「2期目はパリ五輪出場が1丁目1番地」川合俊一氏がバレーボール協会会長に再任。組織改革に奔走した1期目に「実績は評価できる」の声も
2023年06月17日 09時19分THE DIGEST

2期目の抱負を語る川合俊一会長。写真:北野正樹
日本バレーボール協会は6月16日、東京都内で臨時理事会を開き、川合俊一会長(60)を次期会長に選出した。任期は2025年6月まで。
激動の452日間だった。
前会長がビーチバレーの国際大会でのキャンセル申請に伴い、診断書を偽造するなどの不適切処理を行った責任を問われ、代表理事(会長)を解職。この非常事態に川合氏が会長に就任したのが、2022年3月22日。
協会事務局を取り仕切る事務局長も業務執行理事を解職、事務局長職も解任されたほか、強化のトップも理事職の辞任勧告処分を受けるなど、弱体化した組織の立て直しと信頼回復を託された。
就任に際し、「3度、お断りました。周囲から『火中の栗を拾うようなもの』とも言われ、泥舟に乗ったらひっくり返るから無理だとも思いました。しかし、内情を聞けば聞くほど、やる人はいない。私でもやれることがあるのかなと考えました」と決断までの思いを語った川合会長だが、動きは速かった。
JVAの立て直しに向け、掲げたのが「ガバナンスの高度化」「国際競争力の強化」「発信力の強化」の3つの柱。関係各所に聞き取り、議論を重ね「JAPANバレーボール宣言」とクレド(行動規範)、「JAPANバレーボールWAY」を制定し、「正しさを貫き、誠実に行動すること」などという共通の価値観を、バレーボールに携わるすべての人に求めた。
国際競争力では、就任直後に元テレビマンで国際バレーボール連盟(FIVB)との交渉経験も豊富な藤山太一郎氏をマーケティング事業開発本部長兼同戦略推進部長として招へい。ワールドカップ(W杯)を兼ねたパリ五輪予選を、今年9月に東京・代々木第一体育館で開催することにこぎつけた。
今回の理事改選では、Vリーグ機構の内藤拓也・事業企画部長を理事に登用。業務執行理事として大会運営事業本部長に抜擢した。内藤氏は鹿屋体育大学出身で、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会からVリーグ入りしたが、米国バレーボール協会で約6年間働くなどグローバルな視点とネットワークを持ち、FIVBとも関係が深い。
また、バレーボール宣言のほか、今年3月には暴力と非暴力の間に隠れた「未暴力」に目を向ける「暴力撤廃アクション」を展開。協会ホームページも簡単に被害相談が出来るようにリニューアルするなど、協会の活動方針を明確に伝えるようにした。
1年あまりの中での矢継ぎ早の大きな取り組みは、就任会見で「JVAの信頼は地に落ちたと思う。一度失った信頼を回復するのは半年、1年では無理」という危機感の表れにほかならない。
ピンチもあった。
就任3か月後に発覚した、大阪府バレーボール協会(OVA)の理事による協会資金約2600万円着服問題。公表を渋るOVA幹部に記者会見を開いて公表するよう促し、自ら記者会見に出席し不祥事を謝罪した。
バレーの信頼回復を図る中での不祥事だったが、毅然とした態度で公表に臨み「泥棒は警察に捕まえてもらわないといけない」と、刑事告発も指導する姿は、逆にバレー界への信頼を得る結果となった。
さらには、OVAの不祥事を契機に、各都道府県協会に法人化を指導し透明性のある組織への改革も一気に進めた。暴力撤廃アクションを発表した直後には、JVAの男子強化委員を務めている大学監督による、暴力疑惑が発覚。暴力問題には「たとえ恩師や先輩であっても、隠蔽はしません」と強い姿勢で臨むことを宣言し、JVAコンプライアンス委員会を通じて徹底解明に当たっている。
「隠ぺい問題で辞めた会長の組織を継ぐのだから、問題があっても隠すことはしません」という川合会長の支えは、ビーチバレー部GMとして務めるトヨタ自動車で学んだ「トヨタイズム」だ。
「逃げない」「嘘をつかない」「ごまかさない」は、リコール問題で米下院での公聴会に臨んだ際の、豊田章男社長(現会長)の言葉だが、ピンチを迎えた時の川合会長の対処法は、まさにその姿勢を貫いている。
