ONE 青木真也がプロの格闘家として見つめる未来「僕の一番のアドバンテージは、自分自身の歴史」

ONE 青木真也がプロの格闘家として見つめる未来「僕の一番のアドバンテージは、自分自身の歴史」

クリスチャン・リーとの対戦では1本を決める寸前までいった。(C)ONE Championship

5月9日に誕生日を迎え37歳になったばかりのONEライト級世界王者、青木真也。昨年3月31日に開催されたONEチャンピオンシップの日本初大会のメイン、ライト級世界タイトルマッチで王者のエドゥアルド・フォラヤンに肩固めで一本勝ちし新王者に輝いた青木は、大会後の会見でONE新世代エースのクリスチャン・リーを挑戦者として逆指名する。

 わずか1カ月半後のシンガポール大会(5月17日開催)で防衛戦では、序盤から主導権を握り、最強の挑戦者から一本を決める寸前までいったが、まさかの逆転TKO負け。そして、10月13日のONE2度目の日本大会では、前回以上に日本勢の活躍に注目が集まる中、元ONEフェザー級世界王者のホノリオ・バナリオをダースチョークで一蹴。出場日本人選手にとっての”トリの大一番“を見事に締めくくった。

 今年に入ってから新型コロナウィルスの感染拡大が強まり一気に自粛ムードが高まった中で4月17日に開催された「Road to ONE:2nd」のメインに出場。日本の柔術界のトップ選手の世羅智茂とグラップリングマッチで戦い、試合後のマイクで、「いつ死んだっていいんだよ、辞めてもいいんだ。日々いやなことと向き合って、クソみてぇな世の中と戦っていくんだ。生きるって言うのは目の前にあることと戦うことだ。」と咆哮。格闘技業界のみならず、日本社会に於いても、その唯一無二な存在であることを印象付けた。

 業界の風雲児と呼ばれて久しい 37歳の“青木真也”は今、何を考え、思うのか。
 ――キャリア50戦以上。数々の王座を獲得し、現役を続けながらも、世界レベルですでにレジェンドの称号も手にした。その青木選手にとって勝敗とは?勝敗を超えるものとは? 
「その質問は、勝敗を超えた試合みたいなものが存在するって考え方ですか?」

――そうですね。その様な試合を意識していますか?例えば、心を揺さぶるとか、観た人間が一生心に残るとか。私はその様な試合は存在すると考えます。
「それで言うと、当然、勝敗を超える試合はあります。観た人間の心を、感情を揺さぶるものです。でも、プレーヤーが最初から勝敗を越えようと思ってやるのは、何の価値もないと思う。要は、徹底的に勝敗にこだわるからこそ、その勝敗ってものに感情を揺さぶる価値が出てくると思う。多くの人たちが勘違いしている様ですが、勝敗を超えた試合なんてものは、極論では、そもそも存在しないんです。徹底的にこだわるからこそ、そこに勝敗を超える所に何かが生まれる。そう考えます」

――例えば、試合序盤から互いが殴り合う様な試合が過去の名勝負として人気があります。青木選手にとって、あの様な試合はどう映る?
「僕の価値観では、盛り上げれば良いんだと思ってやっているのであれば、“格闘技”としては逃げだと思う。最初から勝敗を超えるとか、闇雲に殴りあって観客を盛り上げるっていうのは、僕の価値観の中では、一番ズルイというか、逃げというか、 横着をしていると言うか、僕はそう思います」

――自分のONEでの試合の中で、観客の心を揺さぶった試合は?
「全てにそれなりの手応えはあるけれど、それは感じた(観る)側の問題だと思います。僕からどの試合に手応えがあったかって言うのは、一概には言えないです。全て、それなりに手応えもあったし。ある程度のキャリアあってから(ONEに)加入していますから、それなりの力量がついてからやっていますからね」
 ――“青木真也”としてのプロ格闘家とは?
「僕は“自分の物語”を作っています。それは唯一無二のもので、僕にしかできないことをやっていると思う。そういう意味で言えば、日本の格闘技界やマット界を見ても、なかなか居ない存在だと思うし、自分を定義するプロ格闘技はここ2年、3年はちゃんとできていると思います。ただ、周りの理解がなかったり、まぁ、理解を求めている時点で甘えかもしれません。ですが、自分の物語や自分の作っていくことに対して、はっきり言って、孤軍奮闘しています。正直、今はそれにちょっと疲れている感じはありますね」

――その“青木真也”が作ろうとしている物語とは?
「やはり、感情を揺さぶるものです。物語をそうさせるには、僕の一番のアドバンテージと言ったら、自分自身の歴史だと思います。ただ試合をしているだけではなく、より多くの人の“自分ごと”になるようなものに、その“物語”がなればと思います」
 ――「Road To ONE:2nd」の試合後、“いつやめたって良い”という発言がありました。青木選手にとっての引退とは?
「引退って言うのは、僕の概念では、極論、存在しません。引退とは“試合を止める”ことを引退と言うから。スポーツ選手のセカンドキャリアみたいな言葉があるじゃないですか。それは“選手生活が終わったら、生まれ変わる”みたいな世界観ですよね。僕にはその考えはない。たまたま、試合をしなくなっただけ。昔から言い続けていますが、日常を切り取ったものが試合なんです。日常を切り取ったものが、試合じゃなくて違う形で出すようになる。つまり、引退っていうのは“ただ試合をしなくなる”それだけのことです。だから、引退ということを特に考えたことはないです」
 ――今、試合で誰と戦いたい? 
「どう言った選手と戦いたいって言うのは、ありません。誰でもいい。とにかく、試合がしたい。その中で、単純にコツコツやって、自分の物語を見せていこうと思っています。勝つことも失敗することもコンテンツに繋げていける、その自信はあります」

――青木選手のインスタグラムで、岩本選手や山中選手との練習が幸せという表現を使っていました。幸せとは?
「幸せというのは、自分がどう感じるか、主観的なものだから、難しい問題ですよね。僕自身は、実はずっと幸せなんか感じる事はないのかもしれないし、もっと言うと、そういうものを感じたら、一つ終わりなのかもしれない」
 ――甘えてしまうから、ということですか?
「いえ、満足してしまう。これもよく言うんだけど、バルセロナ・オリンピックで岩崎恭子さんが、今まで一番生きた中で一番幸せでしたって言ったんですよね。金メダリストやプロのスポーツ選手は、人生における頂点みたいなものが、人よりも早く来るじゃないですか。だから、ある意味、とてもつらい生き方だと思います」

――今、したいことは?
「(試合以外は)なんとも答えるのが難しい部分ではありますね。今は色々とあっても目の前にあることをコツコツとやる。それはそれでいいのか、充実しているのかもしれない。そう思っています」

 格闘技に純粋に向かい合う男が、この先の見えない時代、世の中に救いを求めるのではなく、救いを与えようとしている姿が見えた。

構成●THE DIGEST編集部
協力●ONE Championship

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