W杯での躍動も期待されるトヨタヴェルブリッツの顔、姫野和樹の現在地。シーズンを通じて認識した自身の影響力とは?

W杯での躍動も期待されるトヨタヴェルブリッツの顔、姫野和樹の現在地。シーズンを通じて認識した自身の影響力とは?

FW第3列で奮闘する姫野。今秋のW杯でも活躍が期待される。(C) Getty Images

キックオフを遅らせると伝えられたのは、試合が始まる直前のことだった。

 トヨタヴェルブリッツの姫野和樹は、甘い顔立ちを歪める。

「僕たち選手はキックオフに向けてコンディションを、メンタルも整え、命を懸けてやっている。そこをくじかれると、しんどいな、とは、思います」
 
 4月16日に臨んだ国内リーグワン1部・第15節は、天気に左右された。会場の秩父宮ラグビー場が雷、大雨、雹に見舞われ、開始が予定より1時間5分も遅れた。

 やっと始まったゲームでは、プレーした両軍が反則、ミスを重ねながらも点を獲り合った。

 その間、姫野は持ち味を発揮した。接点の球へ絡むジャッカルという技、地上の球を拾っての大きな突破…。

 後半17分、対するリコーブラックラムズ東京を29―17とリードした。

 しかし、ここで再びストップがかかった。

 空に稲妻が走ったためだ。ロッカールームへ下がり、集中のスイッチを切った。
「いい流れを保っていたのにもかかわらず中断というのは、かなりストレスがかかりました」

 試合の後半に悪天候で中止となれば、その時にリードしている側が白星を掴める。リーグ側がそう定める。

 レギュラーシーズン2戦を残して12チーム中6位だったヴェルブリッツは、すでに4強によるプレーオフ行きを逃していた。さらに同7位だったブラックラムズと異なり、入替戦へ進む危険性もない。

 荒天下で戦うモチベーションは、いかほどだったか。

 インターバルを経てリスタートがなされると、立て続けに失点した。29―34。規律を乱して、ブラックラムズに勝ち越しを許した。

 ラストワンプレーで逆転して36―34と勝利も、共同主将だった姫野は反省した。

「『自分たちのコントロールできることにフォーカスする』。これは、今回に限らず色んな所で出てくる課題だと思います。(選手)一人ひとりがオーナーシップを発揮できるよう、自分が手助けしていけたらなと思います」
  入部1年目の2017年に主将となった。同年に日本代表となり、2019年にはワールドカップ日本大会で史上初の8強入りした。2021年にはニュージーランドのハイランダーズに加わり、国際リーグのスーパーラグビーで新人賞に輝いた。

「僕のチームへの影響は、高い(大きい)のだなと感じました」
 
 本人がこう漏らしたのは、今季の歩みを問われた時のことだ。

 豪華戦力を擁しながら第2節からは4連敗。期待に応えたのは中盤戦に入ってからだった。

 転機は2月下旬以降にあった。元ニュージーランド代表ヘッドコーチのスティーブ・ハンセン氏が、練習を仕切り始めた。ハンセンはディレクター・オブ・ラグビーとして現首脳陣を支える立場だったが、危機を脱すべく舵を切った。

 姫野は一時、戦線離脱も、ハンセンが腰を上げた頃にはゲーム主将に戻っていた。簡潔にぶつかるのを意識し、周りにもそうするよう促した。

 3月5日の第10節。旧トップリーグ時代に5度優勝の東京サントリーサンゴリアスを、27―20で破った。ここからブラックラムズ戦前までに3勝2敗と、流れを変えた。

 フォワード第3列で奮闘の姫野は、自らの周りへの「影響」が自分で思う以上に大きいのを認識した。

「若い世代の選手も育っていかなきゃ…と、僕が少しすましていた部分もあった。でも、トヨタというチームは、僕が全面にパッションを出してリーダーとしてやっていくということをしないと、奮い立たないと感じました」

 姫野が動けば周りも動く傾向がこの組織にあることは、複数の選手が認めている。

 代表選手として今秋のワールドカップフランス大会での躍動も期待される姫野は、いま、所属先の顔として最終節を見据えている。

取材・文●向風見也
【動画】土壇場で大逆転! トヨタヴェルブリッツvsリコーブラックラムズ東京戦

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