なぜコビーはヘリコプターに乗っていたのか…墜落事故の同乗者や、現地での様子は

なぜコビーはヘリコプターに乗っていたのか…墜落事故の同乗者や、現地での様子は

コビーが所有していたシコルスキーS-76B。(C)Getty Images

  2020年1月26日、41歳の若さで突如この世を去ったロサンゼルス・レイカーズのレジェンド、コビー・ブライアントのヘリコプター墜落事故について、現在原因の調査が進められている。 

 国家運輸安全委員会によると、調査はまだ初期段階であるそうだが、事故から3日半が経過した1月29日午後3時(日本時間)の時点で、アメリカのメディア各社が報じた最新の情報を元に、事故の詳細および事故当日の状況とその後の経過、そしてコビーとヘリコプターの関係性についてまとめた。

 1月26日午前、コビーのプライベート・ヘリコプター、シコルスキーS-76B(1991年製、登録番号N72EX)は、コビーの自宅のあるカリフォルニア州オレンジ郡ニューポートビーチ近くのジョン・ウェイン空港から、彼が共同でニューベリーパークに創設した“マンバ・スポーツアカデミー”に一番近いキャマリロ空港へ向かう予定になっていた。その日マンバ・スポーツアカデミーでは、子どものバスケットボール・トーナメント大会の開催が予定されており、コビーは娘のチームのコーチも務めていた。

 使用するヘリコプターは、コビーが長年チャーターし、ジョン・ウェイン空港に駐機している機体だった。シコルスキーS-76Bは、アメリカで1923年に設立されたヘリコプター製造会社、シコルスキー・エアクラフト・コーポレーションによって製造され、非常に高い安全性と信頼性を誇り、エリザベス女王をはじめとする世界中のVIPや企業幹部、医療現場でも多く使用されている。
  太平洋に面したニューポートビーチは、ロサンゼルスの南東約60q、アナハイムの南に位置し、セレブリティーや富裕層が多く住むことで知られる全米有数の高級住宅地。そこからロサンゼルスのダウンタウンまでは、道が空いていれば車で1時間かからないが、悪名高い渋滞に巻き込まれると2時間を要する。

 それを回避するため、コビーはプライベート・ヘリコプターを頻繁に利用していた。また2012年には、ケガをしたチームメイトのスティーブ・ブレイクを、車では医者との面会時間に間に合いそうになかったため、ヘリコプターに乗せて連れて行ったこともあった。

 2010年に『GQ』誌のストーリーでコビーが語ったところによると、そのシーズンはすべてのホームゲームをヘリコプターで通勤していたという。コビーのヘリコプター利用について、そのストーリーは次のように描写している。

「Hollywoodの看板を遠くにぼんやりと眺めながらの素晴らしい疾走は、ショービジネス界の人たちにとって成功者の証でもある。『見た目はセクシーだが、ヘリコプターは単に身体を維持管理するための道具のひとつに過ぎない』、そうコビーは語る。彼にとって、ヘリコプターはトレーニング用のウェイトやウィールプールバス(ジェットバス)、オーダーメイドのナイキのシューズと何ら違いはない。
  骨折している指や限界に達しているヒザ、痛みを抱えている腰や足、そして慢性の胸焼け。コビーは車に2時間座っていることができないのだ。それゆえ、ヘリコプターを利用することにより、新鮮な気分でステイプルズ・センターに乗り込み、暖かく水銀のようにゆったりとした身体のまま、コートに足を踏み入れることができる。

 もしあなたが、自分の身体を使って年収2300万ドルを稼ぐのだったら、通勤へのヘリコプター利用は、実際には比較的現実的なことである」

 事故当時の乗客数は、当初5人と発表されていたが、後にパイロット1人を含めた9人へと修正されている。9人の詳細は以下の通り。

 コビーの次女ジアナ(13)は、ハーバーデイスクールというプライベートスクールに通い、バスケットボールの特別な才能を父から授かっていた。チームのスター選手である彼女は、将来WNBAでプレーする日を夢見ており、それはきっと実現するだろうと多くの人が考えていた。コビーの親友であるトレイシー・マッグレディが、『ESPN』のインタビューでコビーの思い出を回想した際、ジアナについても咽び泣きながら語っている。