「トヨタでは、どのようなトラブルでも全員に情報を共有しています。会長就任時に、豊田会長に『トヨタイズムをスポーツ競技団体に落とし込み、どのような変化をするか確かめます』と約束しました。逃げない、嘘をつかない、ごまかさないは、私の協会運営の基本です」と川合会長。
バレーボール宣言や暴力撤廃アクション、各都道府県協会の法人化など大きな指針を示したが、それらを組織の末端まで落とし込むにはまだまだ時間がかかる。
また、OVAの不祥事では、JVAが指揮・命令する権限や強制力を持たないため、指導にとどまざるを得なかった。このため、OVAが当時の会長、理事長の続投を決めようとした際は、透明性のある組織として再出発が期待出来ないなどとして、主要大会の大阪での開催中止などを模索するしか方法がなかった。今後、加盟団体や各都道府県に対して指導・命令出来るように規程を改定することも必要だ。
理事会、事務局改革も緒に就いたばかり。
JVAは22年10月に「役員会選定規程」を新設。改選にあたり、選定された次期会長候補も加わり理事候補を選ぶ方式に変更した。今回の改選では、松下敬副会長(出光興産顧問)が「会長が就任時に掲げた3つの柱を実現するために理事を選考した」というように、FIVBに顔が利く内藤理事を始め会長の経営方針や組織体制の意向に沿った理事で新しい理事会が構成された。
理事候補についても、経験や得意な分野、実績などを評価して選任し、これまで2人だった副会長も須藤実和(プラネットプラン代表)、金川裕一(エル・ティー・エス会長)両氏を含めた3人制を取った。「現在進めているプロジェクトに理事として参画していただいていますが、頼りになる方々ですのでさらに責任感を持って協会運営にあたっていただきたいと考えました」と、体制強化の狙いを説明した。
先送りされた問題もある。協会事務局職員が理事を兼務している点だ。理事は、協会運営のチェックも大きな仕事であるため、理事と事務局職員では利益相反するという指摘が強い。早急な改革は混乱を招くという配慮もあったのだろう。2年後の次回改選時には、兼務は解消される見込みで一歩前進した点は評価できる。
激動の1年3か月を振り返り、川合会長は「泥舟と思っていた舟は、底にちゃんとした板がありました。協会事務局が機能し、理事会も活発な議論で支えてくれました。また、地方協会でも審判員など多くのボランティアの方々が、船を漕いでくれました」と、様々な部門の協力が得られたことに感謝した。
「2期目は、3本柱や暴力撤廃はもちろんですが、パリ五輪出場が我々の1丁目1番地。やらなきゃいけない」と、男女ともに今秋のW杯兼五輪予選での出場権獲得が最大の目標とした。
また、暴力撤廃アクションは「一生、ずっとやっていかなくてはいけない問題」として、今夏の小学生の全国大会では、子供たちに「暴力だと思ったら、口に出して言ってもいいんだよ」と呼び掛けるという。
「信頼回復に向け、一つひとつ真摯に答え、嘘をつくことなく誠実に向き合って来ました。評価は人がするもの。(ビーチバレーの不祥事が表面化した)一昨年よりは良くはなっていると思いますが」と、信頼回復は道半ばとした川合会長。
就任当初は、信頼回復が軌道に乗れば退く意向も示したが、「やってくれと頼まれる限り、続けます」と改革に向けた意気込みを示した。
就任直後から大口スポンサーがつき、財政状況も大きく改善し、日本代表への強化費も増額したほか、各種大会に補助金を給付することも出来た。
「リーダーシップがあり、財務内容が改善し日本代表も好成績を挙げるなど、実績は十分に評価できる。今後、暴力撤廃アクションやバレーボール宣言、行動規範などをどのように組織の末端まで落とし込んでいくのかに注目したい」とは、地方協会理事長経験者の元JVA理事だ。
様々な課題に誠実に向き合い、真正面からぶつかり解決していく姿勢に、バレーボール関係者の期待は高まるばかりだ。
取材・文●北野正樹
【著者プロフィール】
きたの・まさき/2020年11月まで一般紙でプロ野球や高校野球、バレーボールなどを担当。関西運動記者クラブ会友。
【PHOTO】バレーボールネーションズリーグ2023男子日本代表、龍神NIPPONのキャプテン・石川祐希を特集!
