【バスケW杯】「勝利を祝う暇はない」アメリカ撃破も気を引き締めるリトアニア。一方“バスケ大国”は「これ以上負けるわけにはいかない」と不退転の覚悟<DUNKSHOOT>
2023年09月04日 16時32分THE DIGEST

アメリカを相手に、リトアニアが大アップセットを成し遂げた。(C)Getty Images
9月3日に行なわれたFIBAワールドカップ2次ラウンド最終戦で、リトアニアがアメリカを破った。リトアニアがアメリカに勝利したのは、2004年のアテネ五輪以来19年ぶりだ。
2004年の大会で、サルナス・ヤシケビシャスやダリアス・ソンガイラを擁したリトアニアは、グループリーグでティム・ダンカン、リチャード・ジェファーソンらを擁したアメリカを94-90で撃破。両者は同大会の3位決定戦でも再び顔を合わせ、ここではアメリカが104-96で勝って銅メダルを手にしている。
1次ラウンドと合わせて4勝同士の対戦となった3日の対戦は、立ち上がりから完全にリトアニアのペース。試合後にスティーブ・カーHC(ヘッドコーチ)が「彼らはすべてのシュートを決めた」と感嘆したように、打つシュート打つシュートがことごとくリングに吸い込まれ、3ポイントに至っては、最初に放った9本すべてをネットに収めてみせた。
アメリカはパオロ・バンケロを送り込んでフィジカルで圧をかけ、さらに得意の速攻から点を取り返しにかかったが、今大会トップクラスのリバウンド力を誇るリトアニアは、オフェンシブ・リバウンドも次々とむしり獲っては自陣の攻撃チャンスに転換した。総リバウンドはアメリカの27に対し42と、リトアニアが圧倒している。
後半に入ってからはアメリカが盛り返し、最終クォーターにタイリース・ハリバートン、ブランドン・イングラム、ジェイレン・ブランソンの連続得点で一時4点差まで詰め寄ったが、ミンダウカス・クズミンスカスの痛快な3ポイントが決まって85-94となった瞬間、再び流れはリトアニアに傾く。そしてその後も落ち着きを失わず、地に足のついた自分たちのプレーに徹した結果、リトアニアは6点リードを保ったまま、試合終了のブザーを聞いたのだった。
リトアニアのカジス・マクスビティスHCは「とにかく相手をフリーにしないこと。必ずダブルチームをつけて相手がパスを出さざるを得ない状況に追い込み、彼らにとっての第1オプションを潰す」というストラテジーを徹底したと試合後の会見で明かしたが、特に前半は、完璧とも言える試合運びだった。
司令塔役を担ったチーム最年少22歳のローカス・ヨクバイティスは「本当に信じられない気分だ。19年ぶりにアメリカを破ったなんて、クレイジーだよね。国中が大騒ぎしていると思うよ。NBA選手が勢揃いしたアメリカを、僕らみたいな小国が破ったんだからね。快挙だよ」と喜びを語った。
続けて、アメリカの印象について「とにかく手強いのはフィジカルの強さ」とコメント。「特に後半は、フィジカルを武器にゴリゴリ当たってきたから、あやうくリードを失うところだった。なんとか勝てたけれど、彼らのフィジカルの強さはあっぱれだったね。もちろんそれだけじゃなく、優秀な3ポインターもいるから、自分たちの望むように試合を進めるのは容易じゃなかった」と振り返っている。
ヨクバイティスは2021年のNBAドラフトでオクラホマシティ・サンダーから34位指名を受け、現在はニューヨーク・ニックスが権利を保有している。現在はスペインのバルセロナに所属しているが、この試合での手応えで、自身の将来のNBA像も見えたかもしれない。
前回大会では、準々決勝でアメリカを破ったフランスが続く準決勝、まるで燃え尽きたかのような戦いぶりでアルゼンチンに敗れている。よって、アメリカ撃破後の試合は鬼門とも言えるが、マクスビティスHCはこの勝利で得たポジティブな要素と、次の試合への集中度のバランスを取ることを、ジョーク交じりに明言した。
「我々は自分たちのキャリアで最も大きな勝利のひとつを手にしたが、それを祝っている暇はない。セルビアは我々を待ち構えている。彼らは花束を手に、レッドカーペットを敷いて待っているわけではないからね」
一方、アメリカにとっても、この敗戦は良いカンフル剤となったようだ。リトアニアに勝っていれば準々決勝の相手はイタリアでなくセルビアだったわけだが、彼らにとってこの違いはそれほど大きな影響はない。
むしろ選手たちは、異口同音に「次の試合に負けたら家に帰ることになる。もう1敗したから、これ以上負けるわけにはいかない」(ボビー・ポーティス)と語っており、改めて気を引き締めている。
前の試合のモンテネグロ戦でも前半はリードを奪われたように、今大会のアメリカはゲーム序盤の出足がやや鈍い。モンテネグロ戦では挽回できたものの、今回はそのまま敗れたことで「先手を取ることの大事さ」を痛感した様子だった。
「我々は目標を達成するために、どれだけハードにプレーしなければならないかを理解した」と語ったカーHCが示す「目標」とは、もちろん“金メダル獲得”にほかならない。
イタリアがアメリカに対して圧倒的に勝っている部分は、同じメンバーで数年間戦ってきたことで熟成されたチーム力の高さ。一方でヨクバイティスが指摘したように、アメリカのフィジカルの強さは、ヨーロッパ勢にとって脅威となる。