「お互いの子どものプレーを観たのが、(人生で)最も素晴らしい出来事だった。ジジ(ジアナの愛称)はスペシャルだったよ。彼女のプレーは、まさしくコビーのようだった。彼女のプレーを観るのは、コビーの若い頃を観ているようなもの。13歳でフェイダウェイを放つんだぜ?ジジは本当にスペシャルだった。そんな彼女が、(来たるべき将来の)チャンスを手にできないなんて…」
  そして、ジアナのチームメイト、アリサ・アルトベリ(13)と、彼女の父ジョン(56)、母のケリ(46)。オレンジコーストカレッジで野球のコーチを務めるジョン・アルトベリは、27シーズンで700勝を記録している全米で名の知れた人物。かつてヤンキースのアーロン・ジャッジや、メッツのジェフ・マクニールをコーチした経験も持つ。娘を通してコビーと知り合い、その後親交を深めた。コビーは2年前、アルトベリのチームが州大会のファイナル4に進んだ際、激励のメッセージを届けにわざわざ足を運んでいる。

 同じくジアナのチームメイト、ペイトン・チェスター(13)と、母のサラ(45)。それにマンバ・ガールズ・バスケットボールチームのアシスタントコーチ、クリティーナ・マウサー(38)。コビーと知り合う前は、ジアナが通うハーバーデイスクールでコーチを務めていた。

 最後に免許歴19年のベテランパイロット、アラ・ゾバヤン(50)。同僚のジャレッド・ヨチムは、ゾバヤンについて自身のFacebookに、「彼はヘリコプターのパイロットにありがちな、尊大な人物ではなかった。彼は驚くべきパイロットで、素晴らしい教官でもあり、チャーター便もこなし、本当に偉大な人物だった」と記している。
  また、『ニューヨーク・ポスト』の取材によると、「常にクールな男」であり、確かな腕前を持っていたという。他にも、『ウォールストリート・ジャーナル』の記事には、ゾバヤンとともにコビーのパイロットを頻繁に務めていたカート・ディーツが、「ゾバヤンはロサンゼルスエリアに深く精通した優秀なパイロット」だったと証言している。2019年7月の時点で、ゾバヤンの飛行時間は8200時間。2016年、コビーの現役ラストゲームの日も、同機のパイロットを務めたそうだ。

 マンバ・スポーツアカデミーのあるニューベリーパークは、ロサンゼルスのダウンタウンから西に直線距離で約60km、コビーの自宅のあるニューポートビーチからは北西に約110q離れた場所にある。ニューポートビーチからマンバ・スポーツアカデミーまでのルートをGoogle Mapで検索すると、車での所要時間は平日の午前中で1時間半から2時間半ほど。ヘリコプターだと30分程度の飛行時間で着く。

 コビーを含む8人の乗客を乗せたシコルスキーS-76Bが、ジョン・ウェイン空港を出発したのは2020年1月26日(日)現地時間午前9:06(日本時間午前2:06)。目的地はキャマリロ市の西3qに位置するキャマリロ空港。マンバ・スポーツアカデミーは、その空港から車で20分の距離にある。コビーが日常的に飛んでいるルートであり、同機は前日もほぼ同じルートを飛行していた。
  出発の1時間前、ニューポートビーチ近辺の天候は穏やかで、視界は4マイル(約6.5q)と良好。だが、ロサンゼルスの北部近郊は霧が立ち込めており、フリーウェイを車が満足に走行できず、ロサンゼルス市警察は保有する全ヘリコプターを地上待機させるほどひどい状況だった。

 事故が起きる少し前、偶然SNSに投稿された現場近くの写真を見ると、数十メートル先が見えないほどの濃霧である。『ニューヨーク・タイムズ』のインタビューに答えた地元民の証言では、「牛乳のプールを泳いでいるよう」だったという。

