ウィザーズの育成コーチが語る、高校まで日本で過ごした八村塁の“課題”と“伸びしろ”とは?

ウィザーズの育成コーチが語る、高校まで日本で過ごした八村塁の“課題”と“伸びしろ”とは?

今季を通して八村を指導してきたアドキンスACが、シーズン再開に向けた選手の様子や、八村の1年目について語った。(C)Getty Images

NBAは6月5日(日本時間6日、日付は以下同)、NBA選手会(NBPA)の承認をもって、7月31日から今季の“第2幕”がスタートすることが決定した。

 この“第2幕”に参戦する22チームの中には、日本が誇る22歳の至宝、八村塁が所属するワシントン・ウィザーズも含まれている。イースタン・カンファレンス9位のウィザーズは、ここまで24勝40敗(勝率37.5%)。8位のオーランド・マジック(30勝35敗/勝率46.2%)とは5.5ゲーム差、7位のブルックリン・ネッツ(30勝34敗/勝率46.9%)とは6.0ゲーム差のため、プレーオフ出場への道は依然として厳しいことに変わりはない。

 それでも、レギュラーシーズンとして行なわれる再開後の8試合で大きく勝ち越し、8位のチームと4.0ゲーム差以内で終えることができれば、プレーオフ出場をかけて“プレーイン・トーナメント”に持ち込むことが可能となる。
  もしそこでウィザーズが2連勝を飾れば、大逆転でプレーオフへと駒を進められるだけに、貴重な経験となるのは間違いない。その反面、プレーオフ進出となれば今年のドラフト指名順位が1巡目中位へと下がるのだが、若手の育成を目標に掲げるこのチームにとって、大舞台を経験できるのはそれ以上の価値があると言っていいだろう。

 そのウィザーズは、5月29日に練習施設「メッドスター・ウィザーズ・パフォーマンスセンター」を解禁。6月4日に更新された日本語版公式ツイッターでは、選手たちが自主トレを行なっている模様を伝えており、デイビッド・アドキンスAC(アシスタントコーチ)は練習施設解禁に至るまでの経緯を明かしている。

「まずチームの練習施設が安全に再開できるように、しっかりとガイドラインを定めた。チームドクター、スポーツサイエンスのスペシャリスト、トレーナー、皆が力を合わせてきた。ワシントンD.C.の公共施設がいつ解禁されるのかが分からなかったから、1か月前から再開の準備をしてきた。きめ細かい手順が定められていてね。施設への入場方法、体温のチェック、靴底の消毒を経て、あらかじめ必要なものは全てコート上に用意されている。選手1人1人に専用の椅子があり、用具とボール2個がそれぞれ用意されている。選手たちはその用意されたボールしか使ってはいけないんだ」
  練習施設解禁後も厳しい条件の中でワークアウトに励む過程では、意外な苦労もあるようだ。

「施設に入ってワークアウトができるのは同時に4人、最大で4人だ。コートに2人、ウェイトルームに2人で、交互に使っている。彼らの練習が終わると、また新たに4人入ってくる。練習はすごくはかどっているよ。他のチームのコーチ陣とも連絡を取り合っているけど、選手はどうやらリバウンドを取りに行くのが面倒だと文句を言っているようだ(笑)。普段はコーチが複数付いているから、選手が自らボールを拾いに行くことはないからね」

 それでも、「施設に戻ってくることができたんだから、すごく喜ばしいこと。選手たちはリフレッシュできているし、楽しんでるよ。でもコンディションが落ちていて、スタミナを取り戻すには少し時間がかかりそうだ」と、実戦に向けて長い目で見ているという。