両国にそれぞれ分がありそうなこの対決、9月5日に笑うのは、はたしてどちらのチームか。
文●小川由紀子
【バスケW杯PHOTO】3勝2敗、史上初の勝ち越しでW杯を終える!48年ぶり自力での五輪出場決定!|順位決定戦第2戦日本80-71カーボベルデ
2004年の大会で、サルナス・ヤシケビシャスやダリアス・ソンガイラを擁したリトアニアは、グループリーグでティム・ダンカン、リチャード・ジェファーソンらを擁したアメリカを94-90で撃破。両者は同大会の3位決定戦でも再び顔を合わせ、ここではアメリカが104-96で勝って銅メダルを手にしている。
1次ラウンドと合わせて4勝同士の対戦となった3日の対戦は、立ち上がりから完全にリトアニアのペース。試合後にスティーブ・カーHC(ヘッドコーチ)が「彼らはすべてのシュートを決めた」と感嘆したように、打つシュート打つシュートがことごとくリングに吸い込まれ、3ポイントに至っては、最初に放った9本すべてをネットに収めてみせた。
アメリカはパオロ・バンケロを送り込んでフィジカルで圧をかけ、さらに得意の速攻から点を取り返しにかかったが、今大会トップクラスのリバウンド力を誇るリトアニアは、オフェンシブ・リバウンドも次々とむしり獲っては自陣の攻撃チャンスに転換した。総リバウンドはアメリカの27に対し42と、リトアニアが圧倒している。
後半に入ってからはアメリカが盛り返し、最終クォーターにタイリース・ハリバートン、ブランドン・イングラム、ジェイレン・ブランソンの連続得点で一時4点差まで詰め寄ったが、ミンダウカス・クズミンスカスの痛快な3ポイントが決まって85-94となった瞬間、再び流れはリトアニアに傾く。そしてその後も落ち着きを失わず、地に足のついた自分たちのプレーに徹した結果、リトアニアは6点リードを保ったまま、試合終了のブザーを聞いたのだった。
リトアニアのカジス・マクスビティスHCは「とにかく相手をフリーにしないこと。必ずダブルチームをつけて相手がパスを出さざるを得ない状況に追い込み、彼らにとっての第1オプションを潰す」というストラテジーを徹底したと試合後の会見で明かしたが、特に前半は、完璧とも言える試合運びだった。
司令塔役を担ったチーム最年少22歳のローカス・ヨクバイティスは「本当に信じられない気分だ。19年ぶりにアメリカを破ったなんて、クレイジーだよね。国中が大騒ぎしていると思うよ。NBA選手が勢揃いしたアメリカを、僕らみたいな小国が破ったんだからね。快挙だよ」と喜びを語った。
続けて、アメリカの印象について「とにかく手強いのはフィジカルの強さ」とコメント。「特に後半は、フィジカルを武器にゴリゴリ当たってきたから、あやうくリードを失うところだった。なんとか勝てたけれど、彼らのフィジカルの強さはあっぱれだったね。もちろんそれだけじゃなく、優秀な3ポインターもいるから、自分たちの望むように試合を進めるのは容易じゃなかった」と振り返っている。
ヨクバイティスは2021年のNBAドラフトでオクラホマシティ・サンダーから34位指名を受け、現在はニューヨーク・ニックスが権利を保有している。現在はスペインのバルセロナに所属しているが、この試合での手応えで、自身の将来のNBA像も見えたかもしれない。
前回大会では、準々決勝でアメリカを破ったフランスが続く準決勝、まるで燃え尽きたかのような戦いぶりでアルゼンチンに敗れている。よって、アメリカ撃破後の試合は鬼門とも言えるが、マクスビティスHCはこの勝利で得たポジティブな要素と、次の試合への集中度のバランスを取ることを、ジョーク交じりに明言した。
「我々は自分たちのキャリアで最も大きな勝利のひとつを手にしたが、それを祝っている暇はない。セルビアは我々を待ち構えている。彼らは花束を手に、レッドカーペットを敷いて待っているわけではないからね」
一方、アメリカにとっても、この敗戦は良いカンフル剤となったようだ。リトアニアに勝っていれば準々決勝の相手はイタリアでなくセルビアだったわけだが、彼らにとってこの違いはそれほど大きな影響はない。
むしろ選手たちは、異口同音に「次の試合に負けたら家に帰ることになる。もう1敗したから、これ以上負けるわけにはいかない」(ボビー・ポーティス)と語っており、改めて気を引き締めている。
前の試合のモンテネグロ戦でも前半はリードを奪われたように、今大会のアメリカはゲーム序盤の出足がやや鈍い。モンテネグロ戦では挽回できたものの、今回はそのまま敗れたことで「先手を取ることの大事さ」を痛感した様子だった。
「我々は目標を達成するために、どれだけハードにプレーしなければならないかを理解した」と語ったカーHCが示す「目標」とは、もちろん“金メダル獲得”にほかならない。
イタリアがアメリカに対して圧倒的に勝っている部分は、同じメンバーで数年間戦ってきたことで熟成されたチーム力の高さ。一方でヨクバイティスが指摘したように、アメリカのフィジカルの強さは、ヨーロッパ勢にとって脅威となる。
両国にそれぞれ分がありそうなこの対決、9月5日に笑うのは、はたしてどちらのチームか。
文●小川由紀子
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