「シンプルなことを、徹底しました」稲垣啓太が取材エリアで語った首位ワイルドナイツの“根本的な強さ”
2023年03月14日 18時58分THE DIGEST

首位を走るワイルドナイツのFW陣を牽引する稲垣。(C) Getty Images
ワールド・ベースボール・クラシックの話題が列島を巻き込む2023年、新潟の元野球少年がラグビーの国際舞台を見据える。
稲垣啓太。高校時代に足を踏み入れた楕円球界にあって、もっとも有名なアスリートのひとりとなった32歳だ。
ワールドカップ・フランス大会を今秋に控え、2月上旬から日本代表の首脳陣と定期的に面談。目下開催中の国内シーズンを戦いながら、本番までの課題を再確認してゆく。
タフなスケジュールにも涼しい顔だ。
「日本代表は、日本代表でプレーして結果を残したいから招集され、それを名誉だと思ってやっている。まして今年、ワールドカップがあるのなら、こういうスケジュールのなかで(代表活動が)あるのは当然だと思います」
その落ち着きは、仕事ぶりにも現れる。
3月11日、東京・秩父宮ラグビー場。埼玉パナソニックワイルドナイツの背番号1をつけ、加盟するリーグワン1部の第11節に先発した。
昨季のプレーオフ決勝を戦った東京サントリーサンゴリアスとの大一番にあって、後半7分に退くまで激しく、正確に、淡々と戦った。
前半10分、自陣22メートル線付近中央でボールをもらって力強く前に出る。ラックを作る。味方がその前方へ攻め込むや、稲垣はすぐに起き上がってサポートに入る。相手のタックラーを押さえつけるようにし、ペナルティーキックを獲得する。
守ってはチーム3位タイとなる10本のタックルを放った。相手の突進を正面から防いだ前半3分の1本、一連の流れで2発のハードヒットを繰り出した前半17分頃の動きが、渋く光った。
スクラムで最前列へ入る左プロップながら、ボールがない場所で身軽に動くのも特徴的だった。
常に前を見て、相手の攻めそうな場所へ身長186センチ、体重116キロの身体を移動させる。周りに合図を送り、危機を未然に防ぐ。
果たしてワイルドナイツは、41―29で開幕11連勝を飾った。
サンゴリアスは前半こそ中央突破で勢いを作ったり、接点の周りに複層的な陣形を作ったりして大外にスペースを創出。14点を先行した。
しかし時間を追うごとに、ワイルドナイツは自慢の防御を蘇生させた。
その流れを稲垣は、試合後の取材エリアで丹念に振り返っていた。
まず序盤は、ワイルドナイツの防御の位置取り、つまり「セットアップ」が「遅かった」ようだ。
「ディフェンスのセットアップが遅れ、人数が揃わないと、より相手に優位な状況でアタックをさせてしまう。そういったことが前半、多かった。しかし後半は、ファーストフェーズ(最初の接点)で相手の勢いを消す(のを意識)。これでディフェンス(のセットアップ)が速く整備できます。そしてラインを上げられる…」
言葉通りのプレーは、ハーフタイム明け早々に見られた。
中盤のラインアウトからのサンゴリアスの「ファーストフェーズ」に対し、ワイルドナイツのラクラン・ボーシェ、ダミアン・デアレンデがタックルを繰り出す。2人で1人の走者を掴み上げ、まもなくワイルドナイツが攻撃権を獲得した。
17―24と7点差を追う後半15分には、やはりデアレンデがベン・ガンターとサンゴリアスのランナーを仕留める。流れを止める。その間、周りのワイルドナイツの戦士は「ディフェンスを速く整備」した。
その列に入っていたディラン・ライリーが、サンゴリアスの大外へのパスをインターセプト。そのままトライを決めるなどし、24―24と同点に追いついた。
以後はガス欠気味となったサンゴリアスの穴を突き、着実に加点。同33分までに41―24と大差をつけた。
稲垣は言った。
「最初の段階でポジショニングに入れていれば、あとは個人のスキルと判断(次第となる)。さらに、その判断も、いい時間帯が多かった。それが結果として、勝敗に繋がったかなと思います。シンプルなことを、徹底しました」
有事においても自分たちにとっての基礎、基本に立ち返る。稲垣の、さらにはワイルドナイツの真骨頂が垣間見える。
「大きな問題がある時は、色々なところに手を伸ばしがちなんです。あれもやらなきゃ、これも失敗した、ここも課題だ…と。しかし大事なのは、いまチームが何を真っ先に改善しなければいけないのか(を把握する)ということ。それと、(立ち返る)土台というものが、ワイルドナイツにはある。そこに戻れば、また自分たちのテンポを作ることができる。そういう自信がある。そう思っているのは、僕だけではないです。それが自分たちの、根本的な強さです」
自分たちがなぜ勝っているのかを理解する。その皮膚感覚は、プレーする場所が日本代表になっても損なわれないだろう。稲垣は続けた。
「環境が変われば、人も変わります。そこに対応するのは重要です。ただ、自分のなかで変えてはいけない部分、チームとして変えてはいけない部分。それはちゃんと、共有しておいた方がいいと思いますね」