 選手育成担当のアドキンスACは、ウィザーズが昨年6月のドラフトで八村を指名後、日本へ赴いて八村のトレーニングに常駐。アメリカへ戻った後も、八村と付きっきりで指導を施してきた。そして今回、毎試合前に行なっているフィルム・セッションの内容を明かした。
 「(内容は)次第に変わっていったが、シーズン序盤の25試合くらいは相手選手と初対戦だったから、相手チーム、マッチアップ相手の映像チェックをしていた。相手がオフェンスで仕掛けてきそうなプレーをチェックしていたよ。若手選手たちにとって最も重要なことの1つは、NBA選手を知り尽くすこと。相手チームに所属するロースター全員に対して詳しくなることだ。ルイは今シーズン、多くの選手たちと初対戦だったからね」

 アドキンスACは高校まで日本でプレーしていた八村について、「AAU(アマチュア運動連合)を経験していないし、アメリカの高校でバスケットをしていない。でもアメリカの選手たちというのは、プロ入りする前からお互いに対戦していることが多いんだ」と指摘し、こう続けた。

「ルイのような選手の場合、レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)が分かっていても、ルー・ウィリアムズ(ロサンゼルス・クリッパーズ)についてはあまり詳しくないかもしれない。スーパースターのことは分かっていても、他の選手たちについては詳しくない場合がある。でも、どんな選手であろうと、詳しくならなければいけないんだ。だから最初は対戦相手の傾向をチェックしていたよ。そのハードルをクリアしたところで、今度は自身の映像をチェックするようになった。ディフェンス、オフェンスの映像を見て、修正するポイントをおさらいした。例えば、ウィークサイドでディフェンスする時のポジショニングでは、相手のスクリーンに対してもっと上がった方がいい、スイッチ後はポストに埋もれてはいけない、とかね」
  八村は開幕から先発パワーフォワードとして平均29.7分出場(チーム2位)、13.4点(同3位)、6.0リバウンド(同2位)と、チームの主力として活躍してきた。昨年12月中旬には鼠径部の負傷で約1か月半の離脱を余儀なくされたが、アドキンスACは八村のある点を高く評価する。

「ルイの素晴らしいところは、すごく頭が切れることだ。1つ1つ取り組もうとしているよ。でも情報量が多すぎて、混乱させるのは良くない。1週間前の試合でミスがあったとしても、ルイはしっかりと修正できるんだ。我々の指導としては技術面のおさらいが多いかな。フットワークやディフェンス時における手の使い方、ポジショニング、それと意識の持ち方についても指摘している。トランジションディフェンスで自分のマークマンだけに付くんじゃなくて、ボールがどこにあって、どこからシュートが打たれるのか、といったことを把握すること。相手チームのスキームとコンセプトを理解することとかね」

 3月には2試合連続でフィールドゴール成功ゼロ(0/14)と苦しんだ時期もあったが、アドキンスACは八村へ「いいイメージを取り戻させるために、活躍した試合の映像を見せた」と振り返る。同時に、メンタル面についても指導してきたという。
 「NBA選手というのは、世界で最も優れたアスリートなんだ。でも選手が自信を失ってしまうこともある。だから厳しく言わないといけない時はそうするし、『お前はすごい選手なんだ、忘れるなよ』と褒めて伸ばすことだってある。でもルイがどんなにすごくても『相手選手もすごいんだ』と念を押すようにしている。このリーグでは毎試合、全力で臨まなければならない。でも誰だってそう出来ない時はある。だから毎試合を全力で戦うという意識が必要なんだ。そして我々が求めている“全力”がどれほどのものなのかを分かってもらうために、この過程が必要なんだ」

 八村が今季プレーした41試合の中には、ショットが好調な日もあれば、打っても打ってもボールがリングに嫌われる日、ファウルトラブルで思うようにプレーできない日もあった。それでも、アドキンスACやスコット・ブルックスHC(ヘッドコーチ)、あるいはブラッドリー・ビールといったチームメイトたちの助けを得て、克服してきた。

 フロリダ州オーランドで行なわれるレギュラーシーズン8試合の対戦相手は、いずれも勝率でウィザーズを上回るだけにタフな試合が続くだろう。そのなかで、八村が“今季の集大成”としてどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、大いに期待したい。

文●秋山裕之(フリーライター)

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