元スーパースターが激務のアシスタントコーチに就任。ティム・ダンカンはポポビッチHCの後継者となるのか?

元スーパースターが激務のアシスタントコーチに就任。ティム・ダンカンはポポビッチHCの後継者となるのか?

現役時代はリーグ最高のPFとして5度の優勝に導いたダンカン。引退から3年を経て、今季からコーチに就任した。(C)Getty Images

大物の相次ぐ引退でサンアントニオ・スパーズのロースターはやや小粒になったが、一方でその豪華コーチ陣はチームの呼び物のひとつとなった感がある。グレッグ・ポポビッチ・ヘッドコーチ(HC)を先頭に、ベンチにはベッキー・ハモン、ティム・ダンカンというビッグネームがずらり。アウェーのゲーム時にも、コーチたちが誰よりも大きな歓声を浴びている姿がよく見受けられる。

 なかでも2015−16シーズンを最後に引退したばかりのダンカンが、昨夏、古巣にアシスタントコーチ(AC)として加わったことに驚かされたファンは多かったはずだ。43歳のダンカンは引退後も練習施設に現われ、若手にアドバイスを送る姿が目撃されていた。それでもACは満足な睡眠時間を得ることもままならないほどの激務だけに、元スーパースターがその座を望むとは思えなかったのだ。
 「私が19年にわたってティム・ダンカンのアシスタントを務めてきた後で、彼がお返ししてくれるのは当然のことだ」

 昨年の7月22日に就任が正式発表された際、その輝かしいキャリアの詳述などまったくない短いプレスリリースには、ポポビッチの面白がったようなコメントが記されていた。これもまた個人が特筆されることを嫌うスパーズらしさと言えるのだろうか。

 ダンカンの現役時代の輝かしい実績に関しては、ここで改めて説明するまでもないだろう。1997年にドラフト1位で入団以来、スパーズ一筋19年。2度のシーズンMVPに選ばれるなど、全盛期にはリーグ最高のビッグマンとして君臨した。トニー・パーカー、マヌ・ジノビリと“ビッグ3”を形成し、5度のファイナル制覇の原動力となった功績は特筆に値する。

 それほどの名選手が、引退後すぐに現場復帰を果たした理由は何だったのか。コーチ就任以降のダンカンはメディア対応していないだけに、真意は分からない。ともあれ、新たなキャリアを正式にスタートさせた通称“ビッグファンダメンタル”は、コーチとしても好評だ。
 「ティムはコーチングについて何ひとつ分かっていない。なぜ彼をACに任命したのか自分でも分からないよ。彼は私に19年間給料を払い続けてくれたから、義理を感じたのかもね」

 アメリカ代表を率いたW杯前の強化合宿中、ポポビッチはそんな人を食ったコメントを残していたが、この言葉も愛情と信頼の裏返しに過ぎない。ダンカンはウィル・ハーディ、ハモンとともにアシスタントを務め、恩師を支えている。ゲーム前には選手たちの練習に熱心に付き合い、試合中にも的確にアドバイスを送っているという。

「言葉を発しなくとも、彼の存在感には価値がある。側にいると、適切なことをやらなければいけないという気持ちにさせられるんだ。(それに)彼はジョークを飛ばし、雰囲気をより良いものにしてくれる」

 ESPNのポッドキャストに出演した際、パティ・ミルズはそう語っていた。こうしてチーム内で信頼度を高めていることは、昨年11月16日のポートランド・トレイルブレイザーズ戦でポポビッチが退場になった後、HC代行を任されたことからも窺い知れる。現役時代もエゴのないスーパースターとして定評があっただけに、コーチとしての適性も備えているのだろう。
  もともとポポビッチ門下生はNBAでは評価が高い。現在もマイク・ブーデンホルザー(ミルウォーキー・バックス)、ブレット・ブラウン(フィラデルフィア・76ers)、モンティ・ウィリアムズ(フェニックス・サンズ)、ジム・ボイレン(シカゴ・ブルズ)、ジェームズ・ボーレゴ(シャーロット・ホーネッツ)の5人がHCとして活躍中。ハモンも遠からぬうちに史上初の女性HCとなることが有力視されている。ダンカンもいずれはポポビッチの後任HC候補として浮上するのだろうか。

 そのような推測はまだ気が早すぎるのかもしれないが、まずはこのスタービッグマンがNBAに戻ってきたことを喜びたい。ダンカンがポポビッチの隣にいる姿は、ファンを安心させ、喜ばせる。今季終了後にでも久々にメディア対応する時、無口なダンカンがコーチとしてのルーキーイヤーをどんな言葉で振り返るのかが楽しみである。

文●杉浦大輔

※『ダンクシュート』2020年3月号掲載原稿に加筆・修正。

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