ヘッドコーチの最も重要な仕事とは?名将・名手たちが語った“勝てる指揮官“の条件

ヘッドコーチの最も重要な仕事とは?名将・名手たちが語った“勝てる指揮官“の条件

ヘッドコーチという仕事について、選手や指揮官自身はどのように考えているのか。(C)Getty Images

“NBAのヘッドコーチ(HC)にとって一番重要な仕事は何か”という質問を、これまで何人ものコーチ、そして選手に聞いてきた。そのなかから、印象的だったいくつかの意見を抜粋しよう。

 1986〜89年までシカゴ・ブルズでマイケル・ジョーダンを指導し、彼と相性が良かったとされるダグ・コリンズは、「HCの最も重要な仕事は、チームの一番手の選手、スタープレーヤーの話をよく聞くこと。選手とコーチの会話は8:2で、選手に8割話をさせないと、そもそも始まらないんだ」と話す。

「指揮官は、ゲームの勝敗を左右するスーパースターと一心同体にならなくてはならない。そのためには、その選手が何を考えていて、どのようにプレーすれば最高のパフォーマンスができるのかを常に模索し、それを実行する必要があるんだ」
  リーグのトップに君臨する選手たちは、自身にどれくらいのレベルのプレーができて、どれほどチームに勝利をもたらすことができるのかをわかっているものだ。若く野心の大きい選手ほど「俺はこれぐらいの器には収まらない、もっとハイレベルなプレーができるんだ」と前のめりになるし、ベテランになれば自分の長所を熟知しているため、相手を得意なフィールドに誘い込み、有利に展開に持ち込もうとしたたかにプレーする。そして、コートに立つ選手同士も互いにそれを理解し合っているのだ。

 また、2016〜18年にクリーブランド・キャバリアーズのHCを務め、2016年にはレブロン・ジェームズ(現ロサンゼルス・レイカーズ)とともにリーグ制覇を成し遂げたティロン・ルーはこう話している。

「試合中のベンチワークこそがHCの一番の仕事。誰をどの場面で起用するのか、相手チームは今どういう状態で、もし自分が相手チームの指揮官なら、何を仕掛けてくるだろうかと予測する。有能なアシスタントコーチを採用し、彼らにオフェンス、ディフェンスの両面から試合を冷静かつ専門的に分析させ、選手たちに戦略を浸透させてもらう。コーチとプレーヤーが腹を割ってコミュニケーションできる場を作れなければ、勝率6割以上、いわゆるプレーオフ進出ラインに成績を乗せることはできないんだ」
  昨季、トロント・ラフターズを初優勝に導いたニック・ナースは、その時の選手構成、チームの長所と短所、そしてチームへのコミュニケーションで何をすれば士気が最高に高まるのかを常に頭においているのだという。

「カワイ(レナード/現ロサンゼルス・クリッパーズ)が1年でチームを去るかもしれないことを、ほかの選手たちはなんとなく感じてはいたと思う。そのなかで、“この1年にすべてを集中させる、次のシーズンのことは考える必要がない”というように、とにかく選手たちには集中力を維持させることに全力を尽くしたよ。レギュラーシーズン後半になって、ようやくチームがプレーオフで勝ち上がれるのではないかという実感が湧いてきた。カワイは“最後に勝てばいい”と、若いチームメイトが毎日の結果に一喜一憂するのを上手くまとめてくれていたね」と、最高の結果で締めくくった昨季を振り返った。

 マイアミ・ヒートを率いて12シーズン目を迎えるエリック・スポールストラの考えはこうだ。

「選手は1日で上手くなったり、下手になったりはしない。毎日の努力を人の何倍も続ければ、少しずつだがプレーの質は向上していく。しかし、試合の勝敗とそれは必ずしも一致しない。歴史を見ても、上手い選手が集まっているチームが必ず優勝していたわけではない。それこそがコーチの仕事の醍醐味であって、やりがいになる」
  選手側の意見はどうだろうか。レブロンはかつて「バスケットボールはこれだけ速い展開で試合が進むのだから、コート上でプレーする選手には見えづらい部分も多い。それを鷹の目で観ていて、的確な指示を出すのがHCの役目ではないか」とコーチ職について言及したことがある。