【PHOTO】バレーボールネーションズリーグ2023男子日本代表、龍神NIPPONのエース西田有志を特集!
【PHOTO】バレーボールネーションズリーグ2023男子日本代表、龍神NIPPON・髙橋藍を特集!
激動の452日間だった。
前会長がビーチバレーの国際大会でのキャンセル申請に伴い、診断書を偽造するなどの不適切処理を行った責任を問われ、代表理事(会長)を解職。この非常事態に川合氏が会長に就任したのが、2022年3月22日。
協会事務局を取り仕切る事務局長も業務執行理事を解職、事務局長職も解任されたほか、強化のトップも理事職の辞任勧告処分を受けるなど、弱体化した組織の立て直しと信頼回復を託された。
就任に際し、「3度、お断りました。周囲から『火中の栗を拾うようなもの』とも言われ、泥舟に乗ったらひっくり返るから無理だとも思いました。しかし、内情を聞けば聞くほど、やる人はいない。私でもやれることがあるのかなと考えました」と決断までの思いを語った川合会長だが、動きは速かった。
JVAの立て直しに向け、掲げたのが「ガバナンスの高度化」「国際競争力の強化」「発信力の強化」の3つの柱。関係各所に聞き取り、議論を重ね「JAPANバレーボール宣言」とクレド(行動規範)、「JAPANバレーボールWAY」を制定し、「正しさを貫き、誠実に行動すること」などという共通の価値観を、バレーボールに携わるすべての人に求めた。
国際競争力では、就任直後に元テレビマンで国際バレーボール連盟(FIVB)との交渉経験も豊富な藤山太一郎氏をマーケティング事業開発本部長兼同戦略推進部長として招へい。ワールドカップ(W杯)を兼ねたパリ五輪予選を、今年9月に東京・代々木第一体育館で開催することにこぎつけた。
今回の理事改選では、Vリーグ機構の内藤拓也・事業企画部長を理事に登用。業務執行理事として大会運営事業本部長に抜擢した。内藤氏は鹿屋体育大学出身で、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会からVリーグ入りしたが、米国バレーボール協会で約6年間働くなどグローバルな視点とネットワークを持ち、FIVBとも関係が深い。
また、バレーボール宣言のほか、今年3月には暴力と非暴力の間に隠れた「未暴力」に目を向ける「暴力撤廃アクション」を展開。協会ホームページも簡単に被害相談が出来るようにリニューアルするなど、協会の活動方針を明確に伝えるようにした。
1年あまりの中での矢継ぎ早の大きな取り組みは、就任会見で「JVAの信頼は地に落ちたと思う。一度失った信頼を回復するのは半年、1年では無理」という危機感の表れにほかならない。
ピンチもあった。
就任3か月後に発覚した、大阪府バレーボール協会(OVA)の理事による協会資金約2600万円着服問題。公表を渋るOVA幹部に記者会見を開いて公表するよう促し、自ら記者会見に出席し不祥事を謝罪した。
バレーの信頼回復を図る中での不祥事だったが、毅然とした態度で公表に臨み「泥棒は警察に捕まえてもらわないといけない」と、刑事告発も指導する姿は、逆にバレー界への信頼を得る結果となった。
さらには、OVAの不祥事を契機に、各都道府県協会に法人化を指導し透明性のある組織への改革も一気に進めた。暴力撤廃アクションを発表した直後には、JVAの男子強化委員を務めている大学監督による、暴力疑惑が発覚。暴力問題には「たとえ恩師や先輩であっても、隠蔽はしません」と強い姿勢で臨むことを宣言し、JVAコンプライアンス委員会を通じて徹底解明に当たっている。
「隠ぺい問題で辞めた会長の組織を継ぐのだから、問題があっても隠すことはしません」という川合会長の支えは、ビーチバレー部GMとして務めるトヨタ自動車で学んだ「トヨタイズム」だ。
「逃げない」「嘘をつかない」「ごまかさない」は、リコール問題で米下院での公聴会に臨んだ際の、豊田章男社長(現会長)の言葉だが、ピンチを迎えた時の川合会長の対処法は、まさにその姿勢を貫いている。
「トヨタでは、どのようなトラブルでも全員に情報を共有しています。会長就任時に、豊田会長に『トヨタイズムをスポーツ競技団体に落とし込み、どのような変化をするか確かめます』と約束しました。逃げない、嘘をつかない、ごまかさないは、私の協会運営の基本です」と川合会長。