 飛行開始から約10分後、ロサンゼルス市北部を飛行中に航空交通管制から連絡が入り、近くで他のヘリコプターが着陸を試みているため待機せよとの指示が入る。ゾバヤンは空中でサークル飛行を開始し、指示に従った。『ウォールストリート・ジャーナル』によると、機体の飛行距離を考えると異例の出来事だという。

 約12分のサークル飛行後、SVFR(Special Visual Flight Rule、特別有視界飛行方式)の指示に基づき、濃霧中の飛行を続行。SVFRが出された場合は、航空交通管制に権限が移行し、基本となる有視界飛行方式から航空領域を制限され、密な連絡が必須となる。その際、高度1000フィート(305m)以下の飛行が特別に許可される。
  その後、ヘリコプターは南西に進路を取り、高度1400フィート(427m)を飛行。ゾバヤンが、航空交通管制と直接音声で誘導を手助けするための、細かい情報のやりとりをする “フライト・フォローイング”を要請するが、そうするにはあまりにも低空を飛行していると告げられる。

 その4分後、ゾバヤンは雲の層を避けるため上昇していると連絡。航空交通管制が具体的なプランを尋ねたところ、応答はなかった。その時ヘリコプターの高度は2300フィート(700m)。

 レーダーによると、ヘリコプターは2300フィート(700m)まで高度を上げた後、午前9:40、今度は左に進路を取りながら急降下を始める。
 
 最後にレーダーが捉えたのは午前9:45(日本時間午前2:45)。カラバサスの標高1085フィート(331m)の斜面に、9人を乗せたヘリコプターは突っ込んだ。飛行中の民間航空機の現在位置をリアルタイム表示するウェブサイト『FlightRadar24』のデータでは、衝突時のスピードは時速283kmに達していた。 

 コックピットの音声やデータを記録するブラックボックスの設置は義務化されておらず、同機は設置していなかった。ゾバヤンはフライトプランや天気情報の管理にiPadを使用していた。

 午前9:47、消防に911(緊急通報用電話番号)の第一報が現地より入る。『ロサンゼルス・タイムズ』にディーツが与えた情報では、ヘリコプターは約800パウンド(363kg=約300リッター)の燃料を積んでおり、約1000平方メートル(テニスコート4面分)の範囲にわたり低木が焼けていた。
  国家運輸安全委員会のジェニファー・ホームンディーの説明によると、衝突の際のインパクトは2000FPM(フィート・パー・ミニッツ、毎分610m)以上あり、「高いエネルギーの衝撃を伴った墜落であり、ヘリコプターは左に傾きながら降下していった」としている。

 事故現場は“非常に悲惨な光景”であり、機体の破片は約500〜600フィート(152〜183m)に渡って飛び散っていた。衝突部からだいぶ離れた斜面の左下部に尾翼があり、胴体は反対側の中腹に、メインローターはそこから数百ヤード(数百メーター)離れた場所にあったという。

 国家運輸安全委員会が1月28日午後(日本時間29日午前)に発表した最新の調査報告で、新たな事実が発表された。ホームンディーの説明によると、16年前に彼女の部署が連邦航空局に対し、乗員6人以上の全ヘリコプターへの“地形認識および警告システム”設置義務化を提言したが、その後連邦航空局は作業を進めていなかったという。現在、法的に義務化はされておらず、今回の事故機もそのシステムを搭載していなかった。

 また、『ロサンゼルス・タイムズ』が掲載した飛行ルート図を見ると、今回事故機が取ったルートは、それまで同機がコビーを乗せて何度も飛んでいた最短ルートから大きくずれていることがわかる。

 事故当日中に3人の遺体が収容され、その中にコビーの遺体も含まれていた、そう『CNN』は報道している。そして『ロサンゼルス・タイムズ』が報じた最新の情報によると、ジアナを含む全搭乗者の遺体が収容されたという。

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文●大井成義
 

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