世紀の一戦は新旧名手が揃った「三強」対決――。『花の15期生』柴田政人はウイニングチケットと頂へ【日本ダービー列伝/前編】

世紀の一戦は新旧名手が揃った「三強」対決――。『花の15期生』柴田政人はウイニングチケットと頂へ【日本ダービー列伝/前編】

1993年日本ダービーで主役となったのはウイニングチケット(左)。ビワハヤヒデ(右)と激闘を繰り広げた。写真:産経新聞社

近年は「勝ちたいレース」を訊くとジャパンカップや、なかには凱旋門賞の名を挙げる若手ジョッキーも現れるようになったが、ひと昔前は同様の質問を投げかけると、ほぼ全員が「日本ダービー」と答えるのが当たり前だった。

 例えば、先ごろ定年で調教師を引退した小島太さんは特にダービーに強い憧れを抱いて騎手を目指したことで知られる。その小島さんに初めて騎乗する機会が訪れたとき、「夢にまで見た日本ダービーに乗れたんだから、もう騎手を辞めてもいいと思った。残りの人生はダービーに乗ったという思い出があれば生きていけるとさえ思った」と語っている。

 だが同時に、ダービーで2勝(1978年のサクラショウリ、1988年のサクラチヨノオー)を挙げていた小島さんは、こうも言った。

「乗れただけで十分だなんてことを言ってたけれど、人間は欲深いものでね。ひとつ勝つと、またもう1回勝ちたいと思うようになる。乗り役にそう思わせるのがダービーというレースなんだよ」
  1993年の牡馬クラシック戦線は「三強」の争いとの世評が高かった。まずは、3連勝でデイリー杯3歳ステークス(GⅡ)を制したものの、朝日杯3歳ステークス(GⅠ)、共同通信杯4歳ステークス(GⅢ)で2着と、勝ち切れないレースが続いたため、鞍上を岡部幸雄騎手にスイッチしたビワハヤヒデ。

 次に、ラジオたんぱ杯3歳ステークス(GⅢ)を制したものの、より鞍上を強化してクラシックを戦いたいという陣営の願いにより、すでに断トツの成績でリーディングジョッキーの座を占めていた武豊騎手を迎えたナリタタイシン。

 そして、柴田政人騎手がまたがったホープフルステークス(オープン)を楽勝、続くクラシック登竜門の弥生賞(GⅡ)を快勝してポテンシャルの高さを見せつけたウイニングチケット。個性豊かな3頭の魅力はもちろんだが、同時に手綱を取るのが武、岡部、柴田という新旧の名手揃いであることも大いにファンの興趣をそそった。 話は1960年代の後半までさかのぼる。当時はまだJRAの競馬学校はなく、東京都世田谷区の馬事公苑にある「騎手養成長期課程」がその役目を負っていた。

 1964年にそこの門をくぐった騎手の卵たちのなかには、9年連続でリーディングジョッキーに輝いて天才と称されるようになる福永洋一、シンボリルドルフで無敗の三冠制覇という大偉業を達成する岡部、GⅠ級レースを2勝する伊藤正徳、そして80年代に入ってからビッグレースを次々に制する柴田。稀に見る達者が揃ったこの世代は、騎手養成長期課程の期数をもとに『花の15期生』と呼ばれるようになった。

『花の15期生』の面々は、前述したように「日本ダービーを勝つこと」を至上の目標とした世代である。この4人のうち、伊藤は1977年にラッキールーラーで優勝し、ダービー制覇に一番乗りとなった。岡部は1984年にシンボリルドルフで勝利を収めた。福永は1979年に不運にも落馬事故に遭い、ダービー制覇の夢を果たせぬまま現役から退いた。

 柴田は1985年にミホシンザンで皐月賞と菊花賞の二冠を獲るが、2着を5馬身も突き放した皐月賞のレース中に発症していたのであろう骨折によって、日本ダービーへの出走は叶わなかった。不運としか言いようのない天の悪戯だった。
  1993年に話を戻す。ビワハヤヒデは年明け初戦の共同通信杯4歳ステークス(GⅢ)で2着に競り負けたことを受けて、鞍上を岸滋彦から岡部にスイッチ。皐月賞と同じ舞台で行なわれる若葉ステークス(オープン)を快勝して皐月賞へ向かった。ナリタタイシンはシンザン記念(GⅢ)で2着に敗れたのを機に、武豊と新しくコンビを組むこととなった。

 ウイニングチケットはじっくりと3か月の休養を取り、3月の弥生賞(GⅡ)から始動。武豊が初めてレースで手綱をとるナリタタイシンもここをステップに選んだため、早くも2頭が直接対決することになった。

 ここでウイニングチケットは驚愕のレースを見せる。道中は最後方を進むと徐々に位置を押し上げながら6番手で直線へ向くと持ち前の瞬発力を発揮し、大外から一気に突き抜けてレコードタイムで快勝。同じく後方から進んだナリタタイシンを2馬身差という決定的な差を付けたのだ。

 この結果を受けて、ウイニングチケットは「三強」から一歩抜け出して、主役との評価を受け、一冠目の皐月賞へ駒を進めた。

文●三好達彦

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