「ルールは自分が決める」強烈な個性でNBAを生き抜いたアイバーソンが貫き通した“信念と掟”

「ルールは自分が決める」強烈な個性でNBAを生き抜いたアイバーソンが貫き通した“信念と掟”

厳しい環境で育ったことで染みついた「ルールは自分が決める」という生き方を、アイバーソンはNBAに入ってからも貫き通した。(C)Getty Images

「ルールは自分が決める」

 これが、アレン・アイバーソンの生き方だった。

 ゲットーで生まれ育ったアイバーソンは、ストリートから人生を学んでいった。ルールは自分が決める、そうしないとほかの誰かが勝手にルールを決めてしまう。支配するか、支配されるか、選択肢はふたつにひとつ。そんな環境が彼の生きていた世界であり、感受性豊かな少年期に体に染み込んだそれらの習慣を、NBA入りしたからといって簡単に拭い去ることは難しかった。

 人生でも、ストリートでも、そしてコート上でも他人に挑戦し、ルールに挑戦する。それがアイバーソンの掟のようなものになっていた。

「バスケットボールはバスケットボールでしかない」

 アイバーソンは口癖のようにこの言葉を繰り返していた。それはいかにもアイバーソンらしく、シンプルで尖った言葉だった。
  その出で立ちや「(マイケル)ジョーダン(元シカゴ・ブルズほか)をリスペクトしない」といった発言から、「ギャングスタがNBAにやってきた」などとメディアに書き立てられ、ヒールのイメージを植えつけられたのは事実だ。しかし、アイバーソンの行動や発言は、次のような信念に基づいてのことだった。

「自分は他人とは違う。他人の言いなりにはならない。それを示しているだけだ」

 彼にとって“ルールを破る”ということは、自分自身がルールを作り、自らの居場所や縄張りを守るためのことだったと本人は言う。そして、こうも話していた。「もしジョージタウン大に入学できていなければ、今頃もうこの世にはいなかったかもしれないし、牢屋にぶち込まれていたかもしれない。自分はたまたま運が良かった」と。

 また、引退後になってようやく、アイバーソンがフィラデルフィア・セブンティシクサーズでプレーしていた頃のヘッドコーチ(HC)であり、最大の師であるラリー・ブラウンが言っていたことがわかったのだという。アイバーソンはブラウンから「バスケットボールは野球やフットボールとはまったく別のスポーツだということを理解しろ」と言われていたそうだ。

「チームプレーが最も重要とされるのはバスケットボールだ。スコアをあげるのがチームのトップ選手とは限らない。高額年俸のプレーヤーがリームリーダーとも限らない。チームメイトに活躍の場を作ってあげる選手こそが、真に優れた存在なんだ。バスケットボールは、能力に恵まれたプレーヤーがエゴを抑え、チームのために自己規律を課す時、その選手本来の能力が発揮できる唯一の競技だ」と、ブラウンはアイバーソンに何度も諭したという。
  外からどう見えていたかは別として、シクサーズがファイナルに出場するなど隆盛を誇っていた2000年代前半を、アイバーソンはこう振り返る。

「半分のルールは俺が握っていた。残りはコーチ・ブラウン。そのルールの詳細は棺桶まで持っていくつもりだが、俺たちの選手とコーチとしての信頼関係は、当時のリーグでもトップレベルにあったよ」

 一方でブラウンは、自分の長いコーチキャリアのなかで、アイバーソンを特別扱いしていたことについてこう語る。

「私のように古い時代のコーチは、指揮官が頂点に君臨し、選手全員がそれに従った。それは1970年代ぐらいまでの風潮だろう。プロの世界では、いつのまにか若く有能な選手はHCの5、6倍の年俸をもらうようになった。それが色々なことに変化をもたらしたのは事実だ。チームが勝てないのは、選手ではなくコーチのやり方が悪いからだと首を切られるようになったのがいい例だね。しかしこのことが、私がチームバスケットボールを重要視するきっかけとなったのもまた事実。私のコーチキャリアのなかで、アイバーソンの時もチームバスケットボールに徹したからこそファイナルまで辿り着けた。アイバーソンに得点が集中しすぎていたからそうは見えなかったのだろうが、彼の弱点をチームメイトはカバーしたし、彼は自分の長所で仲間をフォローしていた。そういうチームバスケットボールもあるんだ」
  パット・ライリー(元ロサンゼルス・レイカーズHCほか)、フィル・ジャクソン(元ブルズHCほか)、グレッグ・ポポビッチ(サンアントニオ・スパーズHC)といったレジェンドコーチと同じように、ブラウンももうひとつ、バスケットボールで重要なことについて言及している。

「選手とコーチ、そして選手同士、これらの相性は重要だ。仲良しであれ、ということではなく、空気感のようなものだね。残念ながらアイバーソンは、シクサーズ以外のチームではいい相性を見つけられなかったようだ。これは意図して生み出せるものではないからね」

 現在のリーグには、アイバーソンのように自分の居場所や縄張りを守ろうとする選手はいない。アメリカの実社会と同じように、時代は大きく変わったのだ。しかし、NBAをスポーツ以上に、アメリカンカルチャーの象徴として観ているファンは、“アイバーソンのように強烈なキャラクターを持つ選手にまた現われてほしい”と強く思っていることだろう。

文●北舘洋一郎

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