「前を捉えてくれ」9年目の苦労人が掴んだ悲願のビッグタイトル!砂転向の良血ジュンライトボルトが頂点へ【チャンピオンズカップ】

「前を捉えてくれ」9年目の苦労人が掴んだ悲願のビッグタイトル!砂転向の良血ジュンライトボルトが頂点へ【チャンピオンズカップ】

強烈な差しでジュンライトボルトが初のGⅠ制覇。人馬とも初のビッグタイトルを手にした。写真:産経新聞社

12月4日、23回目を迎えたチャンピオンズカップ(GⅠ、中京・ダート1800m)が行なわれ、単勝3番人気に推されたジュンライトボルト(牡5歳/栗東・友道康夫厩舎)が豪快な追い込みで優勝。手綱をとった石川裕紀人騎手とともに、GⅠ初制覇を成し遂げた。

 2着には2番手で粘った4番人気のクラウンプライド(牡3歳/栗東・新谷功一厩舎)が入り、3着も先行策をとった6番人気のハピ(牡3歳/栗東・大久保龍志厩舎)が健闘した。一方、単勝オッズ1.5倍という圧倒的な支持を受け、本レースの連覇を狙ったテーオーケインズ(牡5歳/栗東・高柳大輔厩舎)は、直線で伸びを欠いて4着に敗れた。

 前年の覇者テーオーケインズの”一強ムード”で迎えた秋のJRAダート王決定戦だったが、帝王が立ちはだかるはずの壁は脆くも崩れ去った。駐立が良くないためゲートに課題を抱えるテーオーケインズだが、この日はやや立ち遅れた程度で、すぐに立て直して6番手付近の外目に取り付いた。

 逃げたのはレッドソルダード(セン4歳/栗東・奥村豊厩舎)で、クラウンプライドが2番手を進み、いつもは後方からの追い込みを得意とするハピは予想を裏切って3番手に付けた。ジュンライトボルトは中団の後ろ目でインコースを進み、ライアン・ムーア騎手を鞍上に迎えた2番人気のグロリアムンディ(牡4歳/栗東・大久保龍志厩舎)は行きっぷりがいま一つで10~11番手からの追走となった。
  確固たる逃げ馬が不在だったこともあり、レッドソルダードが刻んだ1000mの通過ラップは1分02秒4と、GⅠレースとしては明らかなスローで、先団に有利な流れ。そして密集状態でひと塊になりながら、馬群は直線へと向いた。

 レッドソルダードが失速したため、クラウンプライドが自然と先頭に立ち、その内でハピが2番手へ。馬群が密集していたため外々を回る形になったテーオーケインズもスパートに入るが、末脚にはいつものような力強さがない。そこへ後続馬群から抜け出して猛追してきたのがジュンライトボルト。ひと際目立つ脚色で一気に前を行く3頭を射程に捉えると、粘り込みを図るクラウンプライドをクビ差交わしてトップでゴールを駆け抜けた。

 上がり3ハロンの時計を見ると、2位のクラウンプライド、ハピの36秒7を0秒5も上回る36秒2を計時。先行有利のスローペースで流れたレースを一気に引っ繰り返した凄まじい爆発力は数字でも示されていた。 ジュンライトボルトの血統は、父が芝・ダートを問わず活躍馬を多数出したキングカメハメハ。母のスペシャルグルーヴは、曾祖母にダイナカール(オークス)、祖母にエアグルーヴ(天皇賞(秋)、オークス)がいる名牝系に連なる。

 本馬はいわゆる良血馬であり、2018年のセレクトセールで1億2960万円(税込み)という高値で落札されている。デビューから芝路線を使われ、朝日杯フューチュリティステークス(GⅠ、阪神・芝1600m)に駒を進めた(6着)。その後、3勝クラスまで勝ち上がったものの、芝では頭打ちになり、「以前から使いたいと考えていた」(友道調教師)ダートに路線を変更した。

 初戦こそ2着に敗れたものの、続くBSN賞(オープン、新潟・ダート1800m)を快勝すると、シリウスステークス(GⅢ、中京・ダート1900m)と連勝を飾り、秘めていたダート適性の高さを5歳にして開花させた。

 デビュー9年目にして初のGⅠタイトルを手にした石川騎手は、「直線では進路が見つかれば弾けてくれると信じていました。(追い出したときの)馬の反応が『勝てる』という手応えだったので、何とか前の馬を捉えてくれ、という気持ちでした」と喜びを爆発させた。

 また、友道調教師は来春の予定として、フェブラリーステークス(GⅠ、東京・ダート1600m)やドバイ遠征を挙げており、ダートではいまだ底を見せていない”5歳の新星”の先行きが楽しみになった。

 2着のクラウンプライド、3着のハピはベテランの手綱さばきのアシストを受けての好走。ともに3歳馬であるだけに、これからの成長次第ではダートの主権争いに加われる存在となりそう。とりわけ、横山典弘騎手が「2、3年後にはすごいことになっているかもしれない」と絶賛したハピには大きな期待をかけたくなる。
  最後に、人気を裏切ることになったテーオーケインズに触れないわけにはいかないだろう。パドックでも落ち着いて周回し、返し馬でもスムーズな動きを見せており、調子落ちはないと思われていた。高柳調教師、松山弘平騎手ともに「(落ち着いた)いい状態だと感じていた」と語っている。

 しかし、やや立ち遅れて密集した馬群の外々を回されるロスがあったにしろ、直線でもがきながらの4着という結果には不思議さを感じざるを得ない。プレビューで「ムラ駆けの傾向がある」と指摘はしたが、テーオーケインズが初めてGⅠ(JpnⅠ)を勝った昨年の帝王賞(大井・ダート2000m)以降の着順を見ると、【1→4→1→8→1→4】と、一戦ごとに勝利と凡走を繰り返していることが分かる。

 これは推察の域を出ないが、勝った後の反動が大きく、立て直しが難しいタイプなのではないか。能力の高さは疑うべくもないが、全幅の信頼を置くことが難しくなったのは確かだろう。

文●三好達彦

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