 ジョーダンは「自分が命をかけて“誰にも負けない”という熱量で望んでいる試合に、同じ熱量で一緒にプレーしてくれる選手なんてそう簡単には見つからない。まして、私が欲していたのは、自分をサポートしてくれる“最高の”相棒だった。そんな相棒たちが、脱落せずについてくるように働きかけてくれるのが、HCの役割だと思っている」と語っていた。
  また、デトロイト・ピストンズ時代の1995〜98年にコリンズの下でプレーしたグラント・ヒルは「“チームプレーでしか結果は出ない”という信念があるから、HCにはチームプレーで勝つための仕組みを作ってもらいたい。デューク大時代にコーチK(マイク・シャシェフスキー)からそう指導を受けたことが、プロになっても自分の基礎にはある」と話す。

 そのため、ヒルとコリンズの考えはすべてが合致しなかった。コリンズはヒルに「ジョーダンのようにもっと1人で試合を支配する選手であってほしい」と思っていたが、ヒルはどうやってチームメイトを生かし、そのなかで自分は試合をコントロールする役目を担うことを考えていたという。
  元ロサンゼルス・レイカーズのコビー・ブライアントは「俺がこういう性格だから、フィル(ジャクソン/元ブルズ、レイカーズHC)がいないと収拾がつかなかった。まして、あの頃のシャック(シャキール・オニール/元レイカーズほか)と俺は、フィルがいたから3度の優勝ができたようなものだ」と話していた。

「フィルからバスケットボールの技術を教わった記憶はないね。彼から教わったのは、バスケットボールで勝利するための術だった。こうすれば勝てるし、こうすれば負ける。いつも試合ではその積み重ねをしていて、それが身についてくると負けないチームになってくる。面白い実験のようなものだったよ」

 2009年のNBA入りからゴールデンステイト・ウォリアーズ一筋で過ごすステフィン・カリーは、マーク・ジャクソンとスティーブ・カーがHCだった時代をこう話す。

「マークはあまり論理的ではなかったかもしれないが、選手に想いを託していた。下位チームから強豪球団へと駆け上がらなければならない時期だったから、オフェンスにチームのすべてが偏っていたのは事実だ。僕もクレイ(トンプソン)も、マークに信頼されて、あれだけのシュート機会を作ってもらったことで今がある。スティーブは優勝請負人として指揮官に就任したから、プレーの話よりも、勝つためのメンタルやどうやってチームディフェンスを完成させていくか、ということによりフォーカスした話をしたよ」
  ここ数年のトレンドとして、多くのチームが中長期的な展望の下に、コーチ陣や中核となる選手を採用する流れがある。その理由は、優秀なビジネスマンとして成功を収めた各球団の人事権を握るオーナーたちが、口を揃えて「チームにはカルチャーが必要で、そのブランディングをするには8年から10年はかかる」と話すからだ。

 実際に、ダラス・マーベリックスのオーナー、マーク・キューバン氏も「組織の核となるHCや主力選手にはできれば長く在籍してもらい、チームの歴史に名を刻む存在になってほしい」と語っている。
  一方で、大半の球団はすでに独自の色を強く持っており、コーチや主力選手を変えて元々のチームカラーを変えるのは至難の業だ、という見方もある。コーチや選手を短期間に何度も入れ替えるも、成功の兆しすら見えないニューヨーク・ニックスがその代表例だろう。

 チームの指針を決定づけるHCとスター選手。その彼らが時を重ね、球団の色をより濃いものにしていけるかどうかが、成功へと至る大きなカギなのだ。

文●北舘洋一郎

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