バレーボール宣言や暴力撤廃アクション、各都道府県協会の法人化など大きな指針を示したが、それらを組織の末端まで落とし込むにはまだまだ時間がかかる。
また、OVAの不祥事では、JVAが指揮・命令する権限や強制力を持たないため、指導にとどまざるを得なかった。このため、OVAが当時の会長、理事長の続投を決めようとした際は、透明性のある組織として再出発が期待出来ないなどとして、主要大会の大阪での開催中止などを模索するしか方法がなかった。今後、加盟団体や各都道府県に対して指導・命令出来るように規程を改定することも必要だ。
理事会、事務局改革も緒に就いたばかり。
JVAは22年10月に「役員会選定規程」を新設。改選にあたり、選定された次期会長候補も加わり理事候補を選ぶ方式に変更した。今回の改選では、松下敬副会長(出光興産顧問)が「会長が就任時に掲げた3つの柱を実現するために理事を選考した」というように、FIVBに顔が利く内藤理事を始め会長の経営方針や組織体制の意向に沿った理事で新しい理事会が構成された。
理事候補についても、経験や得意な分野、実績などを評価して選任し、これまで2人だった副会長も須藤実和(プラネットプラン代表)、金川裕一(エル・ティー・エス会長)両氏を含めた3人制を取った。「現在進めているプロジェクトに理事として参画していただいていますが、頼りになる方々ですのでさらに責任感を持って協会運営にあたっていただきたいと考えました」と、体制強化の狙いを説明した。
先送りされた問題もある。協会事務局職員が理事を兼務している点だ。理事は、協会運営のチェックも大きな仕事であるため、理事と事務局職員では利益相反するという指摘が強い。早急な改革は混乱を招くという配慮もあったのだろう。2年後の次回改選時には、兼務は解消される見込みで一歩前進した点は評価できる。
激動の1年3か月を振り返り、川合会長は「泥舟と思っていた舟は、底にちゃんとした板がありました。協会事務局が機能し、理事会も活発な議論で支えてくれました。また、地方協会でも審判員など多くのボランティアの方々が、船を漕いでくれました」と、様々な部門の協力が得られたことに感謝した。
「2期目は、3本柱や暴力撤廃はもちろんですが、パリ五輪出場が我々の1丁目1番地。やらなきゃいけない」と、男女ともに今秋のW杯兼五輪予選での出場権獲得が最大の目標とした。
また、暴力撤廃アクションは「一生、ずっとやっていかなくてはいけない問題」として、今夏の小学生の全国大会では、子供たちに「暴力だと思ったら、口に出して言ってもいいんだよ」と呼び掛けるという。
「信頼回復に向け、一つひとつ真摯に答え、嘘をつくことなく誠実に向き合って来ました。評価は人がするもの。(ビーチバレーの不祥事が表面化した)一昨年よりは良くはなっていると思いますが」と、信頼回復は道半ばとした川合会長。
就任当初は、信頼回復が軌道に乗れば退く意向も示したが、「やってくれと頼まれる限り、続けます」と改革に向けた意気込みを示した。
就任直後から大口スポンサーがつき、財政状況も大きく改善し、日本代表への強化費も増額したほか、各種大会に補助金を給付することも出来た。
「リーダーシップがあり、財務内容が改善し日本代表も好成績を挙げるなど、実績は十分に評価できる。今後、暴力撤廃アクションやバレーボール宣言、行動規範などをどのように組織の末端まで落とし込んでいくのかに注目したい」とは、地方協会理事長経験者の元JVA理事だ。
様々な課題に誠実に向き合い、真正面からぶつかり解決していく姿勢に、バレーボール関係者の期待は高まるばかりだ。
取材・文●北野正樹
【著者プロフィール】
きたの・まさき/2020年11月まで一般紙でプロ野球や高校野球、バレーボールなどを担当。関西運動記者クラブ会友。
【PHOTO】バレーボールネーションズリーグ2023男子日本代表、龍神NIPPONのキャプテン・石川祐希を特集!
【PHOTO】バレーボールネーションズリーグ2023男子日本代表、龍神NIPPONのエース西田有志を特集!
【PHOTO】バレーボールネーションズリーグ2023男子日本代表、龍神NIPPON・髙橋藍を特集!
記事にコメントを書いてみませんか?