トップリーグ開幕戦で際立った松島、リーチ、ケレヴィの存在。今度こそ「にわか」をつなぎ止められるか?

トップリーグ開幕戦で際立った松島、リーチ、ケレヴィの存在。今度こそ「にわか」をつなぎ止められるか?

健闘をたたえ合う東芝のリーチ・マイケル(左)とサントリーの松島幸太朗(右)。写真:金子拓弥(THE DIGEST写真部)

「にわかファン」とは、てっきり外野にいる人間が面白おかしく、ちょっとネガティブな意図を含んで使う言葉だと思っていた。

 だから、日本ラグビーの頂点に位置するトップリーグの指揮官が、さらりとその言葉を口にしたことに、正直驚いた。

「ワールドカップからトップリーグにバトンがつながれたと思っている。勝ち負けはもちろん大事だが、観客のハートに突き刺さるような試合をすることも我々の責任。“にわかファン”に、もっとラグビーが素晴らしいスポーツだということを見せていきたい」

 1月12日に開幕したジャパンラグビートップリーグ2020。秩父宮ラグビー場で行なわれたその開幕戦で、昨季5位の強豪NTTコミュニケーションズシャイニングアークス(NTTコム)を大いに苦しめた日野レッドドルフィンズ(日野)の細谷直GM兼監督は、試合後の記者会見でそう話した。

 伝わってきたのは、強い責任感、使命感だった。
  自国開催のW杯で史上初のベスト8入りを果たした直後のトップリーグである。もしかするとこれが、「にわかファン」を真のファンへと育て、ラグビーをひとつの文化として日本に根付かせるラストチャンスかもしれない──。そうした切実な想いを、日野の指揮官だけでなく、日本ラグビー界全体として共有しているように感じた。前回2015年のW杯イングランド大会で南アフリカから大金星を挙げながら、「にわか」を取り込めず、ラグビー人気を一過性のブームで終わらせてしまった苦い教訓が、そこに生きている。

 乱れていた規律面を修正し、後半だけで3つのトライを挙げて29−20と逆転勝利を飾ったNTTコム。終了間際の78分、「狙っていた」というインターセプトから約50メートルの独走トライで粘る日野を突き放したキャプテンのFL金正奎は、奇しくも日野の細谷GM兼監督と同じようなコメントを残している。

「こうして集まってくれたたくさんのお客さんに、何か刺激を与えるようなプレーを見せたかった。(日野に前半リードを許したが)日本代表と同じように、最後まであきらめずに戦い抜くことができた」
  観る者のハートに突き刺さるような刺激的なゲームは、もちろん選手個々の高いクオリティーがあってこそ実現できる。その意味で、日本代表のNO8アマナキ・レレィ・マフィに加え、新たに南アフリカ代表のHOマルコム・マークス、オーストラリア代表のSOクリスチャン・リアリーファノを獲得したNTTコムは、これから連携が深まれば、さらに魅力的なラグビーを見せてくれそうだ。

 もっとも、エンターテインメント性の高さで言えば、日野対NTTコム戦後、同じ秩父宮で行なわれた東芝ブレイブルーパス(東芝)対サントリーサンゴリアス(サントリー)の“府中ダービー”のほうが上だっただろう。

 観衆は、第1試合よりも4500人近くも多い2万1564人。「にわかファン」のお目当ては、東芝のNO8リーチ・マイケル、そしてサントリーのSH流大とFB松島幸太朗というW杯戦士だったはずだが、そのなかでも個として際立っていたのが松島だ。
  サントリーは29分にFLの西川征克が危険なチャージで退場となり、早々と不利な状況での戦いを強いられる。それでも7−12とリードを許して迎えた47分、松島がみずからの股下を通すおよそ20メートルのノールックパスで、一度は同点に追いつくWTBテビタ・リーのトライをお膳立て。「とっさの判断。練習していたわけではないけれど上手くいった」というスペクタクルなプレーでスタンドをどよめかすと、その10分後には、今度は左に余った東芝のWTB松岡久善に強烈なタックルを見舞い、相手の決定的なトライチャンスを潰すのだ。

 その松島をタックルで止めるシーンもあったリーチだが、この日の出来は自己採点で「10点満点の4点」。ただ、東芝のトッド・ブラックアダーHCが「リーチや(新加入のニュージーランド代表FL)マット・トッドのような経験豊富な選手はメンタルタフネスも持ち合わせている。だから疲れがあっても、80分間素晴らしいプレーができる」と称えたように、たとえトップコンディションでなくても平均点以上のパフォーマンスを披露してみせるあたりはさすがだった。実際、勝利を決定付ける70分のPR三上正貴のトライは、密集でのリーチの力強いボールキープから生まれたものだ。
  日本代表だけではない。この日、圧巻のプレーで大観客の度肝を抜いたのが、W杯での活躍も記憶に新しいサントリーの新戦力、サム・ケレヴィだった。まさしく鎧のような上半身で、遠目からでも明らかに異質に映るオーストラリア代表CTBは、33分に中央を抜けた東芝の中尾隼太をダンプカーのような当たりで吹き飛ばすと、終了間際の76分には鮮やかなステップワークから、貴重な勝点1につながるトライ(編集部・注/最終スコアは26−19で東芝の勝利だが、7点差以内で敗れたサントリーにも勝点1が与えられる)を奪ってみせるなど別格の存在感。ケレヴィを見るためだけにスタジアムへ足を運ぶ価値はある。

 一方、数的優位を生かして開幕戦に勝利した東芝では、トンガ出身で拓殖大卒の新人FL、シオネラ・ラベマイの縦への推進力が目を引いた。ときに大先輩のリーチをサポート役に従えて強引に突破を仕掛けるなど、ルーキーらしからぬ豪胆さ。彼のような未来の日本代表候補を探すのも、トップリーグの楽しみ方のひとつだろう。

 W杯を沸かせた優秀な外国人選手が数多く参戦し、今季のトップリーグのレベルは、とりわけフィジカルコンタクトやスピードといった部分で確実に上がっているはずだ。「にわかファン」の関心をつなぎ止め、今度こそラグビーブームを「文化」にまで育て上げられるかもしれない。そんな予感がある。
  サントリーの流は言う。
「秩父宮だけでなく、日本中のスタジアムで多くのお客さんを呼べるようなエキサイティングな試合を積み重ねて、日本ラグビーのレベルを上げていきたい」

 同じく松島もこう誓う。
「これからもクオリティーの高いプレーを続けて、自分が子どもたちの憧れの存在になっていきたい」

 そして、ウエイトコントロールのため、肉を断って魚だけで1年を過ごすという肉体改造に挑んでいるのがリーチだ。
「今季のテーマは『ゼロからのスタート』。プレースタイルもゼロから作り上げたい」

 日本のトッププレーヤーたちが、これだけ高い意識で臨んでいるのだから、きっと大丈夫だろう。

「リー――――――チ!」

 W杯でお馴染みとなったリーチ・コールを、この日、足もとから這い上がってくるような寒さをものともせずに叫んでいた子どもたちも、必ずまたトップリーグのスタンドに戻ってきてくれるはずだ。

文●吉田治良

【PHOTO】東芝26−19サントリー|2万人が熱狂!リーチ擁する東芝がサントリーに勝利!松島らも随所で持ち味を発揮

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