テロ事件、戦争、パンデミック…大規模イベント中止に対する欧米と日本の保険事情

テロ事件、戦争、パンデミック…大規模イベント中止に対する欧米と日本の保険事情

オリンピックが中止になった場合は、開催都市と大会組織委員会はIOCへの損害賠償などの権利をすべて放棄するという条項がある。(C)Getty Images

新型コロナウイルスの世界的流行は、まだまだ収束の気配を見せない。そんな中、4月頭にスポーツ関係者を少し驚かせるニュースがあった。テニスのウインブルドンの中止が発表され、その主催者が大会中止で多額の保険金を受け取れることになったというのだ。

 主催者は、ウイルス感染症の世界的大流行による大会の中止の可能性をあらかじめ予測して、英国の保険会社と、感染症の流行にも対応できるように契約をかわし、かなり以前から高額な保険料を支払っていたという。

 その先見性には驚くばかりだが、スポーツビジネスを良く知る関係者によると、欧米のプロスポーツ界では、イベント中止、イベント損失発生に関する保険加入は普通に行なわれているという。
  しかし、そういう場合でも一般的に保険で想定しているのは事件、事故によるスポーツイベント中止だ。また近年、日本と異なり、イスラム過激派などの大規模テロ事件が何度も発生している欧米では、テロによる大会やイベントの中止を保証する契約や、戦争での大会中止保険まであるという。高額であっても、最悪の事態を想定した保険契約の需要は尽きないようだ。

 今、世界的に、大規模スポーツイベントや大会が中止・延期になっている。2020東京オリンピックが来夏に延期され、世界的に人気の欧州のサッカーリーグ、米国のプロスポーツリーグも軒並み中断や開幕延期に追い込まれた。

 保険ビジネスが進化している欧米では、ビッグイベントを行なう場合、万が一に備えた保険契約をしていることは珍しくない。

 関係者によると、サッカーでは英国のプレミアリーグ、米国の4大プロスポーツMLB、NBA、NHL、NFLなど、特にビジネスに特化したリーグは、間違いなく何かしらの保険契約をしているという。人気球団でも、ニューヨーク・ヤンキースなどはチーム単独で保険加入をしているそうだ。それでも、「今回のような感染症のパンデミック(世界的大流行)による大会やイベントの中止というところまで具体的にカバーして契約しているところは、さすがに少ないでしょう」とスポーツビジネス関係者は語る。

 世界最大のスポーツイベントの1つであるリンピックも、保険の適用を受ける大会だ。IOC(国際オリンピック委員会)も保険には加入している。しかし、それらは、選手が大会中に事故死した場合に保険金が支払われるような、事件、事故に対する保険だろう。その分、大会が中止になった場合は、開催都市と大会組織委員会はIOCへの損害賠償などの権利をすべて放棄するという条項があり、これが大会中止保険の代わりになっている。
  オリンピック中止に備えて、損失が補填できる高額な保険料を支払っているところもある。テロでも、感染症でも、戦争でも、理由は問わないため、保険料は相当な高額になるのだが、オリンピックの米国での放送権を持つNBCはそうした保険に入っているようで、「保険に入っているのでオリンピックが中止になっても問題ない」と強気のコメントを出しているほどだ。

 日本でも、オリンピック放送権を獲得するジャパン・コンソーシアム(NHKと民放各社が共同で放送権の交渉や中継を行なう組織)の民放各局は、保険会社と独自の契約を研究・検討していると言われている。それは、モスクワ・オリンピックボイコット問題の経験があるからだ。
  1980年モスクワ・オリンピックの放送権を、1977年にテレビ朝日(当時=日本教育テレビ)がほぼ単独で獲得し、放送計画を立てていた。しかし、1979年12月にソ連(当時)のアフガニスタン侵攻で、日本を含む西側諸国がモスクワ・オリンピック大会をボイコットする事態になった。

 この結果、テレビ朝日は多大な損失を被った。この時の経緯を後に民放各局が共有し、様々な事態を想定して保険に関する研究をしてきたという。そこでは、当然、感染症による被害、損失、大会中止なども研究されてきたであろう。

 そして今年、感染症の世界的流行という事態が、実際に表に現れた。事件、事故、テロに対して備えるだけでは足りない。今回のような事態を前にして、保険会社、スポーツ大会の主催者、テレビ局は、遅からず新しい指針を出してくることになるだろう。

文●石田英恒
 

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