことしは500万円、受胎確認後支払)もあって多くの交配相手を集めているが(ことしの種付頭数は177頭)、いきなり”大物”を出したことに加え、先ごろセントライト記念(GⅡ、中山・芝2000m)を制したガイアフォース(牡3歳/栗東・杉山晴紀厩舎)も送り出しており、来春はこれまで以上の人気を集めるのは必至であり、同時に種付料も大きく上がるだろう。

 それにしも、イクイノックスのポテンシャルの高さは「凄い」のひと言に尽きる。

 体質の弱さなどもいあって、レース間隔をたっぷりと取りながら大事に育ててきた木村調教師と厩舎スタッフ、加えて放牧先であるノーザンファーム天栄のスタッフの素晴らしい仕事に感銘を受けた。

 前段で「凄い」と記したが、レースの内容を精査すると、その途轍もない強さがよく分かる。

 ラスト3ハロン(約600m)の時計を比較すると、優勝したイクイノックスが32秒7、パンサラッサが36秒8と、その差は4秒1もあった。一般的に1秒の差は5~6馬身差とされているので、残り3ハロンの地点ではまだ両馬のあいだには少なく見積もっても20馬身ほどあったことになる。

 そして、イクイノックスはラストで上記の時計で走り切っているが、追い込んで勝ち負けにからんだ他馬が最後に末脚を鈍らせたのと比べると、ロングスパートをかけながら終いまで脚を伸ばし続け、驚異的な上がり時計を記録した心肺能力の高さも”怪物級”だと言わねばなるまい。
  間近で見たイクイノックスはひと夏を越して見事に成長したところを見せた。ひと回りスケールアップした馬体はシャープさを増しm、個人的には、彼の皮膚の薄さや陽の光に照らされて輝く毛艶は思わず魅入られしまうほどだった。

 そして、なんと言ってもことしの天皇賞(秋)を、大逃げを謳って歴史的名勝負の位置にまで押し上げた立役者として、さすがは海外GⅠホースだと、パンサラッサには最大限の称賛を贈りたい。
  冒頭に矢作調教師のコメントを挙げたが、これはファンを喜ばせるために打った手ではあった。そかしそれだけではなく、「レース後に漏らした」という言葉、「前半を56秒台で行って、後半を59秒台で走れれば勝てると思っていました。ただ、後半を59秒台で走るのは難しいんだなぁ……」からも、その意図がよく汲み取れる。

 それでも矢作調教師は、
「(負けたことは)悔しいけど、きょうは馬を褒めてあげたい」
 と、番狂わせの寸前まで迫った愛馬の労を労った。

 難しいレース展開に翻弄された2番手以下の馬たちだったが、 終わってみれば、ジオグリフを除いて、戦前から有力と見られていた実力馬が上位を占める結果となった。今回は、切れ味とスタミナを兼備するイクイノックスの強さを褒めるべきだろう。
<了>

取材・文●三好達彦
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