東京五輪女子バスケのダークホース。上昇気流に乗るナイジェリア代表の底知れぬポテンシャルとは?

東京五輪女子バスケのダークホース。上昇気流に乗るナイジェリア代表の底知れぬポテンシャルとは?

2月の最終予選では強豪のセルビア、アメリカに善戦。4大会ぶり2度目の五輪出場を決めた。(C)Mansoor Ahmed/Ahmedphotos

2月6〜9日にかけて東京オリンピックの女子バスケットボール最終予選が行なわれ、出場全12チームが決定した。その中で唯一、アフリカ大陸から乗り込んでくるのが、ナイジェリア代表だ。セルビアのベオグラードで行なわれた最終予選では、セルビア、アメリカという世界の強豪相手に好戦し、「東京で見るのが待ちきれない!」と会場の人々に言わしめるインパクトを与えた。

 2018年のW杯で優勝し、すでに五輪出場を決めていたアメリカ、開催地のセルビア、同じアフリカのモザンビークと同組で戦った最終予選。ナイジェリアは初戦のモザンビーク戦で85−51の圧勝。昨年のユーロバスケット(欧州選手権)銅メダルのセルビアと対峙した2戦目は、後半に一時16点差をつけられるも、最終クォーターで4点差まで追い上げ、最終的に64−70で惜敗した。
  他国の結果により東京行きが決定した末に臨んだラストのアメリカ戦では、ハーフタイムの時点で現世界王者に14点リードの大奮闘。後半に逆転されて71−76で敗れたものの、常勝軍団を最後まで苦しめた彼女たちの戦いぶりには、勝者にも等しい称賛が贈られた。

 ナイジェリアの特徴は、運動能力を最大限に生かしたプレーと、最後まで運動量の落ちないタイトなディフェンスにある。とりわけ、ザ・ヨーロッパ的な戦術がベースのセルビアは、ナイジェリアの超ハイペースなゲーム運びにリズムを狂わされて苦戦。後半になってようやく、持ち前の巧みなパスワークで挽回したが、相手のペースでプレーした第1クォーターは17本打ったシュートのうち成功は6本とミスを連発した。

 オフェンスでは超高速のファーストブレイクを武器とする。抜群の反射神経を生かしたスティールからボールを奪うと一気に駆け上がり、高い決定率でレイアップを決める。アメリカ戦でも、スティールの数はアメリカの5本に対し13本、速攻からの得点数、相手のターンオーバーからの得点ともにナイジェリアが上回った。さらにセルビア戦、アメリカ戦ともに3ポイントシュートの決定率でも相手を上回っている。
  ナイジェリアの女子チームは現在、上昇気流に乗っている。2017年のアフロバスケット(アフリカ選手権)で優勝を果たし、翌年のW杯に出場。そこで同国初のベスト8入りを果たす。19年には再びアフロバスケットで頂点に立つと、その大会の上位4か国によるプレ五輪予選を勝ち抜いて、2月の最終予選に挑んだ。そして04年のアテネ五輪以来4大会ぶり、2回目のオリンピック出場権を手に入れたのだ。

 その原動力となっているのは、18年のW杯直前に着任したアメリカ人のオーティス・ヒューリーJr. HCだ。NBAのサクラメント・キングスでアシスタントコーチを務めた経歴を持ち、15年のアジアカップでは台湾代表を準決勝に導いている。
  彼のキャラクターがまた強烈で、試合中にはコートサイドで、両手を広げたり、頭を抱えたり、オーバーリアクションで一喜一憂する。試合後には精魂使い果たしてぐったりしているほどなのだが、その分、彼の全エネルギーを選手たちに注入している感じだ。選手の1人は「ヒューリーHCには、トレーニング中は厳しく喝も入れられるけれど、彼ほどの人はいないのではないかというほど、大きなハートを持っている。私たちを全力で引っ張ってくれる」と尊敬をこめて語る。

 ナイジェリアは、今予選での12人の登録メンバー全員が国外リーグでプレーしている。この最終予選に向けては事前合宿もかなわず、開催地のベオグラードには大会4日前に集合したが、初日の練習に参加できたのはたったの4人。12人全員が揃ったのは、なんと初戦の前日だった。そんな厳しい状況で、ヒューリーHCは最大級のパフォーマンスを選手たちから引き出したのだ。

 もちろん、そこにはナイジェリア人の本来のポテンシャルの高さもある。NBAで昨季MVPに輝いたヤニス・アテトクンボはギリシャ国籍ながら、両親はナイジェリア人。女子選手でも、チームUSAの現エースで、最終予選ではMVPにも選ばれたネカ・オグウミケや、イギリス代表で17年WNBAチャンピオンのミネソタ・リンクスに所属するテミ・ファグベンルもナイジェリア出身だ。
  ヒューリーHCが、「招集することさえ叶えば、ナイジェリアはとんでもないタレント揃いのチームになる。それに、十分な準備期間があれば、さらにチームのポテンシャルを高めることができる」ともらすのにも一理ある。

 セルビア戦でもアメリカ戦でも、ヒューリーHCは全選手を試合で起用した。スペインリーグでプレーするキャプテンのアダオラ・エロヌ、フランスリーグ所属のスピードスター、司令塔のエジン・カルーなど、コアメンバーはいるが、指揮官は若手を含め多彩なローテーションを繰り出した。いつ誰が出ても狙い通りのプレーができること、そして決定機のシュートは絶対に外さないことを、五輪本番へ向けてのチーム作りの目標に掲げている。
  アメリカ戦後、ヒューリーHCは「この試合での戦いぶりをみて、彼女たちの底力は計り知れないと改めて思った。まだまだこれがベストじゃない、彼女たちのベストが見られるのはこれからだぞ、と。人々が持っているアフリカの印象を根底から覆すチャンス。東京で我々は、それに挑む」と興奮気味に話した。

 ドレッドのロングヘアをなびかせるガードのカルーは、「これまで、東京に行けると現実的に考えたことはなかった。けれど、W杯でドアの前に立てた。アフロバスケットで、そのドアをノックすることができた。そして今回、そのドアを思いっきり蹴り開けて、私たちは東京に挑む。この夏、世界にアフリカのパワーを見せつけたい」と満開の笑顔を見せた。

 彼女たちはこの夏、東京の観衆をはじめ、世界のバスケットボールファンに強烈なインパクトを与えることになるかもしれない。

文●小川由紀子
 

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