団体競技の本質を掴み取っている。
取材・文●向風見也
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稲垣啓太。高校時代に足を踏み入れた楕円球界にあって、もっとも有名なアスリートのひとりとなった32歳だ。
ワールドカップ・フランス大会を今秋に控え、2月上旬から日本代表の首脳陣と定期的に面談。目下開催中の国内シーズンを戦いながら、本番までの課題を再確認してゆく。
タフなスケジュールにも涼しい顔だ。
「日本代表は、日本代表でプレーして結果を残したいから招集され、それを名誉だと思ってやっている。まして今年、ワールドカップがあるのなら、こういうスケジュールのなかで(代表活動が)あるのは当然だと思います」
その落ち着きは、仕事ぶりにも現れる。
3月11日、東京・秩父宮ラグビー場。埼玉パナソニックワイルドナイツの背番号1をつけ、加盟するリーグワン1部の第11節に先発した。
昨季のプレーオフ決勝を戦った東京サントリーサンゴリアスとの大一番にあって、後半7分に退くまで激しく、正確に、淡々と戦った。
前半10分、自陣22メートル線付近中央でボールをもらって力強く前に出る。ラックを作る。味方がその前方へ攻め込むや、稲垣はすぐに起き上がってサポートに入る。相手のタックラーを押さえつけるようにし、ペナルティーキックを獲得する。
守ってはチーム3位タイとなる10本のタックルを放った。相手の突進を正面から防いだ前半3分の1本、一連の流れで2発のハードヒットを繰り出した前半17分頃の動きが、渋く光った。
スクラムで最前列へ入る左プロップながら、ボールがない場所で身軽に動くのも特徴的だった。
常に前を見て、相手の攻めそうな場所へ身長186センチ、体重116キロの身体を移動させる。周りに合図を送り、危機を未然に防ぐ。
果たしてワイルドナイツは、41―29で開幕11連勝を飾った。
サンゴリアスは前半こそ中央突破で勢いを作ったり、接点の周りに複層的な陣形を作ったりして大外にスペースを創出。14点を先行した。
しかし時間を追うごとに、ワイルドナイツは自慢の防御を蘇生させた。
その流れを稲垣は、試合後の取材エリアで丹念に振り返っていた。
まず序盤は、ワイルドナイツの防御の位置取り、つまり「セットアップ」が「遅かった」ようだ。
「ディフェンスのセットアップが遅れ、人数が揃わないと、より相手に優位な状況でアタックをさせてしまう。そういったことが前半、多かった。しかし後半は、ファーストフェーズ(最初の接点)で相手の勢いを消す(のを意識)。これでディフェンス(のセットアップ)が速く整備できます。そしてラインを上げられる…」
言葉通りのプレーは、ハーフタイム明け早々に見られた。
中盤のラインアウトからのサンゴリアスの「ファーストフェーズ」に対し、ワイルドナイツのラクラン・ボーシェ、ダミアン・デアレンデがタックルを繰り出す。2人で1人の走者を掴み上げ、まもなくワイルドナイツが攻撃権を獲得した。
17―24と7点差を追う後半15分には、やはりデアレンデがベン・ガンターとサンゴリアスのランナーを仕留める。流れを止める。その間、周りのワイルドナイツの戦士は「ディフェンスを速く整備」した。
その列に入っていたディラン・ライリーが、サンゴリアスの大外へのパスをインターセプト。そのままトライを決めるなどし、24―24と同点に追いついた。
以後はガス欠気味となったサンゴリアスの穴を突き、着実に加点。同33分までに41―24と大差をつけた。
稲垣は言った。
「最初の段階でポジショニングに入れていれば、あとは個人のスキルと判断(次第となる)。さらに、その判断も、いい時間帯が多かった。それが結果として、勝敗に繋がったかなと思います。シンプルなことを、徹底しました」
有事においても自分たちにとっての基礎、基本に立ち返る。稲垣の、さらにはワイルドナイツの真骨頂が垣間見える。
「大きな問題がある時は、色々なところに手を伸ばしがちなんです。あれもやらなきゃ、これも失敗した、ここも課題だ…と。しかし大事なのは、いまチームが何を真っ先に改善しなければいけないのか(を把握する)ということ。それと、(立ち返る)土台というものが、ワイルドナイツにはある。そこに戻れば、また自分たちのテンポを作ることができる。そういう自信がある。そう思っているのは、僕だけではないです。それが自分たちの、根本的な強さです」
自分たちがなぜ勝っているのかを理解する。その皮膚感覚は、プレーする場所が日本代表になっても損なわれないだろう。稲垣は続けた。
「環境が変われば、人も変わります。そこに対応するのは重要です。ただ、自分のなかで変えてはいけない部分、チームとして変えてはいけない部分。それはちゃんと、共有しておいた方がいいと思いますね」
団体競技の本質を掴み取っている。
取材・文●向風見